13 / 33
13.金蘭
しおりを挟む
私もよくは知らないのだけれど、昔、上海には金蘭大夜総会のような店があったそうなの。
お姫様に連れられて、幼いママや暁子や大哥はそこにしょっちゅう出入りしていた。私のように。
このお店だって豪華で、お城や舞台みたいだけれど、暁子は、あの店はもっとすごかったわ、といつも言う。
もしかしたら過去の記憶だから、彼女の記憶の中でもっと素晴らしいものになっているだけなのかもしれないけれど。
大哥もあの店は極楽だったと言うのだから、やっぱり豪華絢爛な店であったのは間違いないようです。
もともと金蘭夜総会の土地の権利は、その女主人が暁子に託したものだったようです。
戦後の混乱期、暁子はそれを大哥と大哥のお父様に預けていた。
香港人ですし、お父様はここで長く商売をしていましたから。
それに、裏の社会にも顔が利く方でした。
香港では良い事をする時も悪い事をする時も、それはとても重要なことだから。
その権利書は高貴な方のお墨付きだったようで、見せられた時に大哥のお父様は押し頂くようにされたとか。
「暁子は、昨日食べたおかずも覚えていないくせに、昔の事はよく覚えているのよ」
とママは笑っていました。
ママは、昔の事なんて全部すっかり忘れてしまうから。
ママは現役の女優でしたが、新人女優に指導もしていました。
もうあの頃は、女優や俳優だからと粵劇も京劇も嗜む必要もないのだけど。
だけど、若い女優達は、皆ママに教えを受けたがっていたの。
私は、大学を卒業してそのまま大学の事務室で働いたり、あとはお店を手伝ったりしていたの。
女優にならないかとかいう話もあったけれど、ママを見ていたでしょう?
大哥は大反対だったし、自分でも俳優というものは才能というか、やっぱりどこか大きく突出したところがあるから欠落した部分もある人がなるものだと思っていたから。私はそこまでの個性は無いもの。
ああ、でも、モデルというのはいくつかやりましたよ。
今はもうないけれど、アメリカの大きな航空会社や旅行代理店の宣伝ポスターに使うもの。
当時、流行っていたのは、襟の高い体のラインがぐっと出るものだけれど。
育ちのいい娘はそんなの着れなかった。
その頃から私はやっとママと違う服を揃え始めたの。
私も、襟がもう少し低くて袖が広がったものを着ていましたね。
まあでもだいぶお洋服の時代でしたよ。
・・・そうそう、アルバムのこれなんて覚えていますね。
クリーム色のシルクのボウタイつきのワンピースに、ネイビーのスカート。
このタイに飾ったカメオは桜子ちゃんのママの成人のお祝いにあげましたねえ。大きなカメオでしょう。イタリアの昔のもので、マリア様が彫られているの。もちろんおばあちゃんのママのものでした。ママはキラキラする宝石の類が好きで、あまりカメオには興味はなかったけれど。
暁子がママに用意した宝飾品の中で一番高価なもの。
そう、あの子も大切にしてくれているのね。
このカメオはすっかりあの子の物になったのでしょう。
とても、嬉しいことだわ。
お姫様に連れられて、幼いママや暁子や大哥はそこにしょっちゅう出入りしていた。私のように。
このお店だって豪華で、お城や舞台みたいだけれど、暁子は、あの店はもっとすごかったわ、といつも言う。
もしかしたら過去の記憶だから、彼女の記憶の中でもっと素晴らしいものになっているだけなのかもしれないけれど。
大哥もあの店は極楽だったと言うのだから、やっぱり豪華絢爛な店であったのは間違いないようです。
もともと金蘭夜総会の土地の権利は、その女主人が暁子に託したものだったようです。
戦後の混乱期、暁子はそれを大哥と大哥のお父様に預けていた。
香港人ですし、お父様はここで長く商売をしていましたから。
それに、裏の社会にも顔が利く方でした。
香港では良い事をする時も悪い事をする時も、それはとても重要なことだから。
その権利書は高貴な方のお墨付きだったようで、見せられた時に大哥のお父様は押し頂くようにされたとか。
「暁子は、昨日食べたおかずも覚えていないくせに、昔の事はよく覚えているのよ」
とママは笑っていました。
ママは、昔の事なんて全部すっかり忘れてしまうから。
ママは現役の女優でしたが、新人女優に指導もしていました。
もうあの頃は、女優や俳優だからと粵劇も京劇も嗜む必要もないのだけど。
だけど、若い女優達は、皆ママに教えを受けたがっていたの。
私は、大学を卒業してそのまま大学の事務室で働いたり、あとはお店を手伝ったりしていたの。
女優にならないかとかいう話もあったけれど、ママを見ていたでしょう?
大哥は大反対だったし、自分でも俳優というものは才能というか、やっぱりどこか大きく突出したところがあるから欠落した部分もある人がなるものだと思っていたから。私はそこまでの個性は無いもの。
ああ、でも、モデルというのはいくつかやりましたよ。
今はもうないけれど、アメリカの大きな航空会社や旅行代理店の宣伝ポスターに使うもの。
当時、流行っていたのは、襟の高い体のラインがぐっと出るものだけれど。
育ちのいい娘はそんなの着れなかった。
その頃から私はやっとママと違う服を揃え始めたの。
私も、襟がもう少し低くて袖が広がったものを着ていましたね。
まあでもだいぶお洋服の時代でしたよ。
・・・そうそう、アルバムのこれなんて覚えていますね。
クリーム色のシルクのボウタイつきのワンピースに、ネイビーのスカート。
このタイに飾ったカメオは桜子ちゃんのママの成人のお祝いにあげましたねえ。大きなカメオでしょう。イタリアの昔のもので、マリア様が彫られているの。もちろんおばあちゃんのママのものでした。ママはキラキラする宝石の類が好きで、あまりカメオには興味はなかったけれど。
暁子がママに用意した宝飾品の中で一番高価なもの。
そう、あの子も大切にしてくれているのね。
このカメオはすっかりあの子の物になったのでしょう。
とても、嬉しいことだわ。
1
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる