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TIME0:鳴海優人の事情
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* * * * *
違和感を覚えたのは、いつまでたっても既読のつかないメッセージ画面を見た時だった。
……あれ? これ、もしかしてブロックされてね?
試しにスタンプなんかも送ってみたが、一向に読まれる気配はない。なんでだ? 何か気に触ることでもやってしまったのだろうか。顔面蒼白になった俺は急いで協力者の元へ向かった。
「メッセージに既読がつかない? は? アンタなんかやらかしたの?」
「わかんねーから聞いてんだろーが」
俺の協力者であり部活のマネージャーである中原皐月は不機嫌そうに顔を歪める。
「なによその態度。アンタね、あたしのおかげで一花と話せてるってこと忘れないでよ! むしろひれ伏せ! 敬え! 感謝しろ!」
俺はぐっと押し黙る。それを言われると、反論出来ない。
……そう。実はこの〝友達計画〟は笹川さんのためじゃなく俺のための計画だと言ってもいい。俺が笹川さんと仲良くなりたくて──いや、好きな女の子と距離を縮めたかったから。
笹川さんは覚えてないかもしれないけど、俺が彼女と出会ったのは中学一年生の時。
ある日の通学途中、木の上から降りられなくなっていた猫を見つけた。こげ茶色の体に黒いしま模様が入ったキジトラ猫。細く伸びた枝にしっかりとしがみつき、困ったように小さな声で鳴き声を上げている。
「大丈夫だからな~。ちょっと待ってろよ~?」
俺は声をかけながら木に登り、助けようと手を伸ばす。その瞬間、猫は興奮したのかパニックになって暴れ出した。木の上では震えておとなしかったくせに、本性はずいぶん元気な奴らしい。
「わっ! ちょ、大丈夫だから! 大丈夫だから落ち着けって!」
動物に言葉が通じるはずはない。シャーシャーという威嚇と強烈な猫パンチを繰り返されながら、なんとか猫を抱き上げ地上に降りる。猫は怪我をしているみたいだったので、俺は一旦家に連れ帰ることにした。突然戻ってきた息子と鞄の中から顔を出している猫に驚いている母さんに事情を説明して、とりあえず動物病院に連れて行ってもらう。付き添おうと思って待機していると、母さんに「アンタは学校に行きなさい!」と言われたので、仕方なく学校に向かった。完全に遅刻だけど、まぁしょうがない。
怒られるのを覚悟で職員室に入ると、慌てた様子の先生からすぐに保健室に行くように言われた。どうやら猫に引っかかれた腕の傷に驚いたらしい。あんまり気にしてなかったけど、中には血が固まっている傷もあった。あー、これは確かにちゃんと手当てしてもらった方が良さそうだ。
言われた通り保健室に行ってみたが、残念ながら先生はいなかった。代わりに、一人の女子生徒が椅子にちょこんと座っていた。耳のあたりで二つに結ばれた黒い髪、白い肌、くりっとした大きな目。制服も新品っぽいし、たぶん同じ学年だろう。……ぶっちゃけ可愛い。柄にもなく緊張しながら、俺は彼女に声を掛けた。
「あーっと、先生は?」
彼女はハッと息を呑むと、真っ青な顔をしてふるふると首を横に振った。これはどこに行ったか知らないってことか? 話してくれないからわかんねーけど。ていうか、なんかめちゃくちゃ怖がられてる気がするんだけど……俺何もしてなくね? もしかして目付きワリィから? だとしたらちょっとショックなんですけど。
つーか、これからどうしよう。先生が来るまで待つか、教室に戻るか。でもこのまま戻ったら担任がうるさいだろうし……。
「う、腕」
「え?」
一人で悩んでいるとか細い声が聞こえ、思わず顔をあげる。
「傷口……洗った方がいいと思います。バイ菌が入ると大変だし、とりあえず」
「あ、ああ。うん」
言われた通り水道で傷口を洗う。結構深い傷もあったのか、ピリピリと滲みてちょっと痛かった。キュ、と蛇口をひねって水を止めると、白いタオルが差しだされる。差し出された方に視線を向けると、これでもかというほど真っ青な顔をした彼女がいた。タオルを差し出す手は震えている。
「どーも」
俺がお礼を言うと、彼女はぎこちなくだが小さく笑った。……その顔を見ると、なぜか心臓のあたりがざわざわした。
「あら、どうしたの? 怪我?」
タオルで腕を拭いていると、保健室の先生が戻ってきた。
「あー、動物か何かに引っかかれたのね。消毒するからそこ座って。笹川さんも留守番ありがとう。もう戻っていいわよ」
先生に言われると、彼女はぺこりと頭を下げて保健室を出て行った。へぇ……あの子、笹川さんっていうのか。見たことないけど同じ学年かな。俺の頭は何故か彼女でいっぱいになった。
違和感を覚えたのは、いつまでたっても既読のつかないメッセージ画面を見た時だった。
……あれ? これ、もしかしてブロックされてね?
試しにスタンプなんかも送ってみたが、一向に読まれる気配はない。なんでだ? 何か気に触ることでもやってしまったのだろうか。顔面蒼白になった俺は急いで協力者の元へ向かった。
「メッセージに既読がつかない? は? アンタなんかやらかしたの?」
「わかんねーから聞いてんだろーが」
俺の協力者であり部活のマネージャーである中原皐月は不機嫌そうに顔を歪める。
「なによその態度。アンタね、あたしのおかげで一花と話せてるってこと忘れないでよ! むしろひれ伏せ! 敬え! 感謝しろ!」
俺はぐっと押し黙る。それを言われると、反論出来ない。
……そう。実はこの〝友達計画〟は笹川さんのためじゃなく俺のための計画だと言ってもいい。俺が笹川さんと仲良くなりたくて──いや、好きな女の子と距離を縮めたかったから。
笹川さんは覚えてないかもしれないけど、俺が彼女と出会ったのは中学一年生の時。
ある日の通学途中、木の上から降りられなくなっていた猫を見つけた。こげ茶色の体に黒いしま模様が入ったキジトラ猫。細く伸びた枝にしっかりとしがみつき、困ったように小さな声で鳴き声を上げている。
「大丈夫だからな~。ちょっと待ってろよ~?」
俺は声をかけながら木に登り、助けようと手を伸ばす。その瞬間、猫は興奮したのかパニックになって暴れ出した。木の上では震えておとなしかったくせに、本性はずいぶん元気な奴らしい。
「わっ! ちょ、大丈夫だから! 大丈夫だから落ち着けって!」
動物に言葉が通じるはずはない。シャーシャーという威嚇と強烈な猫パンチを繰り返されながら、なんとか猫を抱き上げ地上に降りる。猫は怪我をしているみたいだったので、俺は一旦家に連れ帰ることにした。突然戻ってきた息子と鞄の中から顔を出している猫に驚いている母さんに事情を説明して、とりあえず動物病院に連れて行ってもらう。付き添おうと思って待機していると、母さんに「アンタは学校に行きなさい!」と言われたので、仕方なく学校に向かった。完全に遅刻だけど、まぁしょうがない。
怒られるのを覚悟で職員室に入ると、慌てた様子の先生からすぐに保健室に行くように言われた。どうやら猫に引っかかれた腕の傷に驚いたらしい。あんまり気にしてなかったけど、中には血が固まっている傷もあった。あー、これは確かにちゃんと手当てしてもらった方が良さそうだ。
言われた通り保健室に行ってみたが、残念ながら先生はいなかった。代わりに、一人の女子生徒が椅子にちょこんと座っていた。耳のあたりで二つに結ばれた黒い髪、白い肌、くりっとした大きな目。制服も新品っぽいし、たぶん同じ学年だろう。……ぶっちゃけ可愛い。柄にもなく緊張しながら、俺は彼女に声を掛けた。
「あーっと、先生は?」
彼女はハッと息を呑むと、真っ青な顔をしてふるふると首を横に振った。これはどこに行ったか知らないってことか? 話してくれないからわかんねーけど。ていうか、なんかめちゃくちゃ怖がられてる気がするんだけど……俺何もしてなくね? もしかして目付きワリィから? だとしたらちょっとショックなんですけど。
つーか、これからどうしよう。先生が来るまで待つか、教室に戻るか。でもこのまま戻ったら担任がうるさいだろうし……。
「う、腕」
「え?」
一人で悩んでいるとか細い声が聞こえ、思わず顔をあげる。
「傷口……洗った方がいいと思います。バイ菌が入ると大変だし、とりあえず」
「あ、ああ。うん」
言われた通り水道で傷口を洗う。結構深い傷もあったのか、ピリピリと滲みてちょっと痛かった。キュ、と蛇口をひねって水を止めると、白いタオルが差しだされる。差し出された方に視線を向けると、これでもかというほど真っ青な顔をした彼女がいた。タオルを差し出す手は震えている。
「どーも」
俺がお礼を言うと、彼女はぎこちなくだが小さく笑った。……その顔を見ると、なぜか心臓のあたりがざわざわした。
「あら、どうしたの? 怪我?」
タオルで腕を拭いていると、保健室の先生が戻ってきた。
「あー、動物か何かに引っかかれたのね。消毒するからそこ座って。笹川さんも留守番ありがとう。もう戻っていいわよ」
先生に言われると、彼女はぺこりと頭を下げて保健室を出て行った。へぇ……あの子、笹川さんっていうのか。見たことないけど同じ学年かな。俺の頭は何故か彼女でいっぱいになった。
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