彼と私のお友達計画

百川凛

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STEP7:友達計画を終了しましょう

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 その話を聞いてしまったのは、偶然だった。

「やっと! やっと地獄のテスト期間が終わったっていうのに委員会の集まりとか急すぎない? なんで今日? テスト終わったばっかりなのに!!」

 テストが終わった当日、開放感を味わう暇もなく委員会の緊急招集がかかった皐月ちゃんは文句を言いながらうなだれる。

「ドンマイ」
「あーあ。せっかくだから帰りに一花の家に寄ってパーっと遊びたかったのに! 明日は一緒に帰ろうね!」
「うん。委員会頑張って」

 教室で皐月ちゃんと別れ昇降口に向かう。二日間にかけて行われたテストの出来は、まぁまぁだったと思う。苦手な数学も、鳴海くんに教えてもらった因数分解はバッチリ解けたし。そんな事をぼんやり考えていると、下駄箱の方から複数の話し声が聞こえてきたので足を止めた。声の高さからそこにいるのは男子生徒だろう。私は反射的に身を隠した。

「やっと! やっと終わったぞ憎きテストのクソ野郎が! つーか部活引退したと思えばすぐテストとかマジやってらんねぇよな~」
「ホントだよな~。早く夏休みになって青春したいよ俺は」
「青春って。一応俺ら受験生なのわかってる?」

 聞き覚えのある声にハッとした。これはたぶん、元バスケ部のみなさんの声だ。もしかしてこの中に鳴海くんもいるのかな? ……だとしたら今ここを出ていくのはなんとなく気まずい。でも、わざわざ来た道を引き返すのは面倒だ。盗み聞きをしてしまう事に罪悪感を覚えるけど、しばらく様子を見てみようかなぁ。

「青春って言えば鳴海さぁ、最近笹川さんとどうなのよ?」

 どうしようかと悩んでいると、突然自分の名前が出てきて思わず肩が跳ね上がった。

「俺もそれ気になってた! てかなんでお前だけ話せんの? 笹川さん男子苦手なのに。ずるくない?」
「俺たちなんてマネージャーのガードが硬くて近付けもしなかったのにさぁ」

 ため息のあとに聞こえてきた鳴海くんの声は、心底面倒くさそうなものだった。

「だから言ってるだろ。俺はただマネージャーに頼まれて話し相手になってるだけだって」

 心臓が嫌な音をたててきしんだ。なんだか嫌な予感がする。この場から離れたいのに、足に根っこが生えたように動けない。

「いやいや、その割には仲良すぎじゃね? こないだの試合も観に来てたしさ!」
「マネージャーと三人で帰ったりもしてんだろ?」
「いいな鳴海、もうすっかり友達じゃん!」
「羨ましいぞこの野郎!」

 チッという不機嫌そうな舌打ちが響いた。

「うっせーな。別に俺は笹川さんと友達になんてなりたくなかったよ」

 鳴海くんの低い声がナイフのように胸に突き刺さった。私はヒュッと息を呑む。揶揄うように騒いでいた周りの男子も何も言えないようで、空気が張り詰めたのが分かった。

「好きで友達ごっこなんてしてるわけじゃねーよ。俺は……俺は──」

 そこからの事は正直よく覚えていない。気付けば誰の声もしなくなっていて、私はグッと歯を食いしばった。

 ……そっか。鳴海くんは皐月ちゃんに頼まれたから仕方なく私に協力してくれたんだった。そうだよね。うん、知ってた。確かに最初から言ってたもん、無理やりだったってことくらい分かってたよ。でもさぁ、嫌なら嫌ってハッキリ言ってよ。だって、私と友達になりたくないならなんで一緒に帰ったの? なんで電話してきたの? なんで試合に誘ったの? なんで一緒に勉強したの? 私と友達になりたくないならあんな風に笑わないで。あんな風に優しくしないでよ!!

 ボロリと大粒の涙が床に落ちた。透明な雫は拭っても拭っても後からポロポロとこぼれ落ちて来る。

 私は鳴海くんに貰った猫のキーホルダーを鞄から取り外して奥底にしまった。

 ああ、家に帰ったら彼のSNSはすぐにブロックしよう。電話は着信拒否にしよう。明日からは話しかけないようにしよう。水曜日も一緒に帰らない。なるべく関わらないようにしよう。

 涙は未だに止まらない。

 男の子なんて嘘つきで、意地悪で、乱暴で、ろくなもんじゃない。前向きになった気持ちが一気に崩れ落ちた。

 皐月ちゃん、せっかく協力してくれたのにごめんね。私やっぱり、男の子なんて大嫌いだよ。
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