彼と私のお友達計画

百川凛

文字の大きさ
上 下
18 / 29
STEP5:応援に行きましょう

しおりを挟む
「わぁ。すごい……」

 会場の広さと人の熱気に、思わず声が出てしまった。今まで運動部、ましてや大会なんかとは縁のない生活を送ってきたので、初めて見る光景にただただ驚くばかりだ。

 ロビーには各校のバスケ部員や応援の生徒たちで溢れていた。貼り出されたトーナメント表を見ると、うちの学校の一回戦はBコートで9時半試合開始らしい。まだ少し時間はあるけど、私は観覧席に向かうことにした。途中、学校名が入ったお揃いのジャージを着た背の高い集団を見かけたので、少し遠回りをして会場に入った。個人ならまだしも、男子の集団はやっぱり苦手だ。

 うちの学校の応援席を見つけて、適当な場所に静かに座る。コートの中では各チームがウォーミングアップを行っていた。……あ、居た。こんなにたくさん人がいるのに、鳴海くんの姿はすぐに見つけられた。たぶん、仲良くなったから視界に入りやすくなっているのだろう。それからすぐ、監督の横に座って何かを書いている皐月ちゃんの姿も見つけた。今日も高い位置で結ばれたポニーテールがよく似合っている。

「あっ、鳴海先輩いたよ!」
「どこどこ?」
「ほら、あのゴールの近く!」

 斜め前に座っていた女の子二人の会話が耳に入る。鳴海くんの名前が聞こえて、何も悪いことをしてないのにドキッとした。

「みんなお揃いのミサンガしてるんだねぇ、かわいい!」
「あれ? でも鳴海先輩だけ2本つけてない?」
「嘘っ!? うわ、ほんとだぁ! あれって彼女から貰ったのかな~? ショック~!」

 か、かかか彼女!? 思わず顔が赤くなる。お、おおお落ち着け私。実際は彼女じゃないんだから気にしなくて全然いい。それに、私があのミサンガをあげたことは本人と皐月ちゃん以外は誰も知らないんだから大丈夫。彼女が私だって誤解されるはずがない。うん、落ち着いてきた。ふぅ、と小さく息を吐く。……でも、そっか。事情を知らない人から見るとそんな風に誤解しちゃうのか。

「鳴海先輩の彼女ってあのマネージャーさんかなぁ?」
「えー! やだぁ!! うう……でも悔しいけどお似合いなんだよねぇ」
「マネージャーさん明るくて美人だしなぁ」
「鳴海先輩も気を許してる感じするし。あーあ。あたしもマネージャーやれば良かった!」

 皐月ちゃんが鳴海くんの彼女……? 確かにあの二人は仲が良いけど……付き合ってはいないはずだ。……よね? それに、皐月ちゃんはそんな不純な動機でマネージャーやってるわけじゃないし。う~ん、なんだか胸がモヤモヤするのは気のせいだろうか。

「あっ、鳴海先輩シュートする!」
「ほんとだ! やばい! かっこいい!」

 女の子たちはキャーキャーと黄色い声を上げる。たった数秒前まで彼女がどーのとか言ってたのに……切り替えが早い。見たことない子たちだけど同じ学校の子だろうか。さっき先輩って呼んでたから、たぶん後輩なんだろう。鳴海くんは人気があるって聞いてたけど本当だったんだなぁ。彼女たちの姿を見ていると、胸のモヤモヤがさっきより濃くなった気がした。

 気付くと試合開始時間が迫っていたようで、両チームとも整列して挨拶を交わしていた。おっといけない。せっかく応援に来たんだから、今は余計なことは考えず試合に集中しないと。

 ええと、白地に紺色の文字が書かれたユニフォームがうちの学校で、派手なオレンジ色のユニフォームが相手の学校か。よし、覚えた。

 ピー! という一際高い笛の音を合図に、試合が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

その答えは恋文で

百川凛
児童書・童話
あの手紙を拾ったことが、全ての始まりだったのだ。 「成瀬さん、俺の彼女になってみない?」 「全力でお断りさせて頂きます」 「ははっ。そう言うと思った」 平岡くんの冗談を、私は確かに否定した。 ──それなのに、私が平岡くんの彼女ってどういうこと? ちょっと待ってよ、ウソでしょう?

あさはんのゆげ

深水千世
児童書・童話
【映画化】私を笑顔にするのも泣かせるのも『あさはん』と彼でした。 7月2日公開オムニバス映画『全員、片想い』の中の一遍『あさはんのゆげ』原案作品。 千葉雄大さん・清水富美加さんW主演、監督・脚本は山岸聖太さん。 彼は夏時雨の日にやって来た。 猫と画材と糠床を抱え、かつて暮らした群馬県の祖母の家に。 食べることがないとわかっていても朝食を用意する彼。 彼が救いたかったものは。この家に戻ってきた理由は。少女の心の行方は。 彼と過ごしたひと夏の日々が輝きだす。 FMヨコハマ『アナタの恋、映画化します。』受賞作品。 エブリスタにて公開していた作品です。

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1、ブザービートからはじまる恋〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※第15回童話・児童書大賞用作品のため、アルファポリス様のみで掲載中。→noichigoさんに転載。

ミズルチと〈竜骨の化石〉

珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。  一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。  ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。 カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。

ずっと、ずっと、いつまでも

JEDI_tkms1984
児童書・童話
レン ゴールデンレトリバーの男の子 ママとパパといっしょにくらしている ある日、ママが言った 「もうすぐレンに妹ができるのよ」 レンはとてもよろこんだ だけど……

処理中です...