駄菓子屋六角堂の騒がしい日常

百川凛

文字の大きさ
上 下
8 / 13

しおりを挟む



 花森小町様

 拝啓
 先日は弊社の社員採用試験にご応募いただき誠にありがとうございました。
 慎重な選考の結果、今回は残念ながら採用を見送らせていただくことになりました。────



 相変わらず就活の方はまったく成果が出ず、見慣れた不採用通知に枯れたはずの溜息をついた。どこの会社も似たり寄ったりのテンプレ文章でつまらない。もっと捻りを加えたりとかできないわけ? なんて心の中で無駄に文句を言って憂さ晴らしをする。あーあ。次に受けるとこ探さなきゃ。あたしは気持ちを切り替えバイトに向かった。


「……あれ?」


 信号待ちをしていると、向こう側の道路に制服姿の鳴海くんを見かけた。しかし、その顔は六角堂で見ている雰囲気とは違い鋭くて冷たい。周りを遮断するようにイヤホンをつけ、光のない目で足早に去って行く。あたしは角を曲がって見えなくなるまでその姿を追っていた。……あれは本当に鳴海くんだろうか。もしかして見間違い? いや、でも鞄にお掃除戦隊クリーンファイブのキーホルダーをじゃらじゃらとつけてる男子高校生は多くないだろうし、本人の可能性が高い。

 声を掛ける暇もなく──というか、とてもじゃないけど声を掛けられる雰囲気ではなかった。ふと気付くと、とっくに青に色を変えていた信号は点滅していて、あたしは慌てて横断歩道を渡った。





「だぁーかぁーらぁー! きのこ派かたけのこ派かっつったらどう考えてもきのこだろ!? なんでわかんねーの!?」

 健太くんがお菓子の箱を握り潰しそうにしながら叫ぶ。

「えー? 僕はたけのこ派だなぁ。だってほろほろで美味しいもん」
「オレもたけのこ派ー」
「はぁ!? 裏切り者め!!」

 その日、六角堂ではきのこ・たけのこ戦争が勃発していた。

 きのこ・たけのこ戦争とは、某有名メーカーが発売している有名なスナック菓子シリーズの「きのこ」と「たけのこ」のどちらが好きかという決着のつかない論争だ。

 ちなみに、きのこ派は柳田さんと健太くん、たけのこ派はあたしと淳一くんと隆史くんと鳴海くんの四人である。二対四という数では有利なたけのこ派だが、きのこ派の二人は口が回る強敵だ。しかし、ここは負けられない。

「何言ってんのよ。たけのこのしっとりした食感なんてめちゃくちゃ美味しいじゃない。クッキーとチョコの溶け具合なんて神の領域!」
「あ゛? それを言うならきのこのカリッとした食感とチョコとのバランスの方が最高だろうが」

 あたしの意見に柳田さんが舌打ちをしながら反論する。

「そうだそうだ! あのカリっとの魅力がわかんねーなんてお前らおかしいぞ!?」
「ケンちゃんこそ! クッキー部分の美味しさがわかんないなんてありえないよ!」
「なんだと!?」

 小学生の論争は白熱していく。

「ははっ。盛り上がってるねぇ」

 チラリと様子を伺うと、鳴海くんは楽しそうに笑っていた。さっき見た時とは違い雰囲気はやわらかい。いつもの鳴海くんだ。

「俺のことそんなに見つめてどうしたの小町ちゃん」
「えっ!?」

 あまりに見すぎたのか、鳴海くんが不思議そうに言った。あたしは慌てて誤魔化す。

「いや、あの! そ、そう! たけのこ派エースである鳴海くんの意見が聞きたいなぁと思って!」

 そう言うと、鳴海くんは「それじゃあ期待に応えましょうかね」とニヤリと口角を上げ立ち上がった。

「よく聞きたまえ、きのこ派の諸君。全国の調査でも圧倒的にたけのこ派が多いんだ。君たちが何を言おうがこの事実は覆せない! まず第一に、」


 ──鳴海くんの本格的な論破が始まった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

マキノのカフェで、ヒトヤスミ ~Café Le Repos~

Repos
ライト文芸
田舎の古民家を改装し、カフェを開いたマキノの奮闘記。 やさしい旦那様と綴る幸せな結婚生活。 試行錯誤しながら少しずつ充実していくお店。 カフェスタッフ達の喜怒哀楽の出来事。 自分自身も迷ったり戸惑ったりいろんなことがあるけれど、 ごはんをおいしく食べることが幸せの原点だとマキノは信じています。 お店の名前は 『Cafe Le Repos』 “Repos”るぽ とは フランス語で『ひとやすみ』という意味。 ここに訪れた人が、ホッと一息ついて、小さな元気の芽が出るように。 それがマキノの願いなのです。 - - - - - - - - - - - - このお話は、『Café Le Repos ~マキノのカフェ開業奮闘記~』の続きのお話です。 <なろうに投稿したものを、こちらでリライトしています。>

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

All You Need Is Love!

朋藤チルヲ
ライト文芸
愛こそすべて! 自らが提示したとある条件が元で、恋人との結婚話が進まない加菜恵。モヤモヤする日々の中、苦手だった祖父の遺品から、消印のない手紙が見つかって……? 読んだあとに心が震える、ハートフル・ヒューマン!

希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々

饕餮
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある商店街。 国会議員の重光幸太郎先生の地元である。 そんな商店街にある、『居酒屋とうてつ』やその周辺で繰り広げられる、一話完結型の面白おかしな商店街住人たちのひとこまです。 ★このお話は、鏡野ゆう様のお話 『政治家の嫁は秘書様』https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981 に出てくる重光先生の地元の商店街のお話です。当然の事ながら、鏡野ゆう様には許可をいただいております。他の住人に関してもそれぞれ許可をいただいてから書いています。 ★他にコラボしている作品 ・『桃と料理人』http://ncode.syosetu.com/n9554cb/ ・『青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -』http://ncode.syosetu.com/n5361cb/ ・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 ・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376 ・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232 ・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ ・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』https://ncode.syosetu.com/n2519cc/

一か月ちょっとの願い

full moon
ライト文芸
【第8位獲得】心温まる、涙の物語。 大切な人が居なくなる前に、ちゃんと愛してください。 〈あらすじ〉 今まで、かかあ天下そのものだった妻との関係がある時を境に変わった。家具や食器の場所を夫に教えて、いかにも、もう家を出ますと言わんばかり。夫を捨てて新しい良い人のもとへと行ってしまうのか。 人の温かさを感じるミステリー小説です。 これはバッドエンドか、ハッピーエンドか。皆さんはどう思いますか。 <一言> 世にも奇妙な物語の脚本を書きたい。

バイバイ、課長

コハラ
ライト文芸
 ある夜、二十才年上の課長に想いの丈を告白したOLのあかり。なんと次の日、課長は死んでしまう。しかし、あかりの前に幽霊になった課長が現れて未練があると言い出し……。  ちょっと切ないラブストーリー。

カフェの住人あるいは代弁者

大西啓太
ライト文芸
大仰なあらすじやストーリーは全く必要ない。ただ詩を書いていくだけ。

実はこれ実話なんですよ

tomoharu
恋愛
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!1年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎ智伝説&夢物語】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎ智久伝説&夢物語】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【智久】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!

処理中です...