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「な、だ、誰だおまえ!!」
「わー! 知らない女の人がいる!」
「ねぇ、おねーさんは誰?」
わらわらと囲まれ一斉に質問される。うっ、無邪気に輝く六つの瞳が眩しい。
「うっせーよお前ら。静かにしろ」
縦ジワを眉間に深く刻んだ柳田さんが言った。子ども相手だろうが無愛想な態度は変わらないらしい。
「おいコラ真尋!! コイツ、この女誰だよ!?」
「もしかして真尋くんの彼女?」
「ヒューヒュー!」
「あ゛? んなわけねーだろ誰がこんなニート女」
柳田さんはものすごく嫌そうな顔をしながら秒で否定する。いや、いくらなんでも失礼すぎない?
「おねーさんニートなの?」
「ニートじゃありません! フリーターです!!」
「ニートって何?」
「オレ知ってる! 大人なのに仕事してない人のことだぜ!」
「え、じゃあどうやって生活してるの? お金は?」
「さぁ? 親に頼るか借金じゃねーの?」
「なるほど~」
「大変なんだね、ニートのおねーさん」
「頑張ってね、ニートのおねーさん」
……わかってる。悪気はないってわかってるんだけど……ちっくしょう!! 人の傷口にグリグリ塩塗りやがって!! ていうか今時の小学生えげつないな!! 哀れみの視線を向けるな六つの瞳!!
「ちょっと! ニートのおねーさんって呼ぶのやめてくれる!? あたしの名前は花森小町! 今日からこの駄菓子屋で働くことになったの!! だから断じてニートじゃないの!」
「なぁ真尋、糸引き飴やっていー?」
「おー勝手に引いとけー」
「やったー!」
「シカトォ!?」
なんなのこの躾のなってないお子ちゃまは!! ていうか商品なのに勝手に引いていいわけ!?
「オレこれにするー!」
「じゃあオレこっちー」
「僕はこれ」
三人はカウンターの前に置いてある瓶の前に立ち、それぞれ楽しそうに引っ張る糸を選ぶ。
ちなみに糸引き飴とは、長いタコ糸の先に大小様々な飴が付いていて、客は束ねられた糸をクジのように引き、どの飴が当たるかを楽しむ駄菓子屋の定番お菓子だ。あたしも小さい頃に一度だけやったことがある。
「せーのっ!」
掛け声に合わせて三人が糸を引っ張った。太めの白い糸の先には、赤、青、オレンジ色に着色された飴が付いていた。円錐形の小さなもの、平べったいもの、まん丸いものと、大きさも形もバラバラだ。
「チッ。小っちぇーやつだ。ハズレかよ」
「やったー! サイダーだー!」
「僕はオレンジだったよ」
「真尋! 金ここに置いとくからな!」
「おー。勝手に置いとけー」
そう一声かけると、三人は慣れたように十円玉をカウンターに置いた。……え、なにこのフリーダム会計。レジいらなくない? 究極のセルフレジだよこれ。いくら相手が子どもだからってこんなに適当な接客見たことないんですけど。この人本当にお店やる気あんの?
小学生三人は慣れたように店内の椅子を端っこに寄せ、持ってきた携帯ゲーム機で遊び出した。しかしまぁ、これでようやく今日の売り上げ三十円だ。予想以上に少ない。
「真尋くーん。表のガチャ詰まったっぽいんだけ……あれ?」
ガタリと開いた扉からひょっこりと現れたブレザー姿の男子高校生。半分ほどしか開いていない気怠げな瞳と視線がぶつかる。
「おねーさん誰?」
彼は首を傾げながらあたしに問う。
「あ、あたしは花森小町です。今日からここでバイトしてて……」
「ふーん。真尋くんが人雇うなんて珍しいね」
「おっせーぞ忍! 早くこっち来て昨日の続きやろーぜ!」
小学生が目の前の男子高校生を大声で呼んだ。
「ちょっと待ってよ。表のガチャポン回したらすぐやるから」
「チッ。じゃあ早くしろよな!」
目の前の男子高校生はこてんと首を傾げる。
「でさぁ小町ちゃん。表のガチャポン、コイン詰まったみたいで回せないんだけど。直してくんない?」
いきなりのちゃん付けタメ口に気を取られている暇はない。 ガチャポン? ってまさかあのなんとか戦隊クリーンファイブ? えー……あれやる人いたんだ。
「爽やかグリーンが出れば全部揃うんだよね。なのに全然出なくてさぁ。他の戦士がめっちゃかぶっちゃって」
「……はぁ」
「良かったらいる? ウォッシュブルーなんて四体あるんだけど」
「いえ結構です」
「えー残念」
「表のガチャポン金詰まったって?」
「あ、真尋くん」
パソコンと向き合っていた柳田さんが奥から出てきた。右手には銀色の鍵が握られている。
「ワリーな、今開けっから。お詫びに好きなの取らせてやるよ」
「マジで? 神対応なんですけど」
「オメーも一応常連だからな。サービスだ」
「じゃあ遠慮なくグリーンで」
「花森、お前も見て覚えろよー」
「は、はい!」
──ガチャポンのコイン詰まりを直し駄菓子屋に戻ると、男子高校生はあたしを呼び止め自己紹介を始めた。
「俺鳴海忍。三雲一高の二年」
「はぁ」
「そこの小学生三人とはゲーム仲間なんだ。アイツらの名前知ってる?」
「いや……聞いてないです」
「じゃあついでに教えておくよ。生意気で仕切り屋なのが健太、真面目で優しいのが淳一、元気で明るいのが隆史。みんな三雲小の四年生だ」
鳴海くんは指を右から順番に動かして名前を告げていく。
「俺らほぼ毎日来てるからさ。名前ぐらい知ってた方がいいでしょ? これからよろしくね、小町ちゃん」
鳴海くんはそう言って笑うと、ゲーム機を取り出して三人と同じテーブルに座った。……そうか。この生意気な小学生たちと毎日顔を合わせるようなのか。精神と体力持つかな……。ぼんやりと考えごとをしていると、健太くんと目が合った。
「なっ、何見てんだよニート女!!」
健太くんは威嚇するように叫んだ。……ああ、これは大変な毎日になりそうだ。一刻も早く就職先を決めないと。休憩時間になると、私はスマホで必死に求人サイトを見てまわった。
「わー! 知らない女の人がいる!」
「ねぇ、おねーさんは誰?」
わらわらと囲まれ一斉に質問される。うっ、無邪気に輝く六つの瞳が眩しい。
「うっせーよお前ら。静かにしろ」
縦ジワを眉間に深く刻んだ柳田さんが言った。子ども相手だろうが無愛想な態度は変わらないらしい。
「おいコラ真尋!! コイツ、この女誰だよ!?」
「もしかして真尋くんの彼女?」
「ヒューヒュー!」
「あ゛? んなわけねーだろ誰がこんなニート女」
柳田さんはものすごく嫌そうな顔をしながら秒で否定する。いや、いくらなんでも失礼すぎない?
「おねーさんニートなの?」
「ニートじゃありません! フリーターです!!」
「ニートって何?」
「オレ知ってる! 大人なのに仕事してない人のことだぜ!」
「え、じゃあどうやって生活してるの? お金は?」
「さぁ? 親に頼るか借金じゃねーの?」
「なるほど~」
「大変なんだね、ニートのおねーさん」
「頑張ってね、ニートのおねーさん」
……わかってる。悪気はないってわかってるんだけど……ちっくしょう!! 人の傷口にグリグリ塩塗りやがって!! ていうか今時の小学生えげつないな!! 哀れみの視線を向けるな六つの瞳!!
「ちょっと! ニートのおねーさんって呼ぶのやめてくれる!? あたしの名前は花森小町! 今日からこの駄菓子屋で働くことになったの!! だから断じてニートじゃないの!」
「なぁ真尋、糸引き飴やっていー?」
「おー勝手に引いとけー」
「やったー!」
「シカトォ!?」
なんなのこの躾のなってないお子ちゃまは!! ていうか商品なのに勝手に引いていいわけ!?
「オレこれにするー!」
「じゃあオレこっちー」
「僕はこれ」
三人はカウンターの前に置いてある瓶の前に立ち、それぞれ楽しそうに引っ張る糸を選ぶ。
ちなみに糸引き飴とは、長いタコ糸の先に大小様々な飴が付いていて、客は束ねられた糸をクジのように引き、どの飴が当たるかを楽しむ駄菓子屋の定番お菓子だ。あたしも小さい頃に一度だけやったことがある。
「せーのっ!」
掛け声に合わせて三人が糸を引っ張った。太めの白い糸の先には、赤、青、オレンジ色に着色された飴が付いていた。円錐形の小さなもの、平べったいもの、まん丸いものと、大きさも形もバラバラだ。
「チッ。小っちぇーやつだ。ハズレかよ」
「やったー! サイダーだー!」
「僕はオレンジだったよ」
「真尋! 金ここに置いとくからな!」
「おー。勝手に置いとけー」
そう一声かけると、三人は慣れたように十円玉をカウンターに置いた。……え、なにこのフリーダム会計。レジいらなくない? 究極のセルフレジだよこれ。いくら相手が子どもだからってこんなに適当な接客見たことないんですけど。この人本当にお店やる気あんの?
小学生三人は慣れたように店内の椅子を端っこに寄せ、持ってきた携帯ゲーム機で遊び出した。しかしまぁ、これでようやく今日の売り上げ三十円だ。予想以上に少ない。
「真尋くーん。表のガチャ詰まったっぽいんだけ……あれ?」
ガタリと開いた扉からひょっこりと現れたブレザー姿の男子高校生。半分ほどしか開いていない気怠げな瞳と視線がぶつかる。
「おねーさん誰?」
彼は首を傾げながらあたしに問う。
「あ、あたしは花森小町です。今日からここでバイトしてて……」
「ふーん。真尋くんが人雇うなんて珍しいね」
「おっせーぞ忍! 早くこっち来て昨日の続きやろーぜ!」
小学生が目の前の男子高校生を大声で呼んだ。
「ちょっと待ってよ。表のガチャポン回したらすぐやるから」
「チッ。じゃあ早くしろよな!」
目の前の男子高校生はこてんと首を傾げる。
「でさぁ小町ちゃん。表のガチャポン、コイン詰まったみたいで回せないんだけど。直してくんない?」
いきなりのちゃん付けタメ口に気を取られている暇はない。 ガチャポン? ってまさかあのなんとか戦隊クリーンファイブ? えー……あれやる人いたんだ。
「爽やかグリーンが出れば全部揃うんだよね。なのに全然出なくてさぁ。他の戦士がめっちゃかぶっちゃって」
「……はぁ」
「良かったらいる? ウォッシュブルーなんて四体あるんだけど」
「いえ結構です」
「えー残念」
「表のガチャポン金詰まったって?」
「あ、真尋くん」
パソコンと向き合っていた柳田さんが奥から出てきた。右手には銀色の鍵が握られている。
「ワリーな、今開けっから。お詫びに好きなの取らせてやるよ」
「マジで? 神対応なんですけど」
「オメーも一応常連だからな。サービスだ」
「じゃあ遠慮なくグリーンで」
「花森、お前も見て覚えろよー」
「は、はい!」
──ガチャポンのコイン詰まりを直し駄菓子屋に戻ると、男子高校生はあたしを呼び止め自己紹介を始めた。
「俺鳴海忍。三雲一高の二年」
「はぁ」
「そこの小学生三人とはゲーム仲間なんだ。アイツらの名前知ってる?」
「いや……聞いてないです」
「じゃあついでに教えておくよ。生意気で仕切り屋なのが健太、真面目で優しいのが淳一、元気で明るいのが隆史。みんな三雲小の四年生だ」
鳴海くんは指を右から順番に動かして名前を告げていく。
「俺らほぼ毎日来てるからさ。名前ぐらい知ってた方がいいでしょ? これからよろしくね、小町ちゃん」
鳴海くんはそう言って笑うと、ゲーム機を取り出して三人と同じテーブルに座った。……そうか。この生意気な小学生たちと毎日顔を合わせるようなのか。精神と体力持つかな……。ぼんやりと考えごとをしていると、健太くんと目が合った。
「なっ、何見てんだよニート女!!」
健太くんは威嚇するように叫んだ。……ああ、これは大変な毎日になりそうだ。一刻も早く就職先を決めないと。休憩時間になると、私はスマホで必死に求人サイトを見てまわった。
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