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10通目:王子様と呪われた姫
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空は青く、風がそよそよと吹いている。気温も暑すぎず寒すぎず、歩き回るには丁度良い。今日はまさに文化祭日和だ。
校門には風船で装飾されたアーチが設置され、その下をくぐるといつもと違う世界が見えた。
中庭や校庭には模擬店のテントや様々な衣装を着た売り子の姿がちらほら見える。みんな準備に追われてバタバタしているが、その顔はキラキラと輝いていた。
スピーカーからは流行りの音楽が流れ、文化祭は早くも盛り上がりの兆しを見せている。
自分のクラスに入ると、みんなもうそれぞれの衣装に着替えて気合い十分のようだった。魔女だったり執事だったりメイドだったり、帽子屋だったり白ウサギだったりヒーローだったり。メイクや小道具を準備したりと、楽しそうだ。
撮影班のみんなは写真部が中心となって撮影機材の最終チェックを行っていた。ラフ板などが用意されているところを見ると、割と本格的に撮るようだ。
荷物をロッカーにしまうと、教室の入り口にぽつんと置かれた机に向かう。「受付係」と印字された、ただの厚紙を三角に折っただけのプレートを設置して、私の準備は完了だ。
私の仕事はうちの店に来た人数を数え、各コーナーの説明をしてどこで写真を撮りたいかを確認し、それを各コーナーのリーダーにスマホのメッセージアプリで知らせたり調整をする。
ちなみに、私はこの文化祭で初めてみんなが使っているメッセージアプリとやらをインストールした。使い方もよく分からないままクラスのグループとやらに入れられたけれど大丈夫だろうか。……まぁなんとかなるだろう。
「成瀬さん!」
何やら焦った様子の木村さんが私の名前を呼んだ。もうすぐ文化祭が始まる時間だというのに、一体どうしたんだろう。
「ま、間に合った!」
「……どうしたの?」
「お願い成瀬さん! これ付けて!!」
ハァハァと肩で息をした木村さんは、右手を私の前にぐっと差し出した。握られていたのは、真っ黒い色をした……。
「……猫耳カチューシャ?」
木村さんは手に持った黒い猫耳カチューシャを更に私に近付けて力説した。
「これ! この猫耳カチューシャを付けて受付してほしいの!!」
「お断りします」
「そこをなんとか!!」
「嫌です」
「なんで!?」
いや逆になんで? 私はただの受付だ。どうしてこんなものを付ける必要があるのか。
「成瀬さんがこれを付ければ更に売上が伸びるはずなの! 私の算段に間違いはないわ! 私今回の文化祭でクラス優勝目指してるの!! だからお願い!! これ付けて!! 」
「嫌だって。だいたい、受付はコスプレしなくてもいい係でしょ?」
「いやいや。そんなこと一言も言ってないよ? そもそもうちはコスプレ体験館だよ? 一人だけ何も着ないなんてそんなのおかしいじゃない! 店の顔とも言える受付係がなんのコスプレもしてないなんて明らかに変よ!!」
ビシリと指をさされ叫ばれる。それは……確かにそうだ。みんながコスプレをして写真まで撮っているというのに、私一人だけ何の衣装も着ていないのは確かに筋が通っていない。
木村さんと睨み合うように見つめ合う。……と、私は溜息をついてそのカチューシャを受け取った。
「付けてくれるの!?」
「……まぁ。それが役割なら」
「やった!! ありがとう成瀬さん!! これでうちのクラスの優勝は確実だわ!!」
木村さんは嬉しそうに笑っている。それとは対照的に、私は苦虫を噛み潰したような顔で猫の耳が付いたカチューシャを頭に付けた。
こんな姿、由香に見られたら何て言われるかわかったもんじゃない。
「あ、尻尾もあるんだけど付け、」
「付けません」
「デスヨネー」
木村さんと話していると、校内放送を知らせるチャイムが鳴った。
『只今より、第二十四回、虹ヶ丘高校文化祭を開催致します』
この放送を合図に、二日間の祭りが幕を開けた。
空は青く、風がそよそよと吹いている。気温も暑すぎず寒すぎず、歩き回るには丁度良い。今日はまさに文化祭日和だ。
校門には風船で装飾されたアーチが設置され、その下をくぐるといつもと違う世界が見えた。
中庭や校庭には模擬店のテントや様々な衣装を着た売り子の姿がちらほら見える。みんな準備に追われてバタバタしているが、その顔はキラキラと輝いていた。
スピーカーからは流行りの音楽が流れ、文化祭は早くも盛り上がりの兆しを見せている。
自分のクラスに入ると、みんなもうそれぞれの衣装に着替えて気合い十分のようだった。魔女だったり執事だったりメイドだったり、帽子屋だったり白ウサギだったりヒーローだったり。メイクや小道具を準備したりと、楽しそうだ。
撮影班のみんなは写真部が中心となって撮影機材の最終チェックを行っていた。ラフ板などが用意されているところを見ると、割と本格的に撮るようだ。
荷物をロッカーにしまうと、教室の入り口にぽつんと置かれた机に向かう。「受付係」と印字された、ただの厚紙を三角に折っただけのプレートを設置して、私の準備は完了だ。
私の仕事はうちの店に来た人数を数え、各コーナーの説明をしてどこで写真を撮りたいかを確認し、それを各コーナーのリーダーにスマホのメッセージアプリで知らせたり調整をする。
ちなみに、私はこの文化祭で初めてみんなが使っているメッセージアプリとやらをインストールした。使い方もよく分からないままクラスのグループとやらに入れられたけれど大丈夫だろうか。……まぁなんとかなるだろう。
「成瀬さん!」
何やら焦った様子の木村さんが私の名前を呼んだ。もうすぐ文化祭が始まる時間だというのに、一体どうしたんだろう。
「ま、間に合った!」
「……どうしたの?」
「お願い成瀬さん! これ付けて!!」
ハァハァと肩で息をした木村さんは、右手を私の前にぐっと差し出した。握られていたのは、真っ黒い色をした……。
「……猫耳カチューシャ?」
木村さんは手に持った黒い猫耳カチューシャを更に私に近付けて力説した。
「これ! この猫耳カチューシャを付けて受付してほしいの!!」
「お断りします」
「そこをなんとか!!」
「嫌です」
「なんで!?」
いや逆になんで? 私はただの受付だ。どうしてこんなものを付ける必要があるのか。
「成瀬さんがこれを付ければ更に売上が伸びるはずなの! 私の算段に間違いはないわ! 私今回の文化祭でクラス優勝目指してるの!! だからお願い!! これ付けて!! 」
「嫌だって。だいたい、受付はコスプレしなくてもいい係でしょ?」
「いやいや。そんなこと一言も言ってないよ? そもそもうちはコスプレ体験館だよ? 一人だけ何も着ないなんてそんなのおかしいじゃない! 店の顔とも言える受付係がなんのコスプレもしてないなんて明らかに変よ!!」
ビシリと指をさされ叫ばれる。それは……確かにそうだ。みんながコスプレをして写真まで撮っているというのに、私一人だけ何の衣装も着ていないのは確かに筋が通っていない。
木村さんと睨み合うように見つめ合う。……と、私は溜息をついてそのカチューシャを受け取った。
「付けてくれるの!?」
「……まぁ。それが役割なら」
「やった!! ありがとう成瀬さん!! これでうちのクラスの優勝は確実だわ!!」
木村さんは嬉しそうに笑っている。それとは対照的に、私は苦虫を噛み潰したような顔で猫の耳が付いたカチューシャを頭に付けた。
こんな姿、由香に見られたら何て言われるかわかったもんじゃない。
「あ、尻尾もあるんだけど付け、」
「付けません」
「デスヨネー」
木村さんと話していると、校内放送を知らせるチャイムが鳴った。
『只今より、第二十四回、虹ヶ丘高校文化祭を開催致します』
この放送を合図に、二日間の祭りが幕を開けた。
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