その答えは恋文で

百川凛

文字の大きさ
上 下
41 / 65
9通目:文化祭と準備

しおりを挟む
「……まったく。栞里ちゃんは相手の神経逆撫でするのが上手だねぇ」

 神田さんが出ていったドアからひょっこりと顔を出したのは、なんの因果かまたしても塚本くんだった。いつもタイミング良く登場するけれど、彼女のストーカーでもしているのだろうか。

「……それはどーも」
「全然誉めてないんですけど~?」
「……塚本くんはいつも私がピンチの時に現れるのね」
「今回は止めに入れなかったけどね」

 彼は一歩、私に近付いた。

「塚本くんはどうしてここに?」
「麻衣子が荷物取りに行ったまま中々帰って来ないからさ、迎えに来たの。そしたらなんかプチ修羅場? だったよね?」
「まぁ……そうなのかな?」

 彼はゆっくりと私の近くまで来ると、神田さんが置いていった段ボール箱を持ち上げた。

「……追いかけないの?」
「んー?」
「神田さんのこと。私が言うのもアレだけど……泣いてる……かもしれない」

 塚本くんは苦笑いを見せて私の頭をぽんと撫でると、きっぱりと言った。

「追いかけないよ」
「……どうして?」
「だって今追いかけたらアイツ泣けなくなっちゃうじゃん。アイツは負けず嫌いで勝ち気だからさ、他人に弱いとこ見せたくないんだよ」
「……塚本くんは神田さんの事なら何でもわかるんだね」
「まぁね。こう見えて片想い歴長いですから」

 塚本くんは冗談めいてそう言ったあと、真面目なトーンに切り替える。

「ああそうだ。麻衣子の事は気にしなくていいよ。落ち着いた頃に俺がちゃんと様子見に行くから。もちろん、ハンカチとティッシュ持参でね」
「……うん」
「それと、アイツが怒ったのは栞里ちゃんの事だけじゃないと思うんだ」
「……え?」
「平岡の告白現場を目の当たりにしたショックとその女の子の勇気、いつまでも決心がつかない自分に対しての苛立ちと振り向いてもらえない悲しみ、栞里ちゃんへの羨望と嫉妬。色んな感情が混ざりあってあんな事言ったんだと思うよ」
「……好きって…………好きって難しいね」

 二人分の足音が淋しく響く中、私は口を開いた。

「……塚本くん。ひとつだけ聞いていい?」
「いいよ」

 たった一つのことを問うだけなのに、やけに緊張した。制服の裾をぎゅっと握りしめる。

「……私って、ずるいと思う?」
「ニセ彼女の事? うーん、その事に関しては別にズルいとは思わないなぁ。平岡あっちから言ってきたことだしね。ただ……」

 塚本くんの鋭い視線に捉えられ、身動きが取れなくなった。

「いつまでも自分の気持ちに気付かない振りしてそこに居座ってるっていうんなら、それはちょっとズルいと思うけど?」

 彼の言葉が胸の奥に突き刺さる。それは、ちょっとやそっとじゃ抜けそうにないほど深いものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

てのひらは君のため

星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
児童書・童話
あまりの暑さで熱中症になりかけていた深森真白に、美少年が声をかけてきた。 彼は同じ中学に通う一つ年下の男子、成瀬漣里。 無口、無表情、無愛想。 三拍子そろった彼は入学早々、上級生を殴った不良として有名だった。 てっきり怖い人かと思いきや、不良を殴ったのはイジメを止めるためだったらしい。 話してみると、本当の彼は照れ屋で可愛かった。 交流を深めていくうちに、真白はどんどん漣里に惹かれていく。 でも、周囲に不良と誤解されている彼との恋は前途多難な様子で…?

灰色のねこっち

ひさよし はじめ
児童書・童話
痩せっぽちでボロボロで使い古された雑巾のような毛色の猫の名前は「ねこっち」 気が弱くて弱虫で、いつも餌に困っていたねこっちはある人と出会う。 そして一匹と一人の共同生活が始まった。 そんなねこっちのノラ時代から飼い猫時代、そして天に召されるまでの驚きとハラハラと涙のお話。 最後まで懸命に生きた、一匹の猫の命の軌跡。 ※実話を猫視点から書いた童話風なお話です。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

天剣道花伝

けろよん
児童書・童話
田舎で剣の修行をしていた少女、春日道花は師匠である祖父の勧めで剣を教える都会の名門校に通うことになった。 そこで伝説に語られる妖魔を討伐した剣、天剣がこの学校にあることを知る。それは本当にあるのだろうか。 入学試験で優秀な成績を収め、最強の少女とも噂されるようになった道花は決闘を挑まれたり、友達付き合いをしたりしながら学校生活を送っていくことになった。

処理中です...