その答えは恋文で

百川凛

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9通目:文化祭と準備

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「A組コスプレ体験館やるんだってね。アンタ何着んの?」
「何も着ない。制服のまま受付やる」
「はぁ? 何それ。つまんないんですけど」

 由香が派手に舌打ちをする。そんな事されたって着ないものは着ないのだ。準備とかも面倒だし、何より黒歴史を作りたくない。

「C組は決まったの? 」
「まだ。でもまぁうちのクラスはさ、あたしも含め文化祭はやるんじゃなくて遊び回りたい子の方が多いから。教室暗くして適当に映画とか流してシアタールームとか星の映像流してプラネタリウムとかそんな感じだと思う。受付ぐらいしか仕事ないし」
「楽そうでいいね。羨ましい」

 うちのクラスは準備の段階から当日まで忙しくなりそうだ。正直面倒くさい。

「一緒に記念撮影とかさぁ、ぶっちゃけ彰サマ大変なんじゃない?」
「うん。だってこれうちのクラスの女子が彰くんと写真撮るための口実だもん」
「絶対休む暇ないよ。他校からも集まるだろうしね」

 ああ、そっか。彼の人気はうちのクラスの女子に限ったわけじゃないんだった。数ヶ月前、そして、こないだのお祭りで隣を歩く度に感じた刺すような視線の数々を思い出す。

「いやぁ! 彰サマが何の衣装着るのか楽しみだわぁ~」

 ニヤリ、由香の顔が怪しく歪む。この顔は何か企んでいる時の顔だ。彰くん、気を付けて。

「そういや虹祭り。あのあとどうなった?」

 内心ギクリとびくついたが、表情には出ていないはずだ。たぶん。

「こっちは平岡のとこに戻るって聞かない神田をなんとかなだめて適当に花火見て帰ったけど。アンタらはなんか進展あった?」
「……………………特に何もない」
「何その明らかに不自然な間」

 こんな時、嘘が下手な自分の性格に嫌気がさす。でもよく考えれば、彰くんと何かあったわけではない。ただ花火を見て一緒に帰っただけだ。変わった事と言えばその間ちょっと手を繋いでいた事だけ。それも私が勝手に意識してしまって、勝手に気まずい思いをしているだけだ。

「んー……何かあったってほどの事は何もない」
「あ、それはほんとみたいね」

 由香が私の表情を見ながら言った。私はそこまで分かりやすいのだろうか。だとしたらなんだか落ち込む。

「そういや塚本にもバレたんだっけ? まぁあいつは心配しなくても大丈夫でしょ。なんつーかムカつくチャラ男だけど悪い奴じゃないし。ズル賢いし」
「うん。……彰くんもそう言ってたからその件に関しては心配してないけど」

 無意識のうちに溜め息が出てしまった。自分でもよくわからないけれど、最近なんだかおかしい。

「アンタ、何に対して悩んでんのか知らないけどさぁ、あんまり考え過ぎない方がいいわよ」

 由香が私の目をじっと見つめながら言った。私も由香の目から視線を逸らさない。

「……答えは意外と簡単だったりするんだから」

 珍しく由香がまともな事を言ったので純粋に驚いていると「何よその顔」と頭を軽く叩かれる。それは地味に痛かったが、少しだけ心が軽くなった気がした。
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