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8通目:祭りと花火
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「あっれれ~? そこに見えるは彰サマと栞里ちゃんではありませんかぁ? わぁ、ぐっうぜーん!」
中に入って五分経っただろうか。ひょっこりと現れた金髪が大根役者もビックリするような棒読みの台詞を吐きながら私達の行く手を阻んだ。どう考えたって偶然ではない。
「え、塚本? お前何してんの?」
「もちろん祭りに来たに決まってんじゃん。浴衣女子ウォッチング!!」
塚本くんは手に持っていたアメリカンドッグを魔法の杖のようにくるくると回す。
「え? ぼっち参戦で?」
「失礼な! ちゃんとお友達と来ましたよ! 残念ながら栞里ちゃんには断られちゃったからね!」
彰くんが私にチラリと視線を寄越す。塚本くんが余計な事を言うからだ。
「ほら、ちゃんとあっちにいるよ。ボクの可愛いおトモダチが!!」
塚本くんのアメリカンドッグはフードコートを指し示す。その先に居た二人を見て、私は自分の目を疑った。
そのテーブルの周りには大きなわたあめ袋にりんご飴、チョコバナナ、ポップコーン、たこ焼きにお好み焼き、金魚が数匹入ったビニール袋にスーパーボールなど、祭りの定番グッズが所狭しと置かれていた。その中心で頭にキャラクターのお面を付け、美味しそうにずるずると焼きそばを頬張っているのは間違いなく私の唯一の友人、渡辺由香その人だった。
どうして由香がそこに……?
隣には呆れ顔でその様子を見ている神田さんの姿もあった。今日はトレードマークのポニーテールではなく、高い位置でお団子にまとめられている。ピンク色の浴衣が良く似合っていた。
由香と神田さんが一緒にいる理由は分からないが、何故由香が今ここに居るのか。その理由はあの様子を見てすぐにわかった。
……あいつ、塚本くんに屋台奢ってもらう代わりに私の情報売りやがったな。
待ち合わせの場所と時間は由香にしか教えていない。会って数分での塚本くんの乱入といい、由香のあの食いっぷりといい、ほぼ間違いない。
今日の話を塚本くんに教えたのは由香だ。
おそらく、塚本くんは神田さんとお祭りをまわる口実のため、神田さんは私の邪魔と彰くんに会うため、由香は暇潰しと腹ごしらえのため。これは三人の利害が見事に一致した結果なのだろう。
やはり友情なんて砂上の楼閣。私は絶望した。
一つ息を吐き出して、私は由香の元へ静かに近付いた。
「由香」
名前を呼べばゆっくりと顔を上げる。その顔に悪びれる様子は毛ほどもなかった。もちろん焼きそばを食べる手も止めていない。もぐもぐとリスのように頬を膨らませ、口の中の麺をごくりと飲み込む。
「なんだ。アンタ今日浴衣じゃないんだ」
開口一番がそれか。他に言うことあるでしょうが。
「ねー! 俺もそれ思った!! せっかく栞里ちゃんの浴衣姿が見れると思って楽しみにしてたのにさぁ!! あ、でもモチロン今の服も超可愛いよ? めちゃくちゃすっごい似合ってる!」
私の後ろに居た塚本くんが待ってましたとばかりに言った。誉めてくれるのは有難いけど嘘くさい。そしてさっきから神田さんの真っ直ぐな視線が怖い。
「お前が神田と渡辺さんと一緒なんて、なんか意外な組合せだなぁ」
彰くんは心底意外そうな声で言った。
「まぁ両手に花ってやつ? どうだ羨ましいだろう!」
「ちょっと! 勝手な事言わないでよね!」
「はいはいスミマセン。あ、そうだ! ここで会ったのも何かの縁って事でさ、良かったら二人も俺らと一緒に回んない?」
最初からこれが目的だっただろうに。塚本くんは今思い付いた風を装って私達を誘い出す。白々しい。なんとも回りくどいやり方だ。
「いや、俺らは……」
「私は別に構わないけど?」
彰くんの言葉を遮って私は言い放った。驚いた顔で私を見る彰くんには悪いけど、今はこの方が得策だ。
「やったー! じゃあ決まり! どこから行こっかー?」
やたらと張り切り出した塚本くんはフードコートを出て歩き出す。鋭い視線から逃げるように、私は由香の隣に移動した。
中に入って五分経っただろうか。ひょっこりと現れた金髪が大根役者もビックリするような棒読みの台詞を吐きながら私達の行く手を阻んだ。どう考えたって偶然ではない。
「え、塚本? お前何してんの?」
「もちろん祭りに来たに決まってんじゃん。浴衣女子ウォッチング!!」
塚本くんは手に持っていたアメリカンドッグを魔法の杖のようにくるくると回す。
「え? ぼっち参戦で?」
「失礼な! ちゃんとお友達と来ましたよ! 残念ながら栞里ちゃんには断られちゃったからね!」
彰くんが私にチラリと視線を寄越す。塚本くんが余計な事を言うからだ。
「ほら、ちゃんとあっちにいるよ。ボクの可愛いおトモダチが!!」
塚本くんのアメリカンドッグはフードコートを指し示す。その先に居た二人を見て、私は自分の目を疑った。
そのテーブルの周りには大きなわたあめ袋にりんご飴、チョコバナナ、ポップコーン、たこ焼きにお好み焼き、金魚が数匹入ったビニール袋にスーパーボールなど、祭りの定番グッズが所狭しと置かれていた。その中心で頭にキャラクターのお面を付け、美味しそうにずるずると焼きそばを頬張っているのは間違いなく私の唯一の友人、渡辺由香その人だった。
どうして由香がそこに……?
隣には呆れ顔でその様子を見ている神田さんの姿もあった。今日はトレードマークのポニーテールではなく、高い位置でお団子にまとめられている。ピンク色の浴衣が良く似合っていた。
由香と神田さんが一緒にいる理由は分からないが、何故由香が今ここに居るのか。その理由はあの様子を見てすぐにわかった。
……あいつ、塚本くんに屋台奢ってもらう代わりに私の情報売りやがったな。
待ち合わせの場所と時間は由香にしか教えていない。会って数分での塚本くんの乱入といい、由香のあの食いっぷりといい、ほぼ間違いない。
今日の話を塚本くんに教えたのは由香だ。
おそらく、塚本くんは神田さんとお祭りをまわる口実のため、神田さんは私の邪魔と彰くんに会うため、由香は暇潰しと腹ごしらえのため。これは三人の利害が見事に一致した結果なのだろう。
やはり友情なんて砂上の楼閣。私は絶望した。
一つ息を吐き出して、私は由香の元へ静かに近付いた。
「由香」
名前を呼べばゆっくりと顔を上げる。その顔に悪びれる様子は毛ほどもなかった。もちろん焼きそばを食べる手も止めていない。もぐもぐとリスのように頬を膨らませ、口の中の麺をごくりと飲み込む。
「なんだ。アンタ今日浴衣じゃないんだ」
開口一番がそれか。他に言うことあるでしょうが。
「ねー! 俺もそれ思った!! せっかく栞里ちゃんの浴衣姿が見れると思って楽しみにしてたのにさぁ!! あ、でもモチロン今の服も超可愛いよ? めちゃくちゃすっごい似合ってる!」
私の後ろに居た塚本くんが待ってましたとばかりに言った。誉めてくれるのは有難いけど嘘くさい。そしてさっきから神田さんの真っ直ぐな視線が怖い。
「お前が神田と渡辺さんと一緒なんて、なんか意外な組合せだなぁ」
彰くんは心底意外そうな声で言った。
「まぁ両手に花ってやつ? どうだ羨ましいだろう!」
「ちょっと! 勝手な事言わないでよね!」
「はいはいスミマセン。あ、そうだ! ここで会ったのも何かの縁って事でさ、良かったら二人も俺らと一緒に回んない?」
最初からこれが目的だっただろうに。塚本くんは今思い付いた風を装って私達を誘い出す。白々しい。なんとも回りくどいやり方だ。
「いや、俺らは……」
「私は別に構わないけど?」
彰くんの言葉を遮って私は言い放った。驚いた顔で私を見る彰くんには悪いけど、今はこの方が得策だ。
「やったー! じゃあ決まり! どこから行こっかー?」
やたらと張り切り出した塚本くんはフードコートを出て歩き出す。鋭い視線から逃げるように、私は由香の隣に移動した。
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