その答えは恋文で

百川凛

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7通目:道化師と仮面

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 *

「ご苦労様! あとは明日の当番の子とやるからもう帰っていいわよ」

 翠先生の声で手を止める。もう帰る時間になったのか。だいぶ集中していたらしく時間の感覚がなかった。

「レオくんも手伝ってくれてありがとう。とても助かったわ」
「じゃあお礼は翠ちゃんのハグでお願いしま~す」
「馬鹿なこと言ってるとぶん殴るわよ」
「やだなぁ、ちょっとしたジョークじゃないですかあははは」

 拳を握った翠先生の目は本気だった。

「栞里ちゃん一緒に帰ろ!」
「嫌だけど」
「即答!?」

 よし、バインダーを片付ければあとは帰るだけだ。

「途中まででもいいからさぁ~! 一緒に帰ろうよ~」

 聞き分けの悪い子供みたいに駄々をこねる彼はこれでも十七歳の男子高校生である。図体のデカイ男がこんな事したって可愛くもなんともない。それより気になるのはこっちの方だ。

「……翠先生、何ニヤニヤしてるんですか」

 私と塚本くんの会話をなまあたたかい眼差しで見つめる翠先生が気になって仕方がない。あらぬ誤解を招きそうで嫌な予感がする。

「いやいや別にぃ~? 青春だなあって思ってただけだよ? いいなぁ! 私も高校時代に戻りたいっ!」

 ほら、やっぱりね。私は鞄を持って図書室を後にした。

「待ってよ栞里ちゃ~ん! しおり~ん!」

 後ろから塚本くんが付いてくる。しかも勝手にあだ名までつけて……まったく。諦めの悪い人だ。

「付いてこないでよ」
「俺ん家もこっちにあるんだもん」

 そう言って隣に来たので、仕方なく一緒に歩き出した。もう拒否するのも面倒くさい。塚本くんは嬉しそうだった。その顔を横目で見てから、小さく口を開いた。

「……もうさ、塚本くんが私に構う理由はないんだよ?」

 彰くんとは付き合っていないと、私はさっきハッキリ言ったはずだ。つまり、神田さんのために私と彰くんの仲を裂くという彼の目的はなくなった。だから私に構う必要なんてもうないのだ。それは塚本くんだって充分理解しているだろう。

「そんなの関係ないよ。言ったじゃん。俺、栞里ちゃんの事好きだって言ったのは嘘じゃないって」
「…………はい?」
「つまりね、俺は栞里ちゃんのことフツーに気に入ってんの! だから友達としてこれからも仲良くしていきましょーって事!」

 彼の頭は暑さでとうとうやられてしまったらしい。

「てかさ、日曜日ヒマ? 暇なら一緒に虹祭り行こうよ!」
「……いや、用事あるんで」
「えーそうなの? あっ! もしかして彰サマ!?」

 私は無視して歩みを進める。前だけ見つめて、他は視界に入れないようにした。

「うわぁーマジか。彰サマに先越されたかぁ。こんな事ならもっと早くに誘えば良かったな~」

 塚本くんは不貞腐れたように呟く。しかも彰くんと行くって決めつけてるし。いや、間違ってはないんだけどさ。なんだか今まで以上になつかれているような気がしてげんなりするんですけど。一体どうしてこんな事に……。ていうか、

「私より神田さん誘えばいいじゃんか」
「うっ…………」

 彼女の名前を出した途端、饒舌だった塚本くんは途端に口ごもる。お前の無駄なスキルをここで使わなくてどうするんだよ。本命には奥手とか超絶的に面倒くさい。

「だってさぁ、俺が誘ったって神田ちゃん来てくんないもん。それ分かってて誘えるほどメンタル強くないんだよね」

 弱気な発言に目を丸くする。私はぽつりと呟いた。

「塚本くんでもそんな風に思うんだね」
「しつれーな! 俺割と豆腐メンタルよ?」
「ふーん。でもさ、せっかくだから少しぐらい頑張ってみれば? 当たって散って砕けてくればいいよ」
「それ結局全部ダメなやつじゃんひどい!」
「大丈夫。ちゃんと骨は拾ってあげるから……たぶん」
「多分なの!? 栞里ちゃん見かけによらず毒舌だね!?」

 私はそんなに毒舌だろうか。そういえばこの前彰くんにも言われた気がする。

「あーあ。この機会に栞里ちゃんと俺の仲を深めようと思ったのになぁ~。彰サマに取られちゃったなぁ悔しいー」
「私彰くんと行くなんて一言も言ってないんだけど……」
「え? でも行くんでしょ?」

 この確信めいた自信はどこからくるのだろう。

「なんだよなんだよ彰サマもやるなぁ。ふーん。お祭りデートかぁ。いいなぁ~超カップルっぽいじゃん羨ましい」
「別にデートってわけじゃないから」
「いやいやそれデートでしょ。フリでも一応付き合ってるんだからさ!」

 そう言われるとなんだか急に意識してしまう。そわそわと心が落ち着かなくて挙動不審になってしまった。当の本人はそんな私の様子を面白そうに眺めていた。

「楽しみだね。彰サマとの初デ・エ・ト!」

 ……これだからこの金髪チャラ男は腹が立つ。
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