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0044.経緯
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「既に聞き及んでいるかもしれませんが、私の記憶はここ一ヶ月足らずのものしかありません。気づいたらとある廃村にいました。そこに人はおらず出会ったのは小さな狼だけでした。私は食料を調達するために森へ入りました。そこで偶然神殿を見つけたのです」
皆が静かに耳を傾ける。そんなに集中されると少し緊張する。いや、面白い話はないからね。
「その神殿の奥で不意に声が聞こえました。声の主は調和を司るものと名乗り、少し会話した後、能力を授かることになりました。そのとき偶然出会ったのがミラ王女、フィーナ殿です。 あのときは咄嗟に嘘をついて申し訳ございませんでした。どこからか声が聞こえたなんて言って変に思われたくなかったもので……。まだ能力について無知でしたので何が起こったのかよくわかっていなかったのもありますが」
ミラもその時のことを回想しているようだ。
「お互い様ね。こちらも警戒していたわけだし。でもやっぱりあの神殿でそんなことがあったのね」
「ええ。その後の狼との戦いで、ミラ王女の熱を調和したときにはじめて授かった能力を認識しました」
「神のつくりしもの。調和を司るもの……か。伝説は嘘ではなかったのだな」
マール王が呟いた。しかし、それ以上話す様子はなかったので続けることにした。
「街に着いてミラ王女と別れた後、少しギルドと揉めまして。そのときに出会ったのがリッカです。そして彼女と行動を共にしはじめ、最初に黒狼が襲ってきたときに偶然、調和の能力の別の使い途に気づきました。それが魔物化を解く事でした」
マール王、ミラ、そして側に控えるフィーナが興味深そうに聞き入る。
「黒大狼の核に触れたときに感じましたが、魔物の核には怨嗟や憎悪といった負の感情を増長させる何かがあります。それによって元は普通の動物が凶暴化し魔物化してしまったと考えられます。調和の力はそれを元の状態に緩和させるように働いたようです」
ん? ミラのときは熱を吸収した。魔物化解除のときは? そう言えば黒いもやっとしたものを感じたような……。自分の説明に自分で疑問を持ったがミラの質問にすぐに思考が遮られた。
「にわかには信じがたいけど……現実が実証しているのよね。それにしてもかなり能力を使いこなしていたわね?」
「それは白大狼との特訓の成果です。白狼達は最初の村で会った小さい狼の仲間でした。その長である白い大狼は人間の言葉を話し、自分とリッカを鍛えてくれました。基本的な戦い方を教わり、基礎体力よ向上して能力を使う下地が出来たと思っています」
リッカが同意するように頷いた。
「人の言葉を話す狼の長……か。そのような存在がいたとはな」
「あの黒大狼は元々白狼達の仲間だったらしく、魔物化を解除した自分に協力を求めてきたのです」
「なるほど、それで黒大狼に立ち向かったわけだな。経緯はよくわかった。して、望みというのはなんだ?」
「はい。お話したとおり私は白大狼に鍛えられた恩があります。魔物化した黒狼達は再び白狼となって白大狼の元に集ってるはずなのでもう無闇に攻めてくることはないでしょう。ですから分を超えた御願いだということは承知ですがこちらから追撃することをやめてほしいのです。元凶は別にあるはずです」
「別とは?」
「これは想像の域を超えませんが、魔物の核が自然発生するとは考えにくいです。何者か核を放ったものと思われます」
最初に思い浮かんだのは魔王と呼ぶべき存在だったが明言は避けた。マール王は少しだけ考える仕草をした。
「ふむ……。国民のなかに狼に恨みをもつものはいるだろうが、追撃してこれ以上諍いを生む必要はないだろう。国からは被害にあったものへの十分な援助と狼達への不干渉の通達を出しておこう」
「あ、ありがとうございます!」
無茶な願いだと思っていたが想像以上に理解があった。
「ただし、ギルドが大人しく言うことを聞くかは保証しかねる。また気が済まない国民からギルドに依頼がいく可能性もある」
ギルドと国の力関係はリッカから説明を受けたことがあった。
「十分寛大な措置でございます。いずれ森に入ったときに白大狼に人間として一括りにしないようお願いしておきましょう」
「それは助かる。我らにとっても魔物からの警戒を緩めることが出来るのはありがたい事だ」
マール王は静かに頷いた。
「では、わたしからも少し話をしたいことがある」
マール王はまっすぐにこちらを見た。
「ヤマト殿、単刀直入に聞くがそなたはここではない世界から来たのではないか?」
っ!?
心の準備が出来てなかった。ずばり言い当てられた動揺が隠せず何も言葉を発せなかった。
「ふっ、沈黙は肯定とみなされるぞ。今後は気をつけるとよいだろう」
マール王は少し意地の悪い顔をしている。お茶目な王め。
「……詳しくお聞かせ頂けますか」
隣のリッカは驚いた顔でこちらを見ている。まだリッカには話してなかったからな。こうして明かされるなら先に言っといた方が良かったかもしれない。
「これは他国の英雄の噂だがヤマト殿と同じような境遇の者がいたと聞く。初めは記憶がなかったが、あるとき自分が別の世界から来たと自覚したそうだ。本人なのか、誰かが言ったのか定かではないが周りからは転移者とも呼ばれていたそうだ」
「転移者……ですか。その方は……今は?」
マール王は首を振る。
「数年前に戦死したと聞いている。……実際のところはわからないが」
「何か含むところが?」
マール王は少し言いにくそうにした。
「……そのものは英雄になって間もなく亡くなったのだ」
「!!」
少なからずショックを受けた。
「実は転移者についてはもう一つ、遥か昔からの伝承があるのだ。その中の一節にはこうある」
ーー世に災厄降りしとき異界より使者来たりて道を照らさん
予言なのだろうか。それとも過去に起こった事実だろうか。世に災厄というのは近年魔物が出没するようになったことを示しているのだろうか? いずれにせよ異界という部分には確かに整合性があるかもしれない。
「……これだけでは転移者がその使者にあたるのかは断定できませんね」
「そのとおりだ。しかし、先の英雄がすぐに戦死したという事実もある。もしかすれば……」
「暗殺……何者かに狙われたという可能性もあるということですね」
然り、とマール王が頷く。
単に驚異となる英雄を早いうちに狙っただけか、あるいはこちらの世界と元の世界をつなぐ接点を狙ったのか。既にこちらの世界から何者かが元の世界に紛れ込んでいるとすれば、その一味が転移について何か知っている可能性は十分にある。そもそもまだ暗殺されたとも決まっていないが元の世界への手がかりが見えてきた。
「それを踏まえて尋ねたい。そなたは英雄になる覚悟はあるか?」
皆が静かに耳を傾ける。そんなに集中されると少し緊張する。いや、面白い話はないからね。
「その神殿の奥で不意に声が聞こえました。声の主は調和を司るものと名乗り、少し会話した後、能力を授かることになりました。そのとき偶然出会ったのがミラ王女、フィーナ殿です。 あのときは咄嗟に嘘をついて申し訳ございませんでした。どこからか声が聞こえたなんて言って変に思われたくなかったもので……。まだ能力について無知でしたので何が起こったのかよくわかっていなかったのもありますが」
ミラもその時のことを回想しているようだ。
「お互い様ね。こちらも警戒していたわけだし。でもやっぱりあの神殿でそんなことがあったのね」
「ええ。その後の狼との戦いで、ミラ王女の熱を調和したときにはじめて授かった能力を認識しました」
「神のつくりしもの。調和を司るもの……か。伝説は嘘ではなかったのだな」
マール王が呟いた。しかし、それ以上話す様子はなかったので続けることにした。
「街に着いてミラ王女と別れた後、少しギルドと揉めまして。そのときに出会ったのがリッカです。そして彼女と行動を共にしはじめ、最初に黒狼が襲ってきたときに偶然、調和の能力の別の使い途に気づきました。それが魔物化を解く事でした」
マール王、ミラ、そして側に控えるフィーナが興味深そうに聞き入る。
「黒大狼の核に触れたときに感じましたが、魔物の核には怨嗟や憎悪といった負の感情を増長させる何かがあります。それによって元は普通の動物が凶暴化し魔物化してしまったと考えられます。調和の力はそれを元の状態に緩和させるように働いたようです」
ん? ミラのときは熱を吸収した。魔物化解除のときは? そう言えば黒いもやっとしたものを感じたような……。自分の説明に自分で疑問を持ったがミラの質問にすぐに思考が遮られた。
「にわかには信じがたいけど……現実が実証しているのよね。それにしてもかなり能力を使いこなしていたわね?」
「それは白大狼との特訓の成果です。白狼達は最初の村で会った小さい狼の仲間でした。その長である白い大狼は人間の言葉を話し、自分とリッカを鍛えてくれました。基本的な戦い方を教わり、基礎体力よ向上して能力を使う下地が出来たと思っています」
リッカが同意するように頷いた。
「人の言葉を話す狼の長……か。そのような存在がいたとはな」
「あの黒大狼は元々白狼達の仲間だったらしく、魔物化を解除した自分に協力を求めてきたのです」
「なるほど、それで黒大狼に立ち向かったわけだな。経緯はよくわかった。して、望みというのはなんだ?」
「はい。お話したとおり私は白大狼に鍛えられた恩があります。魔物化した黒狼達は再び白狼となって白大狼の元に集ってるはずなのでもう無闇に攻めてくることはないでしょう。ですから分を超えた御願いだということは承知ですがこちらから追撃することをやめてほしいのです。元凶は別にあるはずです」
「別とは?」
「これは想像の域を超えませんが、魔物の核が自然発生するとは考えにくいです。何者か核を放ったものと思われます」
最初に思い浮かんだのは魔王と呼ぶべき存在だったが明言は避けた。マール王は少しだけ考える仕草をした。
「ふむ……。国民のなかに狼に恨みをもつものはいるだろうが、追撃してこれ以上諍いを生む必要はないだろう。国からは被害にあったものへの十分な援助と狼達への不干渉の通達を出しておこう」
「あ、ありがとうございます!」
無茶な願いだと思っていたが想像以上に理解があった。
「ただし、ギルドが大人しく言うことを聞くかは保証しかねる。また気が済まない国民からギルドに依頼がいく可能性もある」
ギルドと国の力関係はリッカから説明を受けたことがあった。
「十分寛大な措置でございます。いずれ森に入ったときに白大狼に人間として一括りにしないようお願いしておきましょう」
「それは助かる。我らにとっても魔物からの警戒を緩めることが出来るのはありがたい事だ」
マール王は静かに頷いた。
「では、わたしからも少し話をしたいことがある」
マール王はまっすぐにこちらを見た。
「ヤマト殿、単刀直入に聞くがそなたはここではない世界から来たのではないか?」
っ!?
心の準備が出来てなかった。ずばり言い当てられた動揺が隠せず何も言葉を発せなかった。
「ふっ、沈黙は肯定とみなされるぞ。今後は気をつけるとよいだろう」
マール王は少し意地の悪い顔をしている。お茶目な王め。
「……詳しくお聞かせ頂けますか」
隣のリッカは驚いた顔でこちらを見ている。まだリッカには話してなかったからな。こうして明かされるなら先に言っといた方が良かったかもしれない。
「これは他国の英雄の噂だがヤマト殿と同じような境遇の者がいたと聞く。初めは記憶がなかったが、あるとき自分が別の世界から来たと自覚したそうだ。本人なのか、誰かが言ったのか定かではないが周りからは転移者とも呼ばれていたそうだ」
「転移者……ですか。その方は……今は?」
マール王は首を振る。
「数年前に戦死したと聞いている。……実際のところはわからないが」
「何か含むところが?」
マール王は少し言いにくそうにした。
「……そのものは英雄になって間もなく亡くなったのだ」
「!!」
少なからずショックを受けた。
「実は転移者についてはもう一つ、遥か昔からの伝承があるのだ。その中の一節にはこうある」
ーー世に災厄降りしとき異界より使者来たりて道を照らさん
予言なのだろうか。それとも過去に起こった事実だろうか。世に災厄というのは近年魔物が出没するようになったことを示しているのだろうか? いずれにせよ異界という部分には確かに整合性があるかもしれない。
「……これだけでは転移者がその使者にあたるのかは断定できませんね」
「そのとおりだ。しかし、先の英雄がすぐに戦死したという事実もある。もしかすれば……」
「暗殺……何者かに狙われたという可能性もあるということですね」
然り、とマール王が頷く。
単に驚異となる英雄を早いうちに狙っただけか、あるいはこちらの世界と元の世界をつなぐ接点を狙ったのか。既にこちらの世界から何者かが元の世界に紛れ込んでいるとすれば、その一味が転移について何か知っている可能性は十分にある。そもそもまだ暗殺されたとも決まっていないが元の世界への手がかりが見えてきた。
「それを踏まえて尋ねたい。そなたは英雄になる覚悟はあるか?」
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