縁の下の能力持ち英雄譚

瀬戸星都

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0034.英雄への序章

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 リッカとともにブレイズ王国への帰り道を急いでいた。

 ーー時は少し遡る。

「すでに戦いは始まっている。我々は先に行って黒大狼を食い止めておく。その間に出来るだけ他の黒狼達を元に戻してくれ」

「あいつは後回しでいいのか?」

「ああ。奴の相手は骨が折れる。その間にも他の黒狼達が暴れるのは人間達にとって嬉しくなかろう。我々とて同胞達が正気に戻せる可能性がある今となってはむざむざ殺されるのを黙って見ているわけにはいかぬ」

「利害は一致しているな」

「左様。それに鍛錬と実戦はまた違った駆け引きがある。少しでも経験を積んでからのほうが成功確率も上がるというもの」

 始めは白狼に乗せて貰えればと思ったが、少しでも早く街に行ってもらうほうが重要か。

「わかった。異論はない。やられるなよ」

「ふん、まだまだ若いものには譲らんよ」


 ーーそんな経緯で今は森を抜けるべく走っていた。

 先導役は来た時と同じチビ狼だ。来るときはゆっくり休憩しながら歩いたため時間がかかったが、このぶんだとあと数分で森を抜けれそうだ。

 むしろリッカのペースが早い。無理もない。家族が心配だからだろう。ミラ達が食い止めてくれていればいいんだが、あの黒大狼が率先して攻めてきていたらどうなっているか分からない。街に着いたら一番に見に行こう。

 無駄な体力を使わないよう特に会話もなくひたすら走っていると次第に視界が開けてきた。もう見覚えがある景色ーー出口だ。

 森を完全に抜け出て立ち止まると、視界に街の様子を捉えた。

「始まっているな」

 街の入口付近では白と黒がぶつかり合っている。戦っている人間も何人か見える。ギルドだろうか。しかし黒大狼の姿はそこになかった。すでに街の中まで入ってしまったのだろうか。

 リッカも同じように街を見ながら上がった息を整えていた。

「どう動く?」

「街に着いたらリッカは先に家の様子を見に行け。俺は入口で戦っている黒狼を何とかしてから追いかける」

 考えは同じだったようだ。リッカが頷くのを確認すると再び駆け出した。

 街へと近づくと次第に戦場の空気が感じられるようになってきた。近くには狼や人が地面に伏しており所々に血痕が飛び散っている。既に激しい戦闘がここで繰り広げられたようだ。

「じゃあリッカ、また後でな」

 そう声をかけると刀を抜いてスピードを落とし始める。

「ヤマトこそ。気をつけて」

 リッカはそのまま戦域を通過して先へと向かった。

「さて、出し惜しみは無しだ」

 早速近くで白狼と黒狼が戦いに乱入する。白狼と目が合うと、白狼は一瞬こちらに気を取られた黒狼の隙を逃さず押し倒し、こちらに黒狼の腹部をむけた。申し分ないお膳立てだ。紅く輝く核が見えた。

「うまくいってくれよ」

 素早く側に寄ってしゃがみこむと暴れる黒狼に付いた核に触れた。

「くっ!」

 黒狼はびくっと反射運動した後に大人しくなった。核のあった場所から出血はない。

 白狼が大人しくなった黒狼に顔を近づけると生きていると言わんばかりにこちらを見て小さく吠えた。

「やったか……!」

 自分のことながら半信半疑だった魔物化の解除に成功した。偶然ではなかった。自分の意思で解除できる。兎にも角にも第一関門クリアだ。

「よし!次だ!」

 白狼はみなまでいうなとばかりにすぐさま次の戦いへと乱入した。

 そこから先は早かった。一匹助けるごとにこちらの数は増えていくからだ。

 ギルドや国の兵士達との戦いにも参入し、同じ事をした時には唖然とされたが少なくとも今回はもう隠すつもりはない。詳しく説明しないまま次から次へと魔物化を解除していくと、この辺りの戦闘は全て片付いた。白狼達にも被害はない。能力を連発し過ぎたためか少しフラついたがまだ倒れるというほどではない。これもここ最近の鍛錬の賜物かもしれない。

「よし。俺はリッカのところへ向かう。お前達はボスの援護に向かってくれ」

 入口で戦っていた白狼達は返事するように吠えると街の中へと駆け出した。流石に速い。遅れて街の中へと足を踏み入れた。

 街中では既に生き絶えた黒狼達や倒れて介抱されている人達も見かけた。間に合わなかったのは悔しいが今は一人でも一匹でも多く救うことが重要だ。

 途中途中で黒狼と戦っている場面に乱入しては魔物化を解除しながら確実にリッカの家へと近づいていた。

 移動中にふと思い出した。そういえば魔物の核はお金になるんだったな。戦闘に横から入っては核を取ってきているが、見方によっては横取りしているようにも見える。せめて核は置いてくればよかったかな。後で問題にならなきゃいいけど。

 そんな事が頭をよぎったが、だからと言ってやめるわけにはいかない。ギルドあたりに目をつけられると厄介だがもう時既に遅しかもしれないな。

 心の中で嘆息していると、ようやく前方にリッカの自宅が見えはじめた。

「……!」

 そこにはおびただしい数の黒狼に囲まれたリッカとリッカの母の姿があった。
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