縁の下の能力持ち英雄譚

瀬戸星都

文字の大きさ
上 下
27 / 51

0026.これまでとこれから

しおりを挟む

 無事に母親からの理解を得られたリッカとともにリッカの部屋に訪れていた。

「ほら、いい子にしてたか?」

 そう言ってチビ狼を撫でるリッカ。

 これからは本格的にリッカと二人で行動していくことになった。今後のことも含めてお互い話し合っておくべきだな。

「もう一度聞くが、決意は固いんだな?」

「もちろん」

「わかった。もう確認はしない。旅は自由だ。別にすぐにこの街に戻ってこようが構わないし無駄な見栄を張る必要はない。変に縛られずに思うように生きる。そんな旅をしていくつもりだ」

 リッカが頷く。異論はないようだ。

「これから一緒なんだ。あたしも聞きたいことがある。能力のこと、王女のこと、狼のこと、そしてヤマト自身のこと」

「そうだな、何から話せばいいか……」

 ようやく落ち着いて整理できそうだ。ここまでイベント続きだったからな。黒狼の件はまだ解決していないが少なくとも今日夜襲にくることはないだろう。

 一息ついた。

 さて、そもそもなぜこの世界にやってきたかを知りたい。そしてどうやったら元の世界に戻れるのか。その二つが旅の大きな目的ともいえる。考えようによってはこのファンタジーな世界のほうが楽しいかもしれないが、家族や友人に二度と会えないのもちょっと心の準備が欲しいところだ。とりあえずリッカには掻い摘んで説明することにした。

「俺は気づいたらある村にいたんだ。前後の記憶を失って、な」

「前後の記憶を失って?」

「ああそうだ。理由はわからない。もしかしたら誰かの能力で転移させられてその能力の代償で記憶を失ったのかもしれないと思っているが、結局予想の域は超えない。実はヤマトって名前も偽名だ」
 
「なっ……!」

 流石のリッカも驚きを隠せなかったようだ。口を開け大きく目を見開いた。

「……ヤマトに関してはもう何があっても驚かないと思っていたが、まさか名前すら不明だなんて」

「ちなみにその村で出会ったのがこいつさ」

 そう言ってチビ狼の頭を撫でる。

「その村は廃村になっていて誰もいなかった。食料もなかったから街を出て森へと進んでいったんだ。深入りするつもりはなかったんだが成り行きで進んでいくと森のなかの神殿に辿り着いたんだ。そこで出会ったのがミラとフィーナだった。それで二人にこの街まで案内してもらったというわけさ」

「そこで王女と出会ったんだな。しばらく旅を共にしたわけか」

「そのときはまだ王女だなんて知らなかったからな。その名残で今でも不敬な態度なんだ。この街に着いて二人とは別行動することになったんだが、別れ際にお金を貸してくれたんだ。しばらくの生活費に、ってな。それがリッカに使ったお金というわけだ。借り物だから、返すまではこの街から出れない。俺はミラに勝手にいなくならないように首輪をつけられたようなものなのかな、って思っている」

「それはヤマトに利用価値があるってことか?」

「そうだ。既に知られていることらしいがミラの能力の代償は体内にも熱を溜めてしまうことだ。俺の調和の力はその代償を緩和できる。正確に言えば俺に流れ込んでくると言ったほうがいいかもしれない。もっとも、ミラには調和の力とは言っていないから本人は熱を下げる能力だと思っているかもしれない」

「能力を隠しているんだな」

「初対面で全てを明かすほど愚かではないさ。念動力についてもミラ達には言っていない。能力のことについてほとんど知らなかったのもあるけどな。リッカには両方教えたことは信頼の証だと思って欲しい」

「能力持ちか……やっぱり色んな種類があるんだな」

「あぁ。リッカの求めるような能力もあるかもしれない」

 回復系、医療系の能力。間違いなく重宝されそうだが代償も大きそうだ。能力を持っていても隠している可能性はある。

「これからどうするんだ?」

「直近はあの黒狼をどうにかする必要があるだろう。リッカもこの状況で母親を置いて旅にいくのは気がかりだろ?」

 リッカもちょっと反抗期なだけで母親が嫌いなわけではないはずだ。

「わざわざご丁寧にチビ狼まで残していったんだ。あの言葉を発した狼に賭けてみよう。明日森に入る」

「賛成。現状これと言ってあの黒狼に対策できることはないし、旅の予行演習として森に入るのはちょうど良いと思う」

 リッカに頷いた。次のことが決まったと思ったら急に眠気が襲ってきた。思えば慣れない戦闘も含めて激動の一日だった。今さら信じてもらえないかもしれないがどちらかと言えば元の世界ではインドアなほうだった。この世界にきて数日だが少しは自分が変わったかもしれない。人間、どこでも適応してしまうもんだな。

 その後、二言、三言とリッカと会話したような気はするが内容は覚えていない。リッカの部屋で泥のように眠りについていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...