24 / 51
0023.再会
しおりを挟む「手の空いたものは怪我人の救護にあたりなさい」
ミラの指示の下、兵士たちは負傷者の手当や搬出を行っていた。ギルドはギルドで集まってメンバーの生存確認を進めている。
戦場に残った白い狼達を見ながらミラが話しかけてきた。
「どう考えたらいいのかしら?」
「事実として助けられたことは間違いないが……」
果たして狼が意志を持って助けたのか。偶然か。
しかし、そんなことよりも気になることがあった。
「さっきから兵士たちの視線が痛いんだが」
当然だ。王女が見知らぬ一介の旅人と親しそうに会話しているのである。しかも手をつないで。
「気にしないことね。うまく言っておくわ」
調和の力によりミラは能力の代償で上がっていた体温が引いているのを感じているようだ。
一方でヤマトは少しずつ体温が上がるのを実感していた。意識することで前回よりもゆっくりと調和できるようになっていたのは成長だった。
「それに、貴方と話していると考えが整理される気がするのよ」
「知ってることは何もないんだが……」
隣ではリッカが二人の手を見つめていた。
「ふん。そんなふうにも能力が使えるんだな」
少し仏頂面になっている。
「あら、も、というのは気になるわね」
ミラは鋭く語尾をとらえたが、リッカもそれ以上は何も喋らず知らん顔だ。
ほら、仲良くしような。特にリッカ。これでもミラは王女だぞ。最初のかしこまった様子はどこへいった。
余計なことはしゃべらないようにしてくれているリッカなりのやり方なのかもしれないが。
「もう少しよくわかったら説明するよ」
魔物化を元に戻せる、という力が本物かどうかはまだわからないし不確定な情報は混乱を招きかねない。
「まあいいわ。それよりもこれからどうするか、ね」
眼前の白い狼達は襲ってくる気配はない。
「敵意はないようだけど、放っておいてもいいのかしら」
ミラもこの状況に戸惑っているようだ。
その時、白い狼の群れの中から一匹の白いものが抜け出してこちらに駆けてきた。
「て、敵しゅっ!?」
敵襲と言おうとして言いとどまった。
駆けてきたのは他の狼と比べてもかなり小さい。こんな狼が混じっていたのか。
「ん?」
駆けてきた狼はその勢いのまま自分の足に噛みついてきた。しかしそれは攻撃ではなく戯れてきたような甘噛だった。
デジャヴ? いや、実際に身に覚えがあった。記憶を呼び起こす。
「おまえもしかして、あの村の……」
ーーワォン!
小さい狼は返事をするように鳴き声を上げた。
こちらの世界にきて初めて出会った生き物だった。確かチョコレートを一緒に食べたんだった。なんだ、てっきり子犬かと思ったが、お前、狼の子供だったんだな。頭を撫でてやる。
「め、珍しい知り合いがいるのね」
さすがのミラも少し驚いた様子だった。
「ああ、もしかしてこいつは、狼の恩返しだったのかもしれない」
「どういうことだ?」
リッカが説明を求める。
狼は撫でられるのに飽きたのか、興味津々にリッカの方に歩み寄っていた。
「以前、旅していた時にこいつと会ってな。食べ物を与えたんだ」
おそらくあの後、群れに合流できたのだろう。それにしても一飯の恩を返すなんて義理堅すぎる。いや、気高い狼だからこそなのか。小さい狼の身体をざっと確認したが魔石は確認されない。
「……おそらく白い狼達は魔物化していない狼達だ。森のなかでもたぶん縄張り争いがあるのだろう。白い狼と黒い狼は敵対している可能性が高い。今回助けられたのは狼の恩返しだったのか、単に黒い狼を横から叩くいい機会だったのかもしれないが。いずれにせよ、敵の敵は味方だったということじゃないか」
自分の見解を述べた。今のところ否定する材料もないはずだ。
「私たちは貴方に助けられたということかしら?」
「いや、それは言い過ぎだろう」
言い過ぎだよな?
「まぁ否定することでもないんじゃないか。実際にこうしてチビ狼が会いにきているわけだし」
リッカはそう言って足元にきた狼をモフモフしていた。完全に頬が緩んで年相応の少女の顔になっている。
すると、白い狼の群れのなかから、もう一匹の狼がこちらに歩いてくるのが見えた。今度は成犬、いや成狼と言うべきか。動きはゆっくりで、まるで敵意が無いのを示すかのようであった。数メートルまで近づいたところで、小さい狼は近づいてきた狼に寄っていった。親子だろうか。
「助かった。ありがとう」
人語がわかるとは思っていなかったが一応礼を言っておいた。
――ワレラ、ボス、アウ
「なっ!?」
リッカ、ミラとともに思わず驚きの声を上げた。
白い狼はたどたどしいながら意味のある言葉を喋ったのだった。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる