縁の下の能力持ち英雄譚

瀬戸星都

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0018.幕開け

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「いててて」

 頰をさすりながら状態を起こす。頰が熱を持っている。腫れてきただろうか。よく考えると全財産をくれたやったのに、さらに殴られるなんてちょっとついてなさ過ぎる。

 しかし、悪いことばかりではないか。魔物がきたこと自体は危険だがギルドや国が魔物と戦っている混戦なら隙を突くこともできる。二人で森に狩りにいくより安全かもしれない。

「よし、行こう。リッカ。武器を貸してくれるか」

 リッカが頷くと、一度リッカの家に戻ることにした。


「ああ、よかった。戻ってきたのね。魔物がこちらに向かってきてるらし……ってどうしたの!?」

 家に戻ったリッカの母親が俺を見て驚く。

 頬の腫れが思ったより酷いのだろうか。さあ何て説明しようか。

「……ベルグね」

 するどい。リッカが一瞬バツの悪そうな顔をしたのが要因か。それにしても、察しの良さというか頭の良さはこの子にしてこの親ありってところだろうか。

「分かってるの、リッカ。あなたが巻き込んだせいなのよ」

 リッカは何も言わないが、百も承知なようだ。確かにそもそもはリッカに非があるが、今回は俺が見慣れない格好のままだったのが見つかった原因だ。ここは助け舟を出すことにする。ついでに良い考えを閃いた。

「いいんですよ。取引ですから」

「取引?」

「ええ、協力したら武器を貸してくれると。今、魔物が押し寄せてると聞きましたのでここは一旗上げたいと思いまして」

 言っておいてなんだが、この顔では説得力に欠けたかもしれない。

 だが隣でリッカは驚いた顔をしていた。表情から察すると、話が違う! 魔物を倒しに行くのは母には内緒のはずだろ、ってところか。

「リッカ、約束だよな。ちょっと俺に使えそうな武器を見繕ってくれないか」

「あ、ああ……」

 そう言って、断れない雰囲気でリッカに武器をとってくるように促した。
 その場にはリッカの母と二人になった。

「実は一文無しでして。働かないと食っていけないんですよ」

「いいのよ。リッカが世話になったんですもの。しばらくは家にいればいいわ」

「いえ……すみません。リッカから父親が亡くなっていると聞きました。お兄さんのこともあるでしょうし、生活が楽とは言えないでしょうう。せめて生活費ぐらいは自分で稼がせてください」

「でも……」

 リッカの母がなお反論しようとしたところでリッカが剣を数本と弓を持ってきた。グットタイミングだ。

「お、悪いな。…ん?」

 剣の中に一つ異質な形をしたものがあった。緩やかに細長く、他のものとは雰囲気が違う。

 これは……日本刀か? 

「それは昔、父がたまたま手に入れたものだそうだ。使いこなせなかったからって奥にしまってあった」

「そうか……これ、使って良いのか?」

 どことなく親近感がわいた。手にとって鯉口を切るとギラリと光る刃が見えた。素人目にはかなり立派に見える。

「ああ。どうせ使わないだろうし、父親の形見ってわけでもない」

「ありがとう。これにする。あと弓も借りていいか」

 弓の自信はまったくないが、遠距離から攻撃できるのは大きい。
 リッカが頷いたので、弓を担ぎ先程の刀を腰につける。ジーンズには合わないな。

「よしっ。じゃあちょっと行ってくる」

「あ、あたしも……!」

「何言ってんだ。リッカ。お前はダメに決まってるだろう」

 やはり女子供を連れて行くのは気が引ける。ましてやリッカは女で子供だ。

「そうよリッカ。危ないわ」

 案の定リッカの母も止めに入る。計算通りだ。リッカも止められる展開は読めていたようだ。

「ズ、ズルいぞ!」

 はっはっは。大人はズルいに決まってるだろう。
 悔しそうなリッカを尻目に、早々に立ち去ることにする。

「男にカッコつけさせてやるのも、いい女の条件だぞ」

「そ、そんな取ってつけたような言い方でごまかされるかっ!」

 リッカの反論を背にその場を立ち去った。少々強引だが仕方ない。リッカを危険に晒すよりは良い。それに可能性としてはミラやフィーナが出てきていることも考えられるし、一人だと能力を使うのにも躊躇しなくていい。

 気を引き締め直す。これからは命のやり取りだ。もちろん死ぬつもりは毛頭ない。

「よし、行くか」


 こうして後に、妙な服と妙な刀を持った英雄としてブレイズ王国に語り継がれることになる戦いが幕を開けた。


 ――一方その頃、

「一人でいかせてたまるかよっ」

 そう言ってこっそりと部屋の窓から抜け出していくリッカの姿があった。

 そして、そんなリッカの姿をひっそりと窓から見届ける者があった。
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