縁の下の能力持ち英雄譚

瀬戸星都

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0015.的確すぎる六文字

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 歩いてたどり着いた家は古かったが思ったよりも大きかった。もっとスラム街のようなところを想像していたが、まわりにも似たような家が立ち並ぶ普通の住宅街だった。

「お金のことは言わなくていいから」

 リッカはそう言うと俺の返事も待たずに玄関のドアを開けた。

「ただいま」

「帰ったの? リッカ」

 声に反応するように奥から物腰の柔らかそうな女性が出てきた。どうやらリッカの母親のようだ。近づいてくると母親はヤマトの存在に気づいた。

「あら、そちらの方は……?」

「えっと、ヤマトです。初めまして」

「リッカのお友達……にしては少し年が離れているかしら」

 首を傾げる母親だったが、話を遮るようにリッカが口を開いた。

「取り返してきたよ」

 そう言って背負っていた剣を壁に立てかけた。

「……っ! リッカ! あなた、なんてことを……」

 母親は一目でそれが何かわかったのか、驚きと心配の表情が混じっている。

「こいつ、飼うことにしたから。……着替えてくる」

「もう、またそんな言い方をしてっ!」

 母親の叱責を背にリッカは部屋に向かってしまった。反抗期だな。ところでリッカさん、もう少し状況の説明とかしてくれないんですかねえ。

 リッカの母は嘆息すると居間に案内してくれた。

「ごめんなさいね。あの子、口が悪くて」

 まったくだ。と思いながらも、別のことを口にした。

「いえ、聡明で律儀な子だと思います」

 予想外の返しにリッカの母が驚く。

「あら、そんなところを見てくれてるのね」

 少し嬉しそうだ。子どもが褒められて嬉しくない母親はいないだろう。ただ、お世辞を言ったわけでもなく本心でもあった。

「あの子が人を連れてきたなんて初めてだわ。やっぱりお兄ちゃんっ子だから、年上が好きなのかしら」

 興味津々に見られる。心なしか娘の彼氏としての品定めをされているようにも感じたが、残念ながらそういう対象ではないしおたくの娘さんには早すぎない?

「リッカ……さんとは」

「リッカでいいわよ」

「リッカとは、ええっと、彼女が逃げてるときに偶然居合わせまして、成り行きで手助けしたら……気づいたらここに」

 我ながら要領を得ない説明だ。

「巻きこまれたのね」

 的確すぎる六文字だ。その通りです。

「あの剣があるってことは追っていたのはギルドのベルグね」

 有名なんだろうか。リッカの母はベルグのことを知っていた。

「どうしてリッカの肩を持ったのかしら。どちらかと言えば、あの子の方が泥棒だったはずだけど?」

「話の流れで、あの剣はもともと彼女の持ち物だったと聞きまして。ベルグも認めてましたし」

「でも民間人がギルドに協力するなんて常識じゃない?」

 残念ながら転移してきた自分にそんな常識は備わっていないし、元の世界でも国や警察に協力を求められて物を持って行かれるなんて聞いたこともない。あれ? もしかしてそのかわりに税金を持っていかれている? 気にしても気にしなくても負けだ。何という理不尽な戦い。

「自分は実は旅を始めばかりでして。以前にいた村ではそんな常識が、というかギルド自体がなかったのです」

 ついでに人も誰もいなかったけどな。

「まぁ。規模の小さな村だったのでしょうね」

 一応、納得してくれたようだ。

「ところでヤマトさんは何をされていたのかしら」

「自分は仕事を探しにギルドに向かっていたところだったんですが」

 そこまでいったところで、リッカの母が破顔した。

「あはははっ、ご、ごめんなさいね。まさかギルドに行くつもりがその途中で対立するなんて」

 まさにまさかである。間抜けなのか不運なのか。それともギルドの風土を先に知れてツイているのか。

「ただウチも少なからず、ギルドには因縁があるからね。ギルド側の人間でないなら歓迎するわ」

「因縁……さっきの剣と何か関係が?」

「ええ。あの剣はもともと息子のものなの」

「リッカのお兄さんの……」

 はじめて会ったのに更に先へ深入りしてもいいものだろうかと思わなくもなかった。形見とかだった話が重くなりそうだ。少し心配そうな目で見たからか、リッカの母は首を横に振った。

「まだ生きてるよ。体はね」

「……意味深ですね」

「息子は昔、ギルドに所属していたの。でもあの剣を手に入れてしばらくしたときに、あのベルクを含むギルドメンバーに手ひどく裏切られて、そのうえ傷まで負わされてね。今はもう部屋から出てこなくなってしまったわ」

 この時代のヒッキーか。しかし、理由はハッキリしていそうだ。

「リッカが剣を盗んだのは、もしかして、以前の兄に戻ってほしいからですか」

「ええ。きっとそうね。でも難しいと思うわ」

 噂をすれば、ちょうどリッカが着替えて居間に入ってきた。

「ヤマト、ちょっと外に行くぞ」

 直前まで話していたリッカの母を一瞥すると静かに頷いたので一旦話は終わりで良いのだろう。

「わかった」

 そう言って再びリッカの後に続いた。

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