12 / 51
0011.いつから錯覚していた?
しおりを挟む街に辿り着くと人々の往来が目に入った。なかなか活気がありそうだ。
どこか感慨深い。ようやく人間らしい生活ができそうだ。お金はないけれど。
好奇心が抑えきれずしきりに周囲の様子を確認する。商店が立ち並び市場が開かれている。広場からは美味しそうな香りが漂う。勝手知ったるのかミラとフィーネはよどみなく進んでいくので、自然とその後をついていった。
しばらく歩いて、ふと気づいたら城の正面にいた。
あれ、どうして城に直行しているんだっけ。そもそも城って用事がなくても行っていいのか。
「お帰りなさいませ! ミラ王女。よくぞご無事で」
そんなことを考えていると、いきなり門番が駆け寄ってきて深くお辞儀をしながら挨拶してきた。
ん?ミラ王女?
「ご苦労さま」
ミラは当然のように受け答えて進む。
困惑していると、目が合ったミラがにやりと笑った。なかなかのドヤ顔だ。
「てっきりフィーナかと思っていた」
「ふふん。念には念を、ね。貴方も王女と呼んでも構わないわよ」
いつから錯覚していた? 初めからだ。錯覚させられていた。なるほど。やりおる。
「高貴な身分と言っていたぞ」
「フィーナは私の近衛隊隊長よ。然るべき地位にあるわ」
フィーナは黙って頭を下げた。初に会ったときにフィーナの警戒が強かったのもミラに害をなす危険人物かどうか判断していたってところか。それにミラに対して目上から接する様子がほとんどなかったのもそのせいか。
「ミラよりも王女らしく見えるな」
「あら?不敬罪がお好みかしら」
「これはミラ王女、ご冗談を……ってか」
いまさら態度を変えるのも煩わしい。当のミラも気にしていないようだしこのまま接することにしよう。少なくとも周りに誰もいないときは。だが王族となるともう気軽に会うこともないかもしれないな。
「もしよければ父に紹介するわよ?」
「謹んでお断りしよう」
つい反射的に答えた。ミラのいい人というわけでもないのに挨拶するのは如何なものかと思ったからだった。しかし、それはあくまで元の世界の常識かもしれない。こういう世界ではむしろ絶好の機会だっただろうか。コネ社会だとすると王との謁見はまたとないかもしれない。
でも王だぞ。キング。ボロの釣り竿で釣れるやつではない。正真正銘の王様だ。もし日本にいて、いきなり天皇に紹介するわと誘われて、お願いと即答できるほど人間ができてはいない。ふむ。考えても結局答えは同じだったかな。
「あら、もったいない」
あ、やっぱりこの世界ではそういう反応なんだ。
「まだ自分の記憶もよく思い出せていないからな。しばらくは勉強するよ」
もっともらしい理由をつける。咄嗟にしては十分だ。
「仕方ないわね……そうだ。貴方お金も持っていないんじゃないかしら」
「ああ、無一文だな」
「フィーナ」
首肯したフィーナが荷物から袋を取り出し手渡してくれた。いくら入っているんだろうか。そう言えばお金の価値すら存じてない。
「貸してあげるわ。利子はつけないであげるからもし街を出るつもりなら同額を返してからにしなさい」
「……わかった。信頼してくれてありがとう。助かる」
「それじゃあ、ここでお別れね。私達は報告する必要があるから」
「ああ。また返しに行くよ」
ミラは軽く手を上げて答えると胸を張って城内へと入っていった。
「なかなか興味深かったです」
フィーナはそう言って軽く頭を下げるとすぐにミラを追った。
そう言えばフィーナの能力は何だったんだろうか。あえて能力を見せなかったのか、代償のためか。
なかなかどうして優秀な二人だった。
手元に残ったお金を見る。これもきっと自分をしばらくこの街に留めさせる仕掛けだろう。
聡明なミラがいればこの国はきっと安泰だ。こちらは実年齢よりも若返っているのに年下を相手にした気は全然しなかった。身体年齢につられて自分が精神的に若返ったのかもしれないが。
「とりあえず街に戻ってみるか」
期待を胸に踵を返した。
その頃、城内では。
「どうでしょう。力を貸してもらえるでしょうか」
「楽観的には考えない方がいいかもしれないわね。一癖ありそうだったし。ただ、あの能力は興味深いわ」
城内を歩く二人は謁見の間へと進んでいた。
「ただいま戻りました、父上」
「おお、ミラよ。よくぞ戻った。して首尾は?」
「神殿は見つかりましたが、神殿自体には特に何も」
「そうか」
「しかし先客がおりました」
「なに?」
「年は私達と同じぐらい。見慣れぬ服、曖昧な記憶。本人は転移したと申しておりました」
「いま、転移と申したか? あれは単なる言い伝えではないのか。その者の出任せではないのか」
「現時点ではなんとも。剣技も並の兵士以下です。ただ能力持ちでした。それも強力な」
「ほお……フィーナ、お主はどうだ?」
「会話の節々から世間のことは全く知らない様子でした。しかし頭の回転は早く、ところどころ何かを隠しているようにも見受けられました」
「ふむ……あいわかった。その少年の足取りはつかんでおけ」
玉座に座り顎に手をあてながら思索する。
「今は一人でも戦力が欲しい。もちろん有能に越したことはない」
「はい」
二人は頭を下げると謁見の間を後にした。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる