縁の下の能力持ち英雄譚

瀬戸星都

文字の大きさ
上 下
11 / 51

0010.森を抜けるとそこは

しおりを挟む

 目が覚めたら後頭部に柔らかいものが、なんてそんな甘い展開はなかった。残念。

「あら、起きたのね」

 すぐそばでミラが座っていた。介抱はしてくれたようだ。

「俺は……」

 記憶を思い起こす。確かミラの額に触れた瞬間に……そうかそのまま倒れたのか。

 記憶は失っていなかった。

「能力を使った代償は?」

「ごらんの通り、さっぱりなくなったわ」

 ふむ。状況からみて間違いないようだ。

「どういうことかしら?」

「こっちが聞きたいよ」

 そう言いながら心当たりはないでもなかった。

 調和を司るものから授かった力。 過ぎたるを戒める力。

 ミラの能力行使による高熱を抑制した。そう考えると辻褄は合う。俺の中に入ってくるような感覚があったからもしかすると自分の内でしか緩和できないのかもしれない。

 よくよく考えるとミラが狼に炎の矢を放ったときも熱かったが火傷は負わなかった。調和の力が働いていたと考えれば説明がつく。そう言えばミラも不思議そうにしていたな。

 生傷は治っていないところをみると傷には効かないのかもしれない。さしずめ特殊効果耐性ってところだろうか。まだわからない条件があるかもしれないから自分から火に手を突っ込むような度胸はないが。悪くない力だ。あとはどこまで制御できるか。

 ふと、使いこなしてみせよ、と言った調和を司るものの言葉を思い出した。自分で力は要らないといったのに便利だと使いたくなる。心の中で自嘲すると横から視線を感じた。少し考え込み過ぎたか。

「本当に大丈夫?」

「ああ。ところで、どれぐらい倒れていた?」

「そうね、十分ってところかしら」

「いつも代償はどれぐらい続くんだ?」

「ずっとひどい熱というわけじゃないけれど、約二時間ね」

 生傷を除くと高熱の自覚はなく体調的には問題ない。つまりミラの代償が明らかに短くなっている。これが調和の力の威力。ついでに意識がとんだことで、初めての戦闘で興奮気味になっていた精神的な緊張も落ち着いてきた感がある。無駄口ならぬ無駄思考が加速しそうだ。

「それがヤマトさんの能力ということでしょうか。そんな能力、過去に聞いたことはありませんが」

 フィーナも会話に加わる。

「俺も初めてのことだからよくわからないけど。もしそうだとして、代償が気絶することだとしたら使い勝手はどうだろう」

「やりようはいくらでもあります。近くに護衛をつけるとか」

「それに能力も鍛えれば成長すると言われているわ。もしもヤマトの能力が熱を消す能力だとして、高熱でも簡単に消してしまえるように能力が上がったとしたら」


「したら……?」


「……使えるわ(ます)ね!」


 ミラとフィーナの声が重なった。どこか興奮気味だ。

 その気持ちもわからないではない。一撃必殺レベルの能力を連発できるとしたら鬼に金棒だ。特にミラにとって俺の利用価値が一段上がったことは間違いない。それにミラは熱を消す能力だと勘違いしているようだが熱を下げる能力ではなく汎用的な調和の力だとすればおそらく熱に限らないはずだ。

「実戦レベルまで能力が上がればいいな。もっとも、まだ代償もはっきりしていないけど」

 どうやらようやく運が向いてきたようだ。今度、調和を司るものにお供え物でもしたほうがよさそうだ。

 ヤマトが立ち上がると二人も腰をあげ、再び森の出口へと向かった。


 遭遇した五匹の魔物のうち仕留めたのはミラが能力を使った一匹だけで、後の四匹は追い払っただけときいたのでまた戦闘があるかと構えていたが、その後魔物に遭遇することはなかった。道中、二人から魔物の話や能力についてききながら一日ほど森を進んだ。

「そろそろね」

 さきほどから高く生い茂っていた草木が少なくなって段々と視界が広けてきた。この辺りはときどき人が入って踏まれているのか、通り道のような痕跡もある。さらに進むと木々の間隔も広がり、そして遂には森の終わりが見えた。


「ついに出口に辿り着いたんだな」


 森を抜けるとそこは不思議な国でした。 いや、もともと不思議な国に来たんだった。森を抜けてもまともな国に戻ってきた感じはしない。


「あれは……」


 前方にはちょっとした西洋風のお城が建っていた。そしてその手前には建物が多く並んでいる。一キロほど先だろうか、どうやら城下町らしい。森の方の土地が高くなっており周囲に大きな障害物もないため街全体が見えるがとりあえず日本ではなさそうだ。

「あれが私達の住むブレイズ王国よ」

 久しぶりの帰還だからだろうか、ミラもフィーナも上機嫌に見えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

貴様とは婚約破棄だ!え、出来ない?(仮)

胸の轟
ファンタジー
顔だけ王子が婚約破棄しようとして失敗する話 注)シリアス

処理中です...