縁の下の能力持ち英雄譚

瀬戸星都

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0008.初めての戦闘

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 どうしてこうなった。

 気づいたら狼と対峙していた。牙を見せ威嚇するように深く唸る狼。負けじと持っていた木刀を構えて牽制し、飛びかかってくるのを防ぐ。

「どうすれば」

 ちらりと周りを窺う。ミラとフィーナも二匹の狼とせめぎ合っていた。


 ーー時は数分前に遡る。

「狼とはすでにこの森でも何度か遭遇したわ」

「戦ったのか」

「ええ。でも仕留められなかったわ」

「狼たちは賢明です。手負いになると無理せずに退いていきました。こんな森の中で深追いするのも危険ですから」

 フィーナが補足する。

「そうか。でも二人は戦い慣れているんだな」

 そう言いながら二人の装備を見る。ざっと見たところ、ミラは弓と短刀。フィーナは剣だ。

「まあね。私達は能力スキル持ちだから」

「能力?」

「その記憶もないのかしら。いい、この世界では稀に特殊な能力を持った人がいるの。能力スキル持ちと呼ばれているわ。先天的な人もいれば後天的な人もいるけれど、私達は前者ね」

能力スキル持ち……」

 やはり魔法のような力が存在したか。予想は外れていなかった。

「あなたが突然村に放り出されたのも何か能力によるものかもしれないわね。ただ、人を転送させるようなそんな馬鹿げた能力は聞いたことがないけれど」

 ミラは思い当たる節がないようだ。

「それに条件か、代償も凄そう」

「代償?」

「今のところ強い能力を使えばその代償が大きい、あるいは能力を使う前条件が厳しいというのが定説です。そうですね、この場合はもしかするとヤマトさんの記憶が代償だったのかもしれません」

「転送の代償が俺の記憶か」

 なるほど辻褄は合っているかもしれないが、異世界から転移させたのがその能力だとすれば代償は規格外のはずだ。俺の名前という記憶だけで済んでいるとは考えにくい。あるいは難しい条件をいくつも揃えたのか。
 突然転移させられたことに関しては文句を言いたいところであるが、帰れる方法を探すためにはその能力持ちがまだ生きていることを祈りたい。

「二人とも能力持ちなのか……」

「ええ、そうでなければ女二人で旅なんかできないわよ」

「その能力ってのは聞いてもいいものか?」

「そうね、私達はもう有名になってしまっているから」

 苦笑してミラが続きを話そうとしたときだった。


 ザッーー。


 前方から物音がした瞬間、ミラとフィーナは口を閉じそれぞれの装備に手を添えた。

 一瞬の静寂が流れた後、不意に斜め前方の木の陰から黒い塊がミラに襲いかかった。

 ミラは腰から短刀を抜き食い止める。

 ガキィィン!

 と音がして、ミラと狼が間合いをとった。

 狼だ。

 驚きつつも状況についていく。

「短刀でも歯がたたないのか!?」

「それが魔物と言われる由縁です。鋭い爪と牙はこちらの武器のように硬いのです」

 フィーナはそう言うと腰の剣を抜きミラの加勢をする様子だった。

 そのとき、左右の茂みからも狼が現れた。これで数は合計四匹になった。

「これは少し厄介ね」

 ミラは新しく現れた狼にも注意を配る。

「フィーナは二匹お願い。私も二匹を受け持つわ」

 そう言うと左の狼を弓矢で牽制した後、正面の狼に斬りかかった。ろくな装備がない自分は頭数に数えられなかったようだ。

「せめて足手まといにならないようにしなければ」

 後ずさり後方に下がる。

 そのとき、後ろから物音がした。振り向くと目の前に狼の爪が迫っていた。五匹目がいたのか。

「くっ」

 咄嗟に横に転がった。鋭い痛みはない。うまく避けられたようだ。だが追撃を許すわけにはいけない。
 すぐに狼の方を向き、木刀を前に出す。ゆっくりと立ち上がる。

 ーーそして今に至る。

「時間稼ぎをするしかない」

 襲いかかってきた狼をなんとか木刀で受けとめる。しかし、木刀に噛み付いた狼はそのまま木刀をへし折ってしまった。

「なっ」

 呆気にとられた瞬間、狼はちょうど袈裟斬りするように前脚を振り下ろした。

 殺られる、と思った瞬間、とっさに狼の前脚を動かした。

 狼はバランスを崩して倒れ込む。

 同時に激しい頭痛に襲われたが体は無事だった。
 これが能力の代償か。命には変えられないがそう連発できるものではないな。

 そう思ったのもつかの間、狼はすぐに態勢を立て直し再び襲いかかってきた。しかし目はなんとか相手のスピードについていけた。木刀を投げ捨て相手の前脚を掴む。しかし勢いにおされてそのまま押し倒された。掴んだ前脚は離さない。狼はもどかしそうにもう一方の脚を振り下ろす。無我夢中でその脚も掴む。

 狼を捕まえた腕が震える。力を抜いた瞬間に殺られる。

「そのまま動かないで!」

 絶望的な状況のなか声が響いた。

 狭い視界から燃えるような何かが飛んできたと思った瞬間、組み合っていた狼が吹き飛んだ。
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