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0005.邂逅
しおりを挟む部屋の入口に立っていた二人はゆっくりと歩いてきたが、近づきすぎない距離で止まった。
静かに対峙する。いや、対立しているわけではないんだけど。
さっきの言葉は理解できた。そもそも自分の喋っているのは日本語のつもりだが何かしら変換されているのかもしれない。確かに光ったわよね、が実はこの国では別の意味で使われているという奇想天外な展開はないと信じたい。村では本も読めたしきっと大丈夫。
よしくだらないところまで心配するのも平常どおり。いい感じで頭は回っている。
何といっても、この世界で初めての人間との接触だ。ここから始まるのは交渉と言っても良いかもしれない。友好的ならいいが、無慈悲に略奪される可能性もある。気は抜けない。
もし俺の木刀が盗られでもしたら……別にいいや。
よく考えると失うものはなにもなかった。命だけは守ろう。
さて何から話すべきか。ひとまず、やっと人に会えたんだ。まずはその喜びを伝えよう。
ここまできて、ようやく相手の顔をはっきりと見た。二人とも女性だった。
さきほど声を上げたのは快活そうな少女の方だろう。年は自分と同じぐらいか少し下だろうか。自分よりは頭一つほど小さいが身体的には女性として平均的だろうか。いろいろな意味において。いや、深い意味はない。髪はやや赤みがかっている。顔立ちはよく整っているが、お転婆そうな雰囲気がキツさを感じさせず、愛らしい。かわいがられそうなタイプである。
もう一人は少女の一歩下がった位置にいて、少女よりも大人びてみてる。もしかしたら年上かもしれない。身長は自分より少し小さいくらいか。モデルのようにスレンダーだが、なかなかどうして服の上からでも豊かなものをお持ちなのが覗える。身体的な意味でベストスタイル賞を贈ってもいい。もう一度いうが深い意味はない。それでいて顔立ちも整っているときた。オー、マイゴーシュ。天は二物を与えたのか。流れるような金髪からはこちらを値踏みするような視線が注がれている。まだ何もしていないはずだが、すでに警戒されているようだ。
今風にいえば、美人すぎる王女と美人すぎる付き人といったところだろうか。まだ王女と決まったわけではないけれど王女は美人と相場が決まっている。それでも美人が王女とは決まっていないか。
少し長く観察しすぎただろうか。向こうはこちらの出方を窺っていたようだがあまりにも何も動かなかったためか、警戒を強めたような気がしたので慌てて声をかけることにした。まずは喜びを伝えるんだ。
「貴方たちのような綺麗な人に会えて嬉しいです」
慌てて心の声が混ざってしまって軟派な感じになってしまった。しかも二人同時に口説いているみたいになってしまった。本能かもしれないが、本意ではない。
二人は一瞬目を見開いて眉が上がったが、照れたりしないあたり言われ慣れているのかもしれない。あるいは警戒心が勝ったか。
間違いではないので訂正する必要はないのだが、少し気まずいのでもう少し補足しようと思ったところで、少女のほうが先に口を開いた。
「ありがとう。どちら様かしら。見慣れない格好ね」
なかなか優雅な返しである。一言目に口説くような台詞を発した輩にも感謝で返す。第一声から察するにお転婆キャラとみていたが違ったか。言うなれば貴族のたしなみ。間違っても人に名前を聞くときはまず自分から名乗れなんて調子のいいことは言えそうにない。
「失礼。私はミラ。こちらの御方はフィーナよ」
言わなかったのに絶妙な間で被せてきた。対人スキルがあったら振り切れているんじゃないだろうか。
おっと。いつまでも黙っているわけにはいかない。
「俺はーー」
あれ、名前? …………なんだっけ。
ここまできてようやく自分の名前が思い出せないことに気づいたのだった。
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