4 / 51
0003.行く先には
しおりを挟む村のはずれからはちょっとした道ができていた。舗装されたものではなく人々が歩いて草が生えにくくなったようだ。やや遠くに林が見える。どうやら道の先はあの林につながっているようだ。他に目印になるようなものはなく、道に沿って進むことにした。
道中、両側を見渡すが人里は見当たらない。残念ながら転生したのはかなり田舎の村だったのかもしれない。更に進むと、ようやく林にたどり着いた。林に入りしばらく歩くとそのまま抜けてしまった。ついでに道がなくなった。
「木材でも採集するための道だったか?」
隣町との交易のための道と期待していただけに政治家ばりに遺憾の意を表したい。そう思いつつ林を抜けて少し小高い丘を超えたところで鬱蒼とした森が眼下に広がった。どうやら進む方向を完全に間違ったようだ。
しかしながらここで村に戻るのも間抜けである。ついでに喉もカラカラだ。考えた末に少し森に入って水と食料になるものを探すことにした。もちろんサバイバルの経験もないので、とにかくわかりやすく食べらるものがみつかれば御の字である。
「贅沢を言えば果物、あるいは木の実か何か……キノコは少し危険な気がするな」
あたりをキョロキョロと見回しながら、奥に進んでいく。空は生い茂った木で覆われ辺りは薄暗い。道に迷いそうだし、何か出てきそうで気味が悪い。魔物が住んでいる可能性もある。
「これ以上深入りするのは危険か」
しばらく進んだがめぼしいものは何も見つからなかった。そろそろ戻らないと本当に道がなわからなくなりそうだ。
引き返すか、と後ろを振り返った瞬間、反射的に近くの木の陰に隠れた。
「あれは……まさか魔物か?」
実物を見たことはないので確証はないが、漫画やテレビで見かける狼の姿そのものである。体の色からはどちらかと言えばシベリアンハスキー犬によく似ている。実際は犬だったりしないだろうか。数は、1、2、…10匹ほどだ。野生の凶暴さは想像もつかないがとにかく数が多く、襲われたらひとたまりもないだろう。
「逃げるしかないな」
目を離さずに慎重に後ずさりゆっくりとその場を離れる。
しばらくして姿が完全に見えなくなると、もう少し距離をとるために走りだした。
まいったなぁ。もう来た道は戻れない。
そのまま何時間歩いただろうか。気を張っていたためか、時間の感覚がなくなってきた。木刀も単なる杖代わりとなっている。流石にもう喉が乾いて限界だ。脱水症状を自覚しながらゆっくりと歩いていくと、遠くでわずかな音が聴こえてきた。
「水の音だ!」
近くに川があるのだろうか。何にせよありがたい。音がするということは流れがあるということだ。溜まって死んだ水ではない。不思議なものだ。さっきまでは歩くのも億劫だったのに、突然体が軽くなった。
茂みをかき分け音のする方へ急ぐ。心なしか周りも明るくなってきた。どうやら開けた場所に出るようだ。森の終端だったら嬉しい誤算だ。
そんなことを考えながら、歩みを進めると一気に視界が広がった。
「これは……神殿か?」
陽だまりの中に白い建物が悠然とそびえ立ち、その背後にある細滝から下りてきた水が建物の周囲を囲むように流れていた。底まで透き通った水とその水辺に咲く色とりどりの小さな野花は完成された1枚の絵画のように、まるで世界を切り取ったかのように調和している。神秘的、幻想的なその佇まいに自然と背筋が伸びた。
おおよそ人が造ったものとは到底思えないその空間に、恐れ多くも足を踏み入れた。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
魔法少女の異世界刀匠生活
ミュート
ファンタジー
私はクアンタ。魔法少女だ。
……終わりか、だと? 自己紹介をこれ以上続けろと言われても話す事は無い。
そうだな……私は太陽系第三惑星地球の日本秋音市に居た筈が、異世界ともいうべき別の場所に飛ばされていた。
そこでリンナという少女の打つ刀に見惚れ、彼女の弟子としてこの世界で暮らす事となるのだが、色々と諸問題に巻き込まれる事になっていく。
王族の後継問題とか、突如現れる謎の魔物と呼ばれる存在と戦う為の皇国軍へ加入しろとスカウトされたり……
色々あるが、私はただ、刀を打つ為にやらねばならぬ事に従事するだけだ。
詳しくは、読めばわかる事だろう。――では。
※この作品は「小説家になろう!」様、「ノベルアップ+」様でも同様の内容で公開していきます。
※コメント等大歓迎です。何時もありがとうございます!
プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~
笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。
鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。
自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。
傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。
炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!
裏庭が裏ダンジョンでした@完結
まっど↑きみはる
ファンタジー
結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。
裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。
そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?
挿絵結構あります
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
天使のお仕事 -Khiry-
胡蝶
BL
人類みな平等とは良く言ったもので、現実は不公平だ。
パワハラの毎日で、未来に希望も持てず、疲れ切っていた佐藤与一は、一人の天使と出会う。初めて自分を認めてくれた天使。その存在は佐藤の中で大きなものになっていく。
長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~
灰色サレナ
ファンタジー
とある片田舎で貧困の末に殺された3きょうだい。
その3人が目覚めた先は日本語が通じてしまうのに魔物はいるわ魔法はあるわのファンタジー世界……そこで出会った首が取れるおねーさん事、アンドロイドのエキドナ・アルカーノと共に大陸で一番大きい鍛冶国家ウェイランドへ向かう。
魔物が生息する世界で生き抜こうと弥生は真司と文香を護るためギルドへと就職、エキドナもまた家族を探すという目的のために弥生と生活を共にしていた。
首尾よく仕事と家、仲間を得た弥生は別世界での生活に慣れていく、そんな中ウェイランド王城での見学イベントで不思議な男性に狙われてしまう。
訳も分からぬまま再び死ぬかと思われた時、新たな来訪者『神楽洞爺』に命を救われた。
そしてひょんなことからこの世界に実の両親が生存していることを知り、弥生は妹と弟を守りつつ、生活向上に全力で遊んでみたり、合流するために路銀稼ぎや体力づくり、なし崩し的に侵略者の撃退に奮闘する。
座敷童や女郎蜘蛛、古代の優しき竜。
全ての家族と仲間が集まる時、物語の始まりである弥生が選んだ道がこの世界の始まりでもあった。
ほのぼののんびり、時たまハードな弥生の家族探しの物語
半身転生
片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。
元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。
気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。
「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」
実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。
消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。
異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。
少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。
強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。
異世界は日本と比較して厳しい環境です。
日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。
主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。
つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。
最初の主人公は普通の青年です。
大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。
神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。
もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。
ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。
長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。
ただ必ず完結しますので安心してお読みください。
ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。
この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる