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040.大地
しおりを挟むミスリルベアと対峙する。
後方では竜vs狼という迫力満点の好カードで繰り広げられているなか、こちらは人vs熊で見劣り感は否めない。目立たないという意味では都合は良いけれど。
さきほどのシールドを警戒しているのかミスリルベアもいきなり飛び掛かってはこずに様子を窺っていた。
しかし形勢は逆転しつつある。フェリィがミスリルウルフを圧倒しつつある状況で時間をかけると有利になるのはこちらだ。何なら自分はシールドでひたすら時間稼ぎをするというのも悪手ではない。
とはいえ、最善というわけでもない。ここは大自然の中だ。いつまた新たな魔物が現れないとも限らない。
Aランクの魔物より感じる圧力が上なことから、おそらくミスリルベアやミスリルウルフはSランクに相当するのだろう。さすがにSランクの魔物が次々と現れることはないと思うが、魔物側の増援がくると受験者たちやフェリィをサポートするのが難しくなる。
やはりここは攻勢に出るのが良いだろう。
「ファイアボールッ!」
そう判断するとジャブ代わりに火の初等魔法を放った。
ミスリルベアは避けることもなく、ファイアボールは命中するがそのまま霧散してしまった。全くダメージがない。
『ミスリルベアに中途半端な魔法は効かないわっ!』
こちらを見ていた受験者の一人から声が上がる。
なるほど。ミスリルと言えばファンタジーの定番。魔法を弾いたり、吸収するといった特徴を備えることも多い。あの白銀の毛並みも単に見た目だけでなく似たような特性をもっているということか。
弾くのと吸収するのは相反する気もしたが、細かいことはさておくとして、とにかく魔法の効き目は薄いのだろう。魔法使いにとっては天敵だな。
今度はミスリルベアが間合いを詰めてきた。
初撃の鋭い爪を躱したが、その巨体からは想像もできない速さで矢継ぎ早に次々と攻撃が繰り出された。
「っと!シールド!」
連続攻撃を避け続けるが、体勢を崩されて躱しきれなかった最後の攻撃を小さなシールドを張って防ぐ。ミスリルベアがしっかりと大地を踏みしめて繰り出した一撃はさっきのように弾き返すことができず、衝撃を吸収しきれずに今度はこちらが弾き飛ばされる。
空中に身を投げ出されたが、弾き飛ばされる瞬間に自ら後方に跳んでいたことで勢いが軽減され、空中で体勢を立て直して着地を決める。
「アイスランス」
放出系の魔法がだめなら斬撃だ。
氷の槍を生成すると、それを手に持って突進した。
接近すると同時にもう片方の手からファイアボールを複数出現させ、ミスリルベアの顔に向かって投げつける。
例によってミスリルベアが避ける気配はない。それは承知の上だ。
「エクスプロージョン!」
そう唱えるとファイアボールはミスリルベアの眼前で弾けて爆発した。
「グォォォ!」
爆発の衝撃と爆煙が生じ、ミスリルベアが驚いたような声をあげた。ダメージは無いだろうがミスリルベアの視界を奪った。
そのスキに進行方向変えると、ミスリルベアの死角となる方向から飛び掛かりアイスランスを勢いよく突き刺した。
バリィィィン!
しかし、アイスランスの先端がミスリルベアを傷つけることはなく、逆にアイスランスが砕け散った。
逆に視界を奪われたまま攻撃された方へと無闇に振り回したミスリルベアの腕が当たり、吹き飛ばされるとそのまま地面を転がった。
「イツツ……」
転がった際にできた擦り傷から血が滲み出る。
アイスランスの強度が足らなかったか。というよりもミスリルベアが硬すぎるな。魔法が効かないだけでなく斬撃にも強いのか。そりゃ金属だもんなぁ。
流石はSランクといったところか。防御力が半端ではなく攻略しづらい。
治癒魔法で止血しつつ考える。
ふと後ろを見るとフェリィがミスリルウルフを押し倒しているところだった。相変わらず形勢は有利だ。竜と同じレベルの重量感のある攻撃ができればミスリルベアとてダメージを与えられそうだが、さてどうしたものか。
ミスリルが受け流せる限界を超えるような最大出力の魔法を使ってみるか?
しかし、ミスリルがどの程度の魔法まで耐えられるかわからない点がリスクだ。魔力を使い果たして魔力切れになると受験者たちのシールドが解除されてしまう。フェリィの竜化がいつどのように終わるのかわからない以上、急にシールドが解除されるのはマズイ。
安全策をとるなら、いっそフェリィがミスリルウルフを倒すのを待つか…?
次善の策がよぎったときだった。
『ハッハ!ようやくわっちの出番じゃのう!』
突然脳内に懐かしい声が響いたのだった。
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