上 下
36 / 62

034.偏重

しおりを挟む
 遠視スキルで確認できたのは四十匹ほどのフレアウルフの群れだった。またお前らか。


 こちらはざっと二百人。五人で一匹計算。正直、受験者の実力を測るどころか準備運動にもなりはしないレベルだ。


 しかし、そんな考えは甘かったとすぐに知ることになる。


 先頭のフレアウルフがビースターズのある一つの小隊まで到達すると、戦いの火蓋が切られた。


 小隊十人のうちの二人が前に出てフレアウルフと対峙する。本来なら一人でも倒せるぐらいだろうが、二人だともっと簡単かつ安全に先頭を終えられるだろう。


 そう思っていた時期が自分にもありました。


 しばらく戦闘を見守っているとなかなか決着がつかない。


 ふむ。素晴らしい。


 フレアウルフの奮戦が。


 そうこうしているうちに、他の小隊でも交戦が始まるが、これがまた似たような状況になっている。どこも小隊のうち二人、三人ぐらいがフレアウルフと近接戦闘を繰り広げ、残りが後衛として回復魔法を唱えている。


 ただ、おかしい。小隊は十人だ。


 流石に五人くらいで囲めば一気に押し通せるはずだ。


「フェリィ隊長。これはどういうことですか?」


「ん。見ての通り。今回の一次試験は治癒魔法で合格したのが七割」


 治癒士ヒーラー率高くないっ?!


「ど、どうしてこんなに偏っているのでしょうか」


 フェリィは首を傾げる。


「んー、有望なのがいないからって不合格を出しすぎていたら、二次試験の人数が足りなくなりそうになったから途中から調整し始めったって聞いたけど」


 確か、エンコ隊長が。と続けた。


 わかりやすく膝から崩れ落ちそうになった。


 そう言われて昨日の一次試験を思い出す。確かに不合格を連発していたな。そう言えば治癒を得意とするものは負傷者を治すところを試験するとも言っていた。よく見てなかったが、そちらを多く通過させることで帳尻を合わせたのか。


「それにレベル的には去年と大差ない。強い人はとことん強いけど、平均するとあれぐらい。今回で言えば、突出していたのはソーシとカスミって聞いている」


 そうだ。そもそもオールマイティが反則すぎるだけだし、ヒエイに鍛え抜かれたカスミといることが普通だったから少し感覚が狂っているのかもしれない。


 例えユニークスキルで非戦闘系だったからと言って強くなることを諦める必要はない。


 戦士や魔法使いを目指していい。



 ざわっ。


 

 存分に夢を追い続けていいのだ。未来は僕らの手の中!


 やれば…できるっ!



 なにか豪速球でも投げれそうな気がしてきたところでフェリィ隊長から指示を受けた。

 

「じゃあソーシは遊撃で。危なくなった受験者のフォローね。私も行くわ」


 盛り上がってきたところでフェリィ隊長から指示を受けた。


「わかりましたっ!!」


 とても良い返事で返した。


 フェリィが最も遠い位置にいる小隊の方へ向かっていったところで、思い出した。




 そういえば、俺も受験者なんだけど…?

 


 扱いに疑問を覚えながらも危なそうな小隊を探してはフォローに入るのだった。




 十五分ほどかけてフレアウルフの群れは全て撃退した。


「ふぅ…つかれた」


 魔法を使えば簡単に一掃できたが、他の受験者の見せ場を奪うのも気が引けたため、攻撃の方法やタイミングを指示することに徹していたらいつもの倍はつかれた。


 途中からはソーシ先生と呼ばれる始末だ。


 確かに同じ受験者から副隊長、と呼ばれるのは違和感あるが、先生もどうかと思う。


「上手いね。教えるの」


 フェリィからもお褒めの言葉を貰ったが、こう見えて中身は三十八です、なんて言うわけにもいかないので苦笑いで誤魔化した。


 幸いにも 治癒士ヒーラーは多かったため、回復を済ませるのに長くはかからず、ビースターズは再びモンアヴェールへを目指すのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...