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酒呑童子⑦
しおりを挟む「東雲の会長は、後継ぎ問題で悩んでいるらしいな」
と龍彦は葉名に語り出す。
「いっそ、代々伝わる幻の金印を見つけたものに後を継がせようかと思ってるとか言ってたらしいぞ」
まあ、冗談だろうがな、と笑う龍彦に、
「……金印って、卑弥呼のですか?」
と言って、
「キャバクラならチェンジだ、莫迦娘……」
と言われてしまった。
なにが卑弥呼の金印だ、という父親に、貴様こそ、なにがキャバクラだ、この莫迦親父め、と葉名は思っていた。
「先々代が決裁のとき使っていた印鑑らしいんだがな。
そのときも跡目争いがあって、怒って隠して、そのままになっているらしいんだよ」
へえ、と葉名が言うと、龍彦はにんまり笑い、
「意外とお前のとこの会社にあるかもしれないぞ。
あの会社が江戸時代、東雲の先祖が店を開いた場所に立っているらしいからな」
と言ってくる。
「そうだったんですか」
ちゃんと考えて、あの会社を選んだんだったのだろうかな、社長は、と思っていた頃、准が戻ってきた。
そのあと、三人で少し酒を吞んで、父とは別れた。
帰り道、タクシーの中で准が言う。
「和解できたようだな」
「え?」
「トイレ行ってたんじゃないぞ。
二人でゆっくり話した方がいいかと思って、席を外したんだ」
「あ、ありがとうございます」
と言うと、うん、と頷く。
准はそのまま窓の外を見ていた。
夜の街を眺めている准の横顔は、父の呪縛が解けたせいか、びっくりするくらい格好よく見えた。
いや、元からそうだったのだろう。
単に、今まで妙なフィルターがかかっていただけで。
……し、しかし、これはこれで緊張するな、と葉名は思う。
何故、こんな人が私を、と思ってしまって。
「ああ」
と気づいたように准が言った。
「そういえば、なんとなく、お前の家に向かっていたが、いいか?」
「は? えっ?」
と葉名は挙動不審に答えてしまう。
「いや、贅沢させてやると言ったのに、結局、お前がいつも食べてる料理だったんだな、と思って。
金戸さんの料理は美味しいが、お前にとっては贅沢ではなかったよな」
准は、うーんと難しい顔をする。
「お前のような女を喜ばすのは大変だな」
「いえ、喜んでますよ、ものすごく」
と言うと、そうか? と准は半信半疑にこちらを見た。
「社長が連れてってくださるだけで、嬉しいです」
「……どうした急に」
……いや、どうしたんでしょうね、私。
そう思いながら、
「ちょっと感謝の意を表してみただけです」
と葉名は誤摩化した。
でも、本当のことだ。
「お金を使う贅沢はいりません。
私は家族みんなでそろっているだけで贅沢な感じがしてしまうので」
そうか、と准が笑った。
おっと、そういえば、今、無意識のうちに、社長も家族に入れてしまいましたよ、と葉名は赤くなる。
「いや、贅沢し足らないのなら、これから何処か行くかと思ったんだが」
「何処かって?」
もう食事も済ませたし、何処に行くというのだろうと思って訊くと、
「今日は、何処かホテルにでも泊まるかと思ったんだ。
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と准は投げやりに言ってきた。
「いやいや、おうち帰りますよ」
「そうか。
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