111 / 111
最終章
最終話 ヴィーナスは微笑む
しおりを挟む
「はい、家が燃えています。ですので早く……はい、はい。お願いいたします。」
通話の終了ボタンをを押した女……河野瑞穂は笑みを漏らす。
顔を上げると、目の前には炎が家まるごとを包み込んでいた。
瑞穂は真っ赤に染まるその光景を恍惚と見つめる。
瑞穂は改めて、七瀬舞のことを考えていた。
"普通"でなんの取柄もなく平凡な私の友人。
いや…正確には"駒"か。
あの女の使い道といえば、駒しかなかった。
そしてあの女は使い捨ての駒としては十分な役目を果たしてくれた。
それだけではない。
華やかで飛びぬけた美しさを兼ね備えているこの私の、引き立て役にもなってくれた。
初めの計画では、最後まで舞を使うつもりだった。
そして使い切ってから始末をする予定だった。
馬鹿がつくくらい素直な舞のことだから、ずっと私のことを信用して付いてくるものだと思っていた。
しかし…
瑞穂はちっと舌を鳴らした。
大人しく私に従順であれば良かったものを、あの女は私のことを疑い出した。
おかげで駒としてさえ使い物にならなくなってしまったのだ。
おまけに栗花落千早と一緒に、犯人捜しなどというものを始めた。
そうなれば、もう舞は用済みだった。始末をするしかない。
まぁ、どちらにしても舞は最後には始末をするつもりでいたのだが。
そこで利用しようと考えたのが栗花落千早だ。
最初は千早を利用するつもりはなかった。むしろ、犯人探しなどよけいなことをと思っていた。
しかし千早は拓海殺しの犯人捜しに狂っていた。使える、と思った。
千早に舞を殺させることにしたのだ。
私の思惑通り、彼女はまんまと舞を疑い、舞に殺意を抱いた。
ただ、ここでも瑞穂の計画に邪魔が入った。
宮坂竜一が、舞を庇ったのだ。
なんと馬鹿なことをしてくれた、と思った。
おかげで千早に舞を殺させるという計画は台無しになってしまった。
しかし、そのことも計算済みだった。
私はそういったことを予想して、保険として第二の"駒"も用意していたのだ。
(まぁ、用意していたというよりは、この私の美貌に吸い寄せられ勝手に寄って来ただけなのだが。)
そう、それが雨宮紗耶香だった。
あの女は私に心酔し、常に私の言いなりだった。
駒として使われるだけだということも知らずに、すっかり私を信用しきっていた愚かなあの女は、面白いくらいに私の殺人計画にも乗ってくれた。
それにしても…と瑞穂は顔を歪める。
あの女の鬱陶しさと言ったらなかった。
瑞穂先輩、瑞穂先輩、としつこいくらいに尻尾を振って付いてくる。
金魚のフンみたいな女だった。
瑞穂は、さきほどの紗耶香の喚き声を思い出し、くすくすと笑う。
あの女が必死に助けを乞う声は、本当に滑稽だった。
紗耶香は私のことをすっかり信用し、自分は私の特別な存在なのだと死の寸前まで思っていただろう。
自分一人が逃げ延び、この私のそばにいれる優越感に浸ることに胸を高鳴らせていたに違いない。
それが一瞬にして打ち砕かれた時のあの女の心境を思うと、ぞくぞくした。
なんとも言えない高揚感が沸き起こり、私を満足させた。
あぁ……人が苦しみ絶望に陥る顔は、私を最高に喜ばせてくれる。
ありがとう。馬鹿な子たち。
あなたたちには本当に感謝をしなくてはいけないわね。
あなたたちのおかげで、私は最高のストーリーを仕上げることができたのだから。
そう、いつだって私は物語の主人公。
そしてこの本を書き終えたら、また次のストーリーを始めるだけ。
さぁ、次はどんな物語を作ろうか。
誰に、私の物語に彩りを添えてもらおうか。
込み上げてくる高揚感を抑えきれず、美しきヴィーナスは艶やかに微笑んだ。
-----完-----
通話の終了ボタンをを押した女……河野瑞穂は笑みを漏らす。
顔を上げると、目の前には炎が家まるごとを包み込んでいた。
瑞穂は真っ赤に染まるその光景を恍惚と見つめる。
瑞穂は改めて、七瀬舞のことを考えていた。
"普通"でなんの取柄もなく平凡な私の友人。
いや…正確には"駒"か。
あの女の使い道といえば、駒しかなかった。
そしてあの女は使い捨ての駒としては十分な役目を果たしてくれた。
それだけではない。
華やかで飛びぬけた美しさを兼ね備えているこの私の、引き立て役にもなってくれた。
初めの計画では、最後まで舞を使うつもりだった。
そして使い切ってから始末をする予定だった。
馬鹿がつくくらい素直な舞のことだから、ずっと私のことを信用して付いてくるものだと思っていた。
しかし…
瑞穂はちっと舌を鳴らした。
大人しく私に従順であれば良かったものを、あの女は私のことを疑い出した。
おかげで駒としてさえ使い物にならなくなってしまったのだ。
おまけに栗花落千早と一緒に、犯人捜しなどというものを始めた。
そうなれば、もう舞は用済みだった。始末をするしかない。
まぁ、どちらにしても舞は最後には始末をするつもりでいたのだが。
そこで利用しようと考えたのが栗花落千早だ。
最初は千早を利用するつもりはなかった。むしろ、犯人探しなどよけいなことをと思っていた。
しかし千早は拓海殺しの犯人捜しに狂っていた。使える、と思った。
千早に舞を殺させることにしたのだ。
私の思惑通り、彼女はまんまと舞を疑い、舞に殺意を抱いた。
ただ、ここでも瑞穂の計画に邪魔が入った。
宮坂竜一が、舞を庇ったのだ。
なんと馬鹿なことをしてくれた、と思った。
おかげで千早に舞を殺させるという計画は台無しになってしまった。
しかし、そのことも計算済みだった。
私はそういったことを予想して、保険として第二の"駒"も用意していたのだ。
(まぁ、用意していたというよりは、この私の美貌に吸い寄せられ勝手に寄って来ただけなのだが。)
そう、それが雨宮紗耶香だった。
あの女は私に心酔し、常に私の言いなりだった。
駒として使われるだけだということも知らずに、すっかり私を信用しきっていた愚かなあの女は、面白いくらいに私の殺人計画にも乗ってくれた。
それにしても…と瑞穂は顔を歪める。
あの女の鬱陶しさと言ったらなかった。
瑞穂先輩、瑞穂先輩、としつこいくらいに尻尾を振って付いてくる。
金魚のフンみたいな女だった。
瑞穂は、さきほどの紗耶香の喚き声を思い出し、くすくすと笑う。
あの女が必死に助けを乞う声は、本当に滑稽だった。
紗耶香は私のことをすっかり信用し、自分は私の特別な存在なのだと死の寸前まで思っていただろう。
自分一人が逃げ延び、この私のそばにいれる優越感に浸ることに胸を高鳴らせていたに違いない。
それが一瞬にして打ち砕かれた時のあの女の心境を思うと、ぞくぞくした。
なんとも言えない高揚感が沸き起こり、私を満足させた。
あぁ……人が苦しみ絶望に陥る顔は、私を最高に喜ばせてくれる。
ありがとう。馬鹿な子たち。
あなたたちには本当に感謝をしなくてはいけないわね。
あなたたちのおかげで、私は最高のストーリーを仕上げることができたのだから。
そう、いつだって私は物語の主人公。
そしてこの本を書き終えたら、また次のストーリーを始めるだけ。
さぁ、次はどんな物語を作ろうか。
誰に、私の物語に彩りを添えてもらおうか。
込み上げてくる高揚感を抑えきれず、美しきヴィーナスは艶やかに微笑んだ。
-----完-----
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
40
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
一気に最後まで読んでしまいました
悔しくて悔しくて本当に瑞穂のことを嫌いになりました
あの舞のことを見張っていた刑事が最後助けてくれるのとかないの?
本当に何であんな人に振り回されちゃうの?
心を動かされました
[変な感想ですみません]
おもしろい!
お気に入りに登録しました~
一話から拝見させていただいてます。面白いです。第一章、第二章の瑞穂さんの暗躍っぷりが際立ってます、最新話でも事件が起こっておりどう展開されていくのか気になっております。