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最終章
第98話 悲しき追及
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舞はバイトが終わると、絵理に力強く背中を叩かれ店を後にした。
スマートフォンを見ると、千早からLINEのメッセージが来ていた。
『私の家まで』
たった一言だけ、素っ気なくそう書かれていた。
千早らしいと言えば千早らしいけど、やはりいつもより冷たい気がする。
舞はスマートフォンを閉じると、千早の家へと向かった。
千早の家に着き、インターフォンを鳴らす。
千早は舞だということも確認せずにドアを開け、「入れよ」と中に招いた。
リビングに通され、入ろうとした瞬間、はっと息を呑む。
「待ってましたよ、舞さん。」
そこには真桜が立っていたのだ。
口元には笑みを浮かべているが、その目は数日前に会った時と同じく全く笑っていなかった。
温度の感じない瞳は、本来の真桜のものではなかった。
ぞくり、と身体に寒気が走ったような気がする。
千早に促されて、ソファーに座る。
千早は「お茶を入れるから」と台所へ入っていった。
真桜と二人だけがリビングに残されたが、千早がお茶を煎れて戻ってくるまで一言も言葉を交わさなかった。
真桜は俯いたまま、顔を合わせようともしない。
「悪かったな、急に呼び出して。」
千早がテーブルにティーカップを置きながら、言う。
「ううん、特に用事もなかったからいいの。」
最近は口をきいてもくれなかったため、素っ気ないが千早と言葉を交わせることが嬉しかった。
涙が出そうになるのを堪えて、ティーカップを手に取り一口啜る。
千早は両手を組むと、その手をテーブルに置いた。
「今日呼んだのは大事な話があったからなんだよ。」
「話?話って、なんの…」
「もちろん拓海の死に関してのことに決まってるだろ。」
「え…?で、でも、私はもう……」
そう言いかけた舞を、千早は右手を出して制した。
「分かってるよ。もうこの件からは手を引いたって言いたいんだろ。」
「……」
「だがな、舞を呼んだのには意味があるんだ。真桜の話を聞いてな。」
そう言って真桜に視線を送る。
真桜は千早と視線を絡め、こくんと頷き合う。
「なぁ、舞。舞は最初の事件から、河野瑞穂が関わっているって言ってたよな。」
「……うん。」
「だからこそ、私たちは河野瑞穂を犯人の第一候補として考えていた。ただ拓海の死に関してはあの女にはアリバイがあった。真桜の件も同じだ。」
「そう、だったね。」
千早は何を言おうとしているのかが分からず、舞はごくりと喉を鳴らした。
なんだろう、この感じ。
この場にいてはいけない、早く離れてと、脳が警鐘を鳴らしている。
だけど、体が金縛りにあったかのようにぴくりとも動かせなかった。
「なぜ、アリバイがあったのか。私たちはそれを考えた。瑞穂が黒幕で、瑞穂がなにかしらの方法でアリバイを偽造したのではないかと思っていた。だけどそれに囚われすぎていたんだ。」
「どういう、意味…?」
「簡単だろう。他に黒幕がいるからだよ。」
「え……?」
「あくまで瑞穂は囮だった。拓海の件で河野瑞穂にアリバイがあったのは、単純に犯人にとって計算外のことだったんだろう。まさかあの時間真桜が瑞穂と一緒にケーキを買いに行っていたなんて、思わなかったんじゃないのか?せっかく河野瑞穂に罪をかぶせようと思っていたのにな。」
「な、なに言っているの…?それなら…誰が犯人だって……」
千早はそれには答えずに右手をポケットの中に入れ、何かを取り出した。
その手に握られたものを、舞の目の前に突きつけた。
その物体を見て、舞はひっと小さく悲鳴を上げた。
きらりと、その先が鋭い光を放っている。
ペティナイフだった。
「……お前だよ、舞。」
スマートフォンを見ると、千早からLINEのメッセージが来ていた。
『私の家まで』
たった一言だけ、素っ気なくそう書かれていた。
千早らしいと言えば千早らしいけど、やはりいつもより冷たい気がする。
舞はスマートフォンを閉じると、千早の家へと向かった。
千早の家に着き、インターフォンを鳴らす。
千早は舞だということも確認せずにドアを開け、「入れよ」と中に招いた。
リビングに通され、入ろうとした瞬間、はっと息を呑む。
「待ってましたよ、舞さん。」
そこには真桜が立っていたのだ。
口元には笑みを浮かべているが、その目は数日前に会った時と同じく全く笑っていなかった。
温度の感じない瞳は、本来の真桜のものではなかった。
ぞくり、と身体に寒気が走ったような気がする。
千早に促されて、ソファーに座る。
千早は「お茶を入れるから」と台所へ入っていった。
真桜と二人だけがリビングに残されたが、千早がお茶を煎れて戻ってくるまで一言も言葉を交わさなかった。
真桜は俯いたまま、顔を合わせようともしない。
「悪かったな、急に呼び出して。」
千早がテーブルにティーカップを置きながら、言う。
「ううん、特に用事もなかったからいいの。」
最近は口をきいてもくれなかったため、素っ気ないが千早と言葉を交わせることが嬉しかった。
涙が出そうになるのを堪えて、ティーカップを手に取り一口啜る。
千早は両手を組むと、その手をテーブルに置いた。
「今日呼んだのは大事な話があったからなんだよ。」
「話?話って、なんの…」
「もちろん拓海の死に関してのことに決まってるだろ。」
「え…?で、でも、私はもう……」
そう言いかけた舞を、千早は右手を出して制した。
「分かってるよ。もうこの件からは手を引いたって言いたいんだろ。」
「……」
「だがな、舞を呼んだのには意味があるんだ。真桜の話を聞いてな。」
そう言って真桜に視線を送る。
真桜は千早と視線を絡め、こくんと頷き合う。
「なぁ、舞。舞は最初の事件から、河野瑞穂が関わっているって言ってたよな。」
「……うん。」
「だからこそ、私たちは河野瑞穂を犯人の第一候補として考えていた。ただ拓海の死に関してはあの女にはアリバイがあった。真桜の件も同じだ。」
「そう、だったね。」
千早は何を言おうとしているのかが分からず、舞はごくりと喉を鳴らした。
なんだろう、この感じ。
この場にいてはいけない、早く離れてと、脳が警鐘を鳴らしている。
だけど、体が金縛りにあったかのようにぴくりとも動かせなかった。
「なぜ、アリバイがあったのか。私たちはそれを考えた。瑞穂が黒幕で、瑞穂がなにかしらの方法でアリバイを偽造したのではないかと思っていた。だけどそれに囚われすぎていたんだ。」
「どういう、意味…?」
「簡単だろう。他に黒幕がいるからだよ。」
「え……?」
「あくまで瑞穂は囮だった。拓海の件で河野瑞穂にアリバイがあったのは、単純に犯人にとって計算外のことだったんだろう。まさかあの時間真桜が瑞穂と一緒にケーキを買いに行っていたなんて、思わなかったんじゃないのか?せっかく河野瑞穂に罪をかぶせようと思っていたのにな。」
「な、なに言っているの…?それなら…誰が犯人だって……」
千早はそれには答えずに右手をポケットの中に入れ、何かを取り出した。
その手に握られたものを、舞の目の前に突きつけた。
その物体を見て、舞はひっと小さく悲鳴を上げた。
きらりと、その先が鋭い光を放っている。
ペティナイフだった。
「……お前だよ、舞。」
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