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最終章
第95話 新たな事実
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講義が終わった後、舞はすぐに真桜の入院している病院へと向かった。
入口を入り、真桜のいる病棟までエレベーターで上がる。
ナースステーションで声をかけると、40代くらいのナースが、「あぁ、久賀さんね。お友達が多いんですね、さきほども別のお友達がいらっしゃいましたよ。」
「え?別な人ですか?」
舞はぱちくりと目をしばたたかせる。
誰だろう?千早だろうか。
千早だったらなんとなくきまずいけれど…仕方ない。
舞は手に持っているビニール袋に視線を移す。
念のため、事前に売店で購入したお茶が三本入っている。
もし千早が来ていたら、渡す予定だった。
真桜の病室前まで来ると、中から話し声が聞こえた。
と、その声を聞いてドアを開けようとしていた手がぴたりと止まる。
違う、千早じゃない。
中から聞こえてくるのは、いつも聞いている千早のハスキーな声色とは違うものだった。
この声の主も、私は知っている。
ソプラノで、よく通った涼やかな声色。
まるで鈴の音のような…
これは……
瑞穂だ、と舞はすぐに分かった。
隠れることはないのに、思わずドアに耳を寄せていた。
どくん、どくん、と心臓が強く波打っていた。
『だいぶ顔色がよくなってきて、良かったわ。』
『はい、すっかり。ありがとうございます。』
真桜の声が聞こえてくる。
その声を聞いて、舞はほっと胸を撫でおろした。
前に会った時と比べて、だいぶ元気になったようだ。
その後はなんのとりとめもない会話が続いていく。
『真桜ちゃん。』
『はい』
『あのね、真桜ちゃんに折り入ってお願いがあるの。』
『なんですか?』
『……て………ほしいの』
『えっ?』
今、瑞穂はなんと言ったのだろうか。
声を潜めていて、はっきりとは聞き取れなかった。
『お願い、これを頼めるのは真桜ちゃんしかいないの。』
『で…でも……』
真桜は返事に躊躇っているようだった。
なに?いったい瑞穂に何をお願いされたの?
『真桜ちゃんもきっと同じこと思ってるはず。……だから、協力してくれるわよね?』
少しの逡巡の後、真桜は"はい"と答えたようだった。
そのタイミングで、舞は今来たばかりというように堂々と病室のドアを開ける。
「真桜ちゃーん、お見舞いに来たよ!…あれ?瑞穂も来てたの?」
そして今気づいたというように、瑞穂に視線を送った。
ベッドのそばの椅子に腰をかけていた瑞穂が、ゆっくりとした動作で立ち上がる。
彼女は長い髪を束ねて高い位置で団子にしていた。
うなじが露わになっていて、とても艶っぽい。瑞穂の美しさがさらに際立つようだった。
瑞穂は自然な所作でそのうなじに手を当てる。
「ええ、真桜ちゃんのことが心配になって。元気そうで良かったわ。あ、舞良かったら座って。」
そう言って椅子を進めようとした瑞穂を、舞は右手を出して制する。
「いいのいいの、座ってて。」
そう言ってビニール袋から一つのペットボトルを瑞穂に差し出す。
「そんな、いいのに。」
「いいのよ、もしかしたら千早とかが来てるかもしれないって思って余分に買ってただけから。気にしないで飲んで。」
「それじゃあ、お言葉に甘えていただくわ。」
瑞穂はキャップを開けて、ペットボトルに口を付ける。
舞は真桜の分も出して彼女に渡した。
彼女はなぜかぎこちない笑みを浮かべて、お茶を受け取った。
どうしたんだろう?と思ったが、特にそこまで気にもとめなかった。
真桜と二人で話したいと思ってきたけれど、瑞穂にも聞きたいことはある。
ちょうど良い。
「瑞穂、聞きたいことがあるの。」
「なぁに?」
「宮坂竜一……私たちの同級生。知ってるわよね?」
その名前を出した瞬間、わずかだが瑞穂の眉がぴくりと上がった。
「えぇ、知ってるわよ。話したことあるもの。」
「高校卒業してから、彼と連絡は取ってる?」
舞の問に、瑞穂は怪訝そうに舞を見つめてきた。
何度か見たことのある、温度の感じさせない瞳だった。
「いいえ、取ってないわ。なぜ?」
「この前竜一くんと会ったんだけど…瑞穂の名前を出したとたんかなり動揺してた。だから何かあるんじゃないかって思って。」
舞はこの前起きたことを単刀直入に伝えた。
ここにきて嘘を付いても仕方がない。
「そう…そんなことが。」
けれど瑞穂は少しも狼狽える様子は見せず、唇に人差し指を当てて困ったように笑みを浮かべた。
「そうね…これは言っていいものなのか分からないけれど。舞にとってはショックを受けることになるかもしれないわよ。それでもいいの?」
自分が瑞穂を問い詰めていたはずなのに、すっかり形成逆転だ。
彼女の唇には、薄く笑みが浮かんでいるようにも見えた。
いつの間にか主導権を握られ、冷や汗をかいている。
「別に…いいよ。言ってくれても。」
カバンを握る手の力を込めて答えると、瑞穂はふぅっとため息を吐いた。
「私、見かけたのよ。宮坂くんが、女の人と腕を組んで仲良さそうにしているところ。」
入口を入り、真桜のいる病棟までエレベーターで上がる。
ナースステーションで声をかけると、40代くらいのナースが、「あぁ、久賀さんね。お友達が多いんですね、さきほども別のお友達がいらっしゃいましたよ。」
「え?別な人ですか?」
舞はぱちくりと目をしばたたかせる。
誰だろう?千早だろうか。
千早だったらなんとなくきまずいけれど…仕方ない。
舞は手に持っているビニール袋に視線を移す。
念のため、事前に売店で購入したお茶が三本入っている。
もし千早が来ていたら、渡す予定だった。
真桜の病室前まで来ると、中から話し声が聞こえた。
と、その声を聞いてドアを開けようとしていた手がぴたりと止まる。
違う、千早じゃない。
中から聞こえてくるのは、いつも聞いている千早のハスキーな声色とは違うものだった。
この声の主も、私は知っている。
ソプラノで、よく通った涼やかな声色。
まるで鈴の音のような…
これは……
瑞穂だ、と舞はすぐに分かった。
隠れることはないのに、思わずドアに耳を寄せていた。
どくん、どくん、と心臓が強く波打っていた。
『だいぶ顔色がよくなってきて、良かったわ。』
『はい、すっかり。ありがとうございます。』
真桜の声が聞こえてくる。
その声を聞いて、舞はほっと胸を撫でおろした。
前に会った時と比べて、だいぶ元気になったようだ。
その後はなんのとりとめもない会話が続いていく。
『真桜ちゃん。』
『はい』
『あのね、真桜ちゃんに折り入ってお願いがあるの。』
『なんですか?』
『……て………ほしいの』
『えっ?』
今、瑞穂はなんと言ったのだろうか。
声を潜めていて、はっきりとは聞き取れなかった。
『お願い、これを頼めるのは真桜ちゃんしかいないの。』
『で…でも……』
真桜は返事に躊躇っているようだった。
なに?いったい瑞穂に何をお願いされたの?
『真桜ちゃんもきっと同じこと思ってるはず。……だから、協力してくれるわよね?』
少しの逡巡の後、真桜は"はい"と答えたようだった。
そのタイミングで、舞は今来たばかりというように堂々と病室のドアを開ける。
「真桜ちゃーん、お見舞いに来たよ!…あれ?瑞穂も来てたの?」
そして今気づいたというように、瑞穂に視線を送った。
ベッドのそばの椅子に腰をかけていた瑞穂が、ゆっくりとした動作で立ち上がる。
彼女は長い髪を束ねて高い位置で団子にしていた。
うなじが露わになっていて、とても艶っぽい。瑞穂の美しさがさらに際立つようだった。
瑞穂は自然な所作でそのうなじに手を当てる。
「ええ、真桜ちゃんのことが心配になって。元気そうで良かったわ。あ、舞良かったら座って。」
そう言って椅子を進めようとした瑞穂を、舞は右手を出して制する。
「いいのいいの、座ってて。」
そう言ってビニール袋から一つのペットボトルを瑞穂に差し出す。
「そんな、いいのに。」
「いいのよ、もしかしたら千早とかが来てるかもしれないって思って余分に買ってただけから。気にしないで飲んで。」
「それじゃあ、お言葉に甘えていただくわ。」
瑞穂はキャップを開けて、ペットボトルに口を付ける。
舞は真桜の分も出して彼女に渡した。
彼女はなぜかぎこちない笑みを浮かべて、お茶を受け取った。
どうしたんだろう?と思ったが、特にそこまで気にもとめなかった。
真桜と二人で話したいと思ってきたけれど、瑞穂にも聞きたいことはある。
ちょうど良い。
「瑞穂、聞きたいことがあるの。」
「なぁに?」
「宮坂竜一……私たちの同級生。知ってるわよね?」
その名前を出した瞬間、わずかだが瑞穂の眉がぴくりと上がった。
「えぇ、知ってるわよ。話したことあるもの。」
「高校卒業してから、彼と連絡は取ってる?」
舞の問に、瑞穂は怪訝そうに舞を見つめてきた。
何度か見たことのある、温度の感じさせない瞳だった。
「いいえ、取ってないわ。なぜ?」
「この前竜一くんと会ったんだけど…瑞穂の名前を出したとたんかなり動揺してた。だから何かあるんじゃないかって思って。」
舞はこの前起きたことを単刀直入に伝えた。
ここにきて嘘を付いても仕方がない。
「そう…そんなことが。」
けれど瑞穂は少しも狼狽える様子は見せず、唇に人差し指を当てて困ったように笑みを浮かべた。
「そうね…これは言っていいものなのか分からないけれど。舞にとってはショックを受けることになるかもしれないわよ。それでもいいの?」
自分が瑞穂を問い詰めていたはずなのに、すっかり形成逆転だ。
彼女の唇には、薄く笑みが浮かんでいるようにも見えた。
いつの間にか主導権を握られ、冷や汗をかいている。
「別に…いいよ。言ってくれても。」
カバンを握る手の力を込めて答えると、瑞穂はふぅっとため息を吐いた。
「私、見かけたのよ。宮坂くんが、女の人と腕を組んで仲良さそうにしているところ。」
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