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三章
第78話 三人の思い
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千早の言葉に、舞も真桜もごくりと唾を飲み込んだ。
"誰かに殺された"
真桜も舞も、おそらく千早と同じことを思っていた。
少なくとも、拓海が自殺なんかするわけがないとなんの根拠もない確信があった。
だけど実際に言葉にされると、あまりにもその言葉はリアルに響いた。
千早はゆっくりと両手を結び、その手をテーブルに置いた。
舞と真桜の二人を交互に見つめてくる。
その瞳は悲しみと怒りと悔しさ、いろんな感情が入り混じっていた。
「二人とも、私と思ってることは同じだね?」
千早は確認するように聞いてくる。
真桜も舞もこくんと頷いた。
千早は満足そうに頷くと、真桜に視線を送った。
「えっと…妹ちゃん…真桜だっけ??さっき刑事に、最近になって急に拓海が体調悪くなったって言ったね?」
「はい。」
「その他には何か変わったことなかったのか?」
真桜はいいえ、と言いかけてハッと口をつぐんだ。
「そういえば…」
「なんだ?!」
千早はテーブルに両手を置き、勢いよく腰を浮かせた。
あまりの圧に、真桜はびくんと身体を震わせる。
千早はごめん、と言ってソファに腰を戻した。
「…いえ、あの。……そういえば2日前だったかな。お兄ちゃんのバイト帰り一緒に帰ってきたら…黒い人影が走り去っていくのが見えたの。…たぶん私の家から、だったと……」
「それは本当か?」
千早の目がきらりと光ったように見えた。
最初は錯乱状態だった千早だが、今はその口調からは犯人への憎しみが溢れ出ている。
本当です、と真桜は答えた。
「男だったか?女だったか?」
「一瞬だったので、あまりはっきりは見えませんでしたが…シルエット的に細かったので女じゃないかと思います…さきほど警察には言い忘れてしまいましたが……」
「言わなくていい。」
千早はきっぱりと言った。
「警察なんて当てにはならない。口ばっかりできちんと捜査なんてしてくれるもんか。自殺と決めつけられてしまうのがオチだ。」
それには舞も真桜も同意だった。
二人も強く頷いた。
「だからと言って黙って見ていることなんかできない。気持ちが収まらない。そう思わないか?」
「もちろん思う。」「思います。」
真桜と舞は声に力を込めて答えた。
千早が"そう言ってくれると思った"と満足そうに首を縦に動かした。
「二人に協力してほしんだ。」
「協力?」
真桜と舞は顔を見合わせて首を傾げる。
「警察は当てにならない。それなら自分達でやるしかないってことに決まってるだろ。」
「やる、って何を…?」
千早の思いがけない発言に、思わずぎょっとした。
何のことだかはなんとなく分かっていたが、つい聞いてしまう。
千早の目には真剣な光が宿っていた。
本気だ。千早は冗談なんかで言っているわけではない。
「犯人を、同じ目に合わせてやるってことだ。」
「……同じ目に。」
舞は同じ言葉を繰り返すことしかできなかった。
「舞も真桜も…同じ気持ちだよな?」
「それは…でも……」
舞は思わず言葉を詰まらせた。
犯人、と言われて当たり前のようにある人物の顔が思い浮かんだからだった。
おそらくもう、自分は気づいているのだ。
直接ではないにしても、これまで起きてきた事件には必ず"あの人"の影があるということを。
だけど、確信もないことをはっきりと言葉にするのは躊躇われた。
それに今は真桜の手前もある。
もしかしたら自分の慕っている人が犯人かもしれないなんていう事実に耐えれるのだろうか。
いや、そういう自分も彼女のことを慕っていたのだけれど…
「このまま諦めるのか?」
千早は両手を結んでテーブルに置いたまま、鋭く見つめてきた。
「私だって諦めたくはないよ…でも同じ目に合わせるなんてそんな。そんなことしたら真っ先に私たちが警察に疑われちゃうんだよ?!」
「分かってる。分かってるけどこのままじゃ拓海がうかばれない。」
悔しそうに唇を噛む千早。
犯人に復讐したいという千早の気持ちは痛いほど分かる。
おそらく千早は、拓海の無念を晴らすためなら自分が捕まってもいいとまで思ってるのだろう。
だけど、だからと言って罪を犯していいわけでではない。
そこまで思い、舞は冷静に考えられている自分に驚いていた。
何も喋らない隣の真桜を見ると、何かを考え込んでいるように目を閉じている。
しばらくすると決意を固めたように目を開けて、ゆっくりと話し始めた。
「じゃあ…絶対に捕まらない方法で犯人に鉄槌を下すならどうですか?」
「…え?」
千早と舞は口を半開きにして固まる。
「自殺に見せかければいいんですよ。…お兄ちゃんがされたみたいに。」
言いながら、真桜の瞳には涙が溜まっていく。
彼女もまた、犯人への憎しみのほうが上回ってきているのだろう。
その瞳にはさきほどまでの弱々しさはなく、はっきりと怒りの炎が灯っていた。
「そんなことできる方法があるの…?」
舞は震える声で問う。
「それはこれから自分達で見つけるしかない。…ですよね?千早さん。」
真桜に問われた千早は、強く頷く。
真桜と千早の心はもう決まっているようだ。
二人は一緒に舞を見つめてくる。
その顔からは"あとは舞しだいだよ"と暗に仄めかしているのが伝わってきた。
断ってもいいよ、と。仮にそうしても何も言わないよ、と。
「…分かった。協力する。」
二人の強い決意を前に、思わず舞はそう答えていた。
「じゃあ、決まりだ。まずは自殺じゃないことを前提に、犯人を見つけることから始めよう。」
こうして三人の関係は"拓海への復讐"という歪な形で結ばれることになった。
"誰かに殺された"
真桜も舞も、おそらく千早と同じことを思っていた。
少なくとも、拓海が自殺なんかするわけがないとなんの根拠もない確信があった。
だけど実際に言葉にされると、あまりにもその言葉はリアルに響いた。
千早はゆっくりと両手を結び、その手をテーブルに置いた。
舞と真桜の二人を交互に見つめてくる。
その瞳は悲しみと怒りと悔しさ、いろんな感情が入り混じっていた。
「二人とも、私と思ってることは同じだね?」
千早は確認するように聞いてくる。
真桜も舞もこくんと頷いた。
千早は満足そうに頷くと、真桜に視線を送った。
「えっと…妹ちゃん…真桜だっけ??さっき刑事に、最近になって急に拓海が体調悪くなったって言ったね?」
「はい。」
「その他には何か変わったことなかったのか?」
真桜はいいえ、と言いかけてハッと口をつぐんだ。
「そういえば…」
「なんだ?!」
千早はテーブルに両手を置き、勢いよく腰を浮かせた。
あまりの圧に、真桜はびくんと身体を震わせる。
千早はごめん、と言ってソファに腰を戻した。
「…いえ、あの。……そういえば2日前だったかな。お兄ちゃんのバイト帰り一緒に帰ってきたら…黒い人影が走り去っていくのが見えたの。…たぶん私の家から、だったと……」
「それは本当か?」
千早の目がきらりと光ったように見えた。
最初は錯乱状態だった千早だが、今はその口調からは犯人への憎しみが溢れ出ている。
本当です、と真桜は答えた。
「男だったか?女だったか?」
「一瞬だったので、あまりはっきりは見えませんでしたが…シルエット的に細かったので女じゃないかと思います…さきほど警察には言い忘れてしまいましたが……」
「言わなくていい。」
千早はきっぱりと言った。
「警察なんて当てにはならない。口ばっかりできちんと捜査なんてしてくれるもんか。自殺と決めつけられてしまうのがオチだ。」
それには舞も真桜も同意だった。
二人も強く頷いた。
「だからと言って黙って見ていることなんかできない。気持ちが収まらない。そう思わないか?」
「もちろん思う。」「思います。」
真桜と舞は声に力を込めて答えた。
千早が"そう言ってくれると思った"と満足そうに首を縦に動かした。
「二人に協力してほしんだ。」
「協力?」
真桜と舞は顔を見合わせて首を傾げる。
「警察は当てにならない。それなら自分達でやるしかないってことに決まってるだろ。」
「やる、って何を…?」
千早の思いがけない発言に、思わずぎょっとした。
何のことだかはなんとなく分かっていたが、つい聞いてしまう。
千早の目には真剣な光が宿っていた。
本気だ。千早は冗談なんかで言っているわけではない。
「犯人を、同じ目に合わせてやるってことだ。」
「……同じ目に。」
舞は同じ言葉を繰り返すことしかできなかった。
「舞も真桜も…同じ気持ちだよな?」
「それは…でも……」
舞は思わず言葉を詰まらせた。
犯人、と言われて当たり前のようにある人物の顔が思い浮かんだからだった。
おそらくもう、自分は気づいているのだ。
直接ではないにしても、これまで起きてきた事件には必ず"あの人"の影があるということを。
だけど、確信もないことをはっきりと言葉にするのは躊躇われた。
それに今は真桜の手前もある。
もしかしたら自分の慕っている人が犯人かもしれないなんていう事実に耐えれるのだろうか。
いや、そういう自分も彼女のことを慕っていたのだけれど…
「このまま諦めるのか?」
千早は両手を結んでテーブルに置いたまま、鋭く見つめてきた。
「私だって諦めたくはないよ…でも同じ目に合わせるなんてそんな。そんなことしたら真っ先に私たちが警察に疑われちゃうんだよ?!」
「分かってる。分かってるけどこのままじゃ拓海がうかばれない。」
悔しそうに唇を噛む千早。
犯人に復讐したいという千早の気持ちは痛いほど分かる。
おそらく千早は、拓海の無念を晴らすためなら自分が捕まってもいいとまで思ってるのだろう。
だけど、だからと言って罪を犯していいわけでではない。
そこまで思い、舞は冷静に考えられている自分に驚いていた。
何も喋らない隣の真桜を見ると、何かを考え込んでいるように目を閉じている。
しばらくすると決意を固めたように目を開けて、ゆっくりと話し始めた。
「じゃあ…絶対に捕まらない方法で犯人に鉄槌を下すならどうですか?」
「…え?」
千早と舞は口を半開きにして固まる。
「自殺に見せかければいいんですよ。…お兄ちゃんがされたみたいに。」
言いながら、真桜の瞳には涙が溜まっていく。
彼女もまた、犯人への憎しみのほうが上回ってきているのだろう。
その瞳にはさきほどまでの弱々しさはなく、はっきりと怒りの炎が灯っていた。
「そんなことできる方法があるの…?」
舞は震える声で問う。
「それはこれから自分達で見つけるしかない。…ですよね?千早さん。」
真桜に問われた千早は、強く頷く。
真桜と千早の心はもう決まっているようだ。
二人は一緒に舞を見つめてくる。
その顔からは"あとは舞しだいだよ"と暗に仄めかしているのが伝わってきた。
断ってもいいよ、と。仮にそうしても何も言わないよ、と。
「…分かった。協力する。」
二人の強い決意を前に、思わず舞はそう答えていた。
「じゃあ、決まりだ。まずは自殺じゃないことを前提に、犯人を見つけることから始めよう。」
こうして三人の関係は"拓海への復讐"という歪な形で結ばれることになった。
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