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三章
第74話 妹の心配事
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「真桜ちゃん、今日もありがとうね。」
今日もいつものようにバイト先に兄を迎えに行き終わるまで外で待っていると、拓海と舞が一緒に出てきた。
私に気付いた舞が、頬を緩めて笑顔になる。
「いえ。今日もお兄ちゃん大丈夫でしたか?」
兄の分の傘を兄に手渡しながら舞に問う。
舞が大丈夫だよと言って笑ってくれたので、真桜はほっと胸を撫でおろす。
拓海は隣で"いつも大袈裟なんだよ~"とけらっと笑うが、どう見ても顔色が悪い。
真桜は舞にお礼を言うと、兄と二人お店を後にした。
最近、お兄ちゃんの体調が優れない。
この前高熱で帰ってきた時は、驚いてパニックになってしまった。
だってこれまで風邪一つ引いたことがなかったんだから。
だれでも体調を崩すことはあるけれど。
でもあれからお兄ちゃんの体調は、一向に良くなる兆しが見えない。
それどころか、日々衰弱しているように見える。
こんなことは始めてだった。
やっぱり…と真桜は考えを巡らす。
瑞穂の艶やかな声が、頭の中に呼び起こされる。
『時にはあなたのためなら自分を犠牲にすることだってあるでしょうね。』
真桜は思わず唇を強く噛みしめる。
お兄ちゃんは、私のためにずっと無理をしていたのだ。
そのツケが回ってきたのだ。
一番に私のことを考えてくれる優しいお兄ちゃん。
でも、真桜には分かっていた。
拓海が、密かに想いを寄せている人がいることを。
それが舞だということも。
その気持ちを隠して、自分のことを何よりも優先してくれていたことも。
でも私がそんなお兄ちゃんの優しさにずっと甘えてきた。
そのせいで、お兄ちゃんに負担をかけてた。
だから、もう自分のことを優先してほしい。
自分の気持ちを一番に大事にしてあげてほしい。
お兄ちゃんを、開放してあげたい。
それなら、私にできることは。
「お兄ちゃん。」
「んー?」
呼びかけると、具合が悪いせいだろう、ぼんやりとした返事が返ってくる。
「お兄ちゃんのお誕生日、もうすぐじゃない?」
「あー…そいえば今日ナナちゃんにも言われた。そうだったな。」
拓海はポリポリと後頭部を掻く。
「もぉ。男の人はほんとそういうのに無頓着なんだから。」
「それもおんなじことナナちゃんに言われた。…二人とも姉妹だっけ?」
そう言っておかしそうに笑う拓海。
顔色は相変わらず悪いけど、いつもと変わらない兄の笑顔に真桜の頬が緩む。
「誕生日は、お家でお祝いしよ。」
「おぉ、お祝いしてくれるの?嬉しいなぁ。」
「当たり前だよ。お母さんはその日も忙しくって夜遅くなるって言ってたけど、二人でお祝いしよ!」
本当は二人で、じゃないけど。
舞さんもこっそり誘う予定だけど。
そんな密かなサプライズを計画しながら、真桜は心の中でにんまりした。
「なんだよニヤニヤして。何企んでるんだ?」
「別にー、何も企んでないよー。」
そんないつものたわいもない会話をしながら、もう家も目の前と言う時。
前を向いた真桜の笑顔が、そのままぴたりと固まる。
真桜の視界に、黒い人影が慌てたように走っていくのが見えた。
…え?
その人影は、あっという間に角を曲がって一瞬のうちに視界から消えていく。
気のせい、だろうか。
その人影が家の方から出てきたように見えた。
…まさか、強盗?空き巣?
恐ろしい想像に、サーっと血の気が引くのを感じる。
「…真桜?どした?」
気づかなかったのか、拓海はきょとんとした顔で目をしばたたかせる。
「ううん、なんでもないよ!」
真桜は浮かんだ考えを頭の中から振り払うように、笑顔を取り繕った。
今日もいつものようにバイト先に兄を迎えに行き終わるまで外で待っていると、拓海と舞が一緒に出てきた。
私に気付いた舞が、頬を緩めて笑顔になる。
「いえ。今日もお兄ちゃん大丈夫でしたか?」
兄の分の傘を兄に手渡しながら舞に問う。
舞が大丈夫だよと言って笑ってくれたので、真桜はほっと胸を撫でおろす。
拓海は隣で"いつも大袈裟なんだよ~"とけらっと笑うが、どう見ても顔色が悪い。
真桜は舞にお礼を言うと、兄と二人お店を後にした。
最近、お兄ちゃんの体調が優れない。
この前高熱で帰ってきた時は、驚いてパニックになってしまった。
だってこれまで風邪一つ引いたことがなかったんだから。
だれでも体調を崩すことはあるけれど。
でもあれからお兄ちゃんの体調は、一向に良くなる兆しが見えない。
それどころか、日々衰弱しているように見える。
こんなことは始めてだった。
やっぱり…と真桜は考えを巡らす。
瑞穂の艶やかな声が、頭の中に呼び起こされる。
『時にはあなたのためなら自分を犠牲にすることだってあるでしょうね。』
真桜は思わず唇を強く噛みしめる。
お兄ちゃんは、私のためにずっと無理をしていたのだ。
そのツケが回ってきたのだ。
一番に私のことを考えてくれる優しいお兄ちゃん。
でも、真桜には分かっていた。
拓海が、密かに想いを寄せている人がいることを。
それが舞だということも。
その気持ちを隠して、自分のことを何よりも優先してくれていたことも。
でも私がそんなお兄ちゃんの優しさにずっと甘えてきた。
そのせいで、お兄ちゃんに負担をかけてた。
だから、もう自分のことを優先してほしい。
自分の気持ちを一番に大事にしてあげてほしい。
お兄ちゃんを、開放してあげたい。
それなら、私にできることは。
「お兄ちゃん。」
「んー?」
呼びかけると、具合が悪いせいだろう、ぼんやりとした返事が返ってくる。
「お兄ちゃんのお誕生日、もうすぐじゃない?」
「あー…そいえば今日ナナちゃんにも言われた。そうだったな。」
拓海はポリポリと後頭部を掻く。
「もぉ。男の人はほんとそういうのに無頓着なんだから。」
「それもおんなじことナナちゃんに言われた。…二人とも姉妹だっけ?」
そう言っておかしそうに笑う拓海。
顔色は相変わらず悪いけど、いつもと変わらない兄の笑顔に真桜の頬が緩む。
「誕生日は、お家でお祝いしよ。」
「おぉ、お祝いしてくれるの?嬉しいなぁ。」
「当たり前だよ。お母さんはその日も忙しくって夜遅くなるって言ってたけど、二人でお祝いしよ!」
本当は二人で、じゃないけど。
舞さんもこっそり誘う予定だけど。
そんな密かなサプライズを計画しながら、真桜は心の中でにんまりした。
「なんだよニヤニヤして。何企んでるんだ?」
「別にー、何も企んでないよー。」
そんないつものたわいもない会話をしながら、もう家も目の前と言う時。
前を向いた真桜の笑顔が、そのままぴたりと固まる。
真桜の視界に、黒い人影が慌てたように走っていくのが見えた。
…え?
その人影は、あっという間に角を曲がって一瞬のうちに視界から消えていく。
気のせい、だろうか。
その人影が家の方から出てきたように見えた。
…まさか、強盗?空き巣?
恐ろしい想像に、サーっと血の気が引くのを感じる。
「…真桜?どした?」
気づかなかったのか、拓海はきょとんとした顔で目をしばたたかせる。
「ううん、なんでもないよ!」
真桜は浮かんだ考えを頭の中から振り払うように、笑顔を取り繕った。
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