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三章
第66話 けじめへの一歩
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「あれ?今日はシフト入ってなかったんじゃなかったっけ?」
Cafe cosmosのドアを開けて入ると、"いらっしゃいませー"と言いながら顔を上げた拓海が目をぱちくりさせた。
舞はカウンターに座り、隣の椅子に自分のカバンを置いた。
「今日は、千早と約束してるんです。13時に。」
「ほんといつの間にそんなに仲良くなったんだよ。」
拓海は半ば呆れたように笑う。
千早は拓海の元カノだ。心境的にも複雑なのかもしれない。
「今日はどっかに行くの?」
「んー?拓海さんには内緒でーす。」
「なんだよ、ケーチ。」
今日は、千早と約束した火曜日。
舞はCafe cosmosで千早と待ち合わせをしていた。
拓海の誕生日プレゼントを買うために。
今日はバイトとしてではなく、お客として入った。
客観的に店の中を見たかったというのもあるし、千早が午前中は用事があるからと午後13時に待ち合わせになったため、それならランチをCafe cosmosで食べながら千早を待とうと思いついたのだった。
ちらっと腕時計を見ると今は12時30分。ご飯を食べるくらいの時間はある。
「拓海さーん、和風パスタランチをお願いいたしますー」
「はいはい、ただいま。」
お冷を置いて厨房に入っていく拓海の背中を見送り、店内を見渡す。
お客としてこうしてお店の中を改めて見ると、なんだか不思議な感じがした。
いつも見えている景色とはだいぶ違って見える。
お客さんからはこう見えてるんだな。
そんなことを想っていると、チリン、とお店のドアが開く音がした。
「あ、やっぱりいたいた。舞!」
聞き覚えのある声に振りかえると、そこには千早がいた。
「えっ?千早、どうして?約束13時じゃなかった?」
「用事が早く終わったから来てみたんだ。たぶん舞ここにいるんじゃないかと思ってな。」
「千早、エスパーですか?」
いつぞやか千早に言われた言葉を言うと、千早は"おう、エスパーだな。"と言ってカラカラと笑った。
「お昼私も食べれてないし、ここで食べてくわ。」
千早も隣に腰を落ち着ける。
「ナナちゃんお待たせ!和風パスタラン……げっ!」
パスタの皿を持って出てきた拓海が、千早の姿を確認するとお化けでも見たような声を上げる。
「なんだよ、お化けでも見たような言い方するなよ。」
千早が唇をへの字にする。
「13時に待ち合わせじゃなかったの?」
「用事が早く終わったんだって。」
「別に早く終わらなくて良かったのに。」
「なんだと?」
そう言って言い合う二人は、言葉とは裏腹に楽しそうだった。
こんな風に喧嘩できるのは仲が良い証拠だ。
見ていて、羨ましい気持ちにもなる。
「拓海、私にも舞と同じやつ。」
「頼むやつまで同じかよ。」
拓海はそう言って笑うと、再度厨房に入っていった。
ご飯を食べ終わった頃にはちょうど13時前くらいになっていた。
お会計を済ませて、千早と一緒に店の外に出る。
クーラーの効いた店内とは一変、むわっとした蒸し暑さが一気に押し寄せてくる。
8月の下旬とは言え、なかなかの暑さだ。
「私、普通にできてたか?」
「できてた、できてた。まさか拓海さんも自分の誕生日プレゼント買いに行くなんて思わないよ。」
「まぁ、元カノからプレゼントされても迷惑なだけだろうけどな。」
そう言って笑う千早の横顔は、少し悲し気だった。
「そんなことないよ。プレゼントされたら、誰でも嬉しいって。」
「……優しいな、舞は。」
「えっ?」
千早から突然そんなことを言われ、目をしばたたかせる。
「拓海は私のことなんか恋愛対象と思ってないって、舞だって本当は分かってるだろ。」
「そんな……」
言いかけた舞を、千早は手を出して制する。
「いいんだ。気持ちを伝えてもっかいこっぴどく振られてくるわ。けじめだよ、けじめ。」
そう言って笑いながら伸びをする千早は、今度はすっきりとした表情をしていた。
Cafe cosmosのドアを開けて入ると、"いらっしゃいませー"と言いながら顔を上げた拓海が目をぱちくりさせた。
舞はカウンターに座り、隣の椅子に自分のカバンを置いた。
「今日は、千早と約束してるんです。13時に。」
「ほんといつの間にそんなに仲良くなったんだよ。」
拓海は半ば呆れたように笑う。
千早は拓海の元カノだ。心境的にも複雑なのかもしれない。
「今日はどっかに行くの?」
「んー?拓海さんには内緒でーす。」
「なんだよ、ケーチ。」
今日は、千早と約束した火曜日。
舞はCafe cosmosで千早と待ち合わせをしていた。
拓海の誕生日プレゼントを買うために。
今日はバイトとしてではなく、お客として入った。
客観的に店の中を見たかったというのもあるし、千早が午前中は用事があるからと午後13時に待ち合わせになったため、それならランチをCafe cosmosで食べながら千早を待とうと思いついたのだった。
ちらっと腕時計を見ると今は12時30分。ご飯を食べるくらいの時間はある。
「拓海さーん、和風パスタランチをお願いいたしますー」
「はいはい、ただいま。」
お冷を置いて厨房に入っていく拓海の背中を見送り、店内を見渡す。
お客としてこうしてお店の中を改めて見ると、なんだか不思議な感じがした。
いつも見えている景色とはだいぶ違って見える。
お客さんからはこう見えてるんだな。
そんなことを想っていると、チリン、とお店のドアが開く音がした。
「あ、やっぱりいたいた。舞!」
聞き覚えのある声に振りかえると、そこには千早がいた。
「えっ?千早、どうして?約束13時じゃなかった?」
「用事が早く終わったから来てみたんだ。たぶん舞ここにいるんじゃないかと思ってな。」
「千早、エスパーですか?」
いつぞやか千早に言われた言葉を言うと、千早は"おう、エスパーだな。"と言ってカラカラと笑った。
「お昼私も食べれてないし、ここで食べてくわ。」
千早も隣に腰を落ち着ける。
「ナナちゃんお待たせ!和風パスタラン……げっ!」
パスタの皿を持って出てきた拓海が、千早の姿を確認するとお化けでも見たような声を上げる。
「なんだよ、お化けでも見たような言い方するなよ。」
千早が唇をへの字にする。
「13時に待ち合わせじゃなかったの?」
「用事が早く終わったんだって。」
「別に早く終わらなくて良かったのに。」
「なんだと?」
そう言って言い合う二人は、言葉とは裏腹に楽しそうだった。
こんな風に喧嘩できるのは仲が良い証拠だ。
見ていて、羨ましい気持ちにもなる。
「拓海、私にも舞と同じやつ。」
「頼むやつまで同じかよ。」
拓海はそう言って笑うと、再度厨房に入っていった。
ご飯を食べ終わった頃にはちょうど13時前くらいになっていた。
お会計を済ませて、千早と一緒に店の外に出る。
クーラーの効いた店内とは一変、むわっとした蒸し暑さが一気に押し寄せてくる。
8月の下旬とは言え、なかなかの暑さだ。
「私、普通にできてたか?」
「できてた、できてた。まさか拓海さんも自分の誕生日プレゼント買いに行くなんて思わないよ。」
「まぁ、元カノからプレゼントされても迷惑なだけだろうけどな。」
そう言って笑う千早の横顔は、少し悲し気だった。
「そんなことないよ。プレゼントされたら、誰でも嬉しいって。」
「……優しいな、舞は。」
「えっ?」
千早から突然そんなことを言われ、目をしばたたかせる。
「拓海は私のことなんか恋愛対象と思ってないって、舞だって本当は分かってるだろ。」
「そんな……」
言いかけた舞を、千早は手を出して制する。
「いいんだ。気持ちを伝えてもっかいこっぴどく振られてくるわ。けじめだよ、けじめ。」
そう言って笑いながら伸びをする千早は、今度はすっきりとした表情をしていた。
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