ヴィーナスは微笑む

蒼井 結花理

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三章

第63話 真桜の秘密

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ふふ、と真桜はスマホを見つめながら微笑む。


先ほどから真桜は、ある人とLINEのやり取りをしていた。


『真桜ちゃん体調はどう?最近眠れてないって言ってたでしょう…?』


『そうなんですよ~お医者さんからもらってた睡眠剤、結構まだ溜まってるんですけどあまり薬に頼りたくなくって。でも、さすがに不眠がひどいので飲もうかなぁって思ってます(;_;)』


『色々考えちゃうと寝れないし、辛いわよね。。もし眠れない時はいつでも連絡してきてね。』


『そんな嬉しいこと言われたら泣いちゃいます(TOT)(笑)あっ、それとこの前はケーキをありがとうございました(*´ω`*)すっごく美味しかったです!』


文字を入力しながら、真桜は嘘をついてしまったことに罪悪感を覚える。


そう、今LINEをやり取りしている相手というのは、河野瑞穂。この前わざわざ私のことを心配して来てくれた女の人だった。



色白で栗色の長い髪、切れ長の瞳、美しい所作、心地の良い声。


真桜は瑞穂のことを思い出し、ほぅ、と感嘆のため息を吐く。


あそこまで何もかもが揃った人がいるなんて、と見た時は思った。


普通美人な人というとつんつんしていて性格が悪いというけれど、瑞穂はそうではなかった。


瑞穂は、真桜のことをとても気遣ってくれた。


真桜の気持ちに共感し、涙まで流してくれた。


今だって、こうやって私のことを心配してLINEをくれている。



親友を失ってから人と接することが怖くなっていたのに、不思議と瑞穂にだけはすぐに心を開いてしまった。


瑞穂は真桜の心にすとん、と入ってきたのだ。



実はあの時真桜は、瑞穂とLINEの交換をしていた。


そのことを、拓海には話していない。


いや、絶対にこのことを話せるわけがない。


この前の拓海の様子は、異常だった。


あんなに取り乱して大きな声を出すなんて初めてだった。


瑞穂に対して、とてつもない嫌悪感を抱いているようだった。


瑞穂さんは、そんなに悪い人なの?



そう自分に問いかけても、どうしても真桜にはそうは思えなかった。


あんなに人の気持ちに寄り添える、優しい人なのに。


悪い人なわけないじゃない。


お兄ちゃんのバカ、と呟いて下唇を突き出す。



その時ピコン、とLINEの通知音が鳴った。


真桜はスマホに意識を戻す。


『ううん、お口に合ったなら良かった(^^)』



そうだ、と真桜は文字を打ちながら思いついたように指を滑らせる。


『あの瑞穂さん、ちょっと相談したいことがあるんですけど…』


『なぁに?』


『もうすぐお兄ちゃんの誕生日なんです。瑞穂さん、おススメの美味しいスイーツのお店って知ってますか?』


きっと、瑞穂なら色々とお洒落なお店を知っているはず。


確信をもって送信したのだが。


すぐ既読になったものの、なかなか返事が返ってこない。


どうしたんだろう?と待っていると10分くらい経ってようやく返信が返ってきた。


『お兄さんはスイーツが好きなの?』


『チョコ系とか大好きですよ。お兄ちゃん、男のくせにめちゃくちゃ甘党なんです(笑)』


『ふふ、可愛いお兄さんね(^_-)-☆チョコ系かぁ…分かった、いくつか美味しいお店知ってるから絞っておくね!』


『ほんとですか!ありがとうございます(∩´∀`)∩宜しくお願いします。』



「また瑞穂さんに会いたいな。」


無意識のうちに、そう呟いていた。


おそらく兄が絶対許さないから、こっそり誘わなくちゃ。



そんなことを思って頬を緩ませながら、スマホを机に置いた。
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