ヴィーナスは微笑む

蒼井 結花理

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三章

第60話 闇の中の冷たい光

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絵理と別れた後、舞は拓海と近くのコンビニで待ち合わせをした。


拓海のほうが先に来ていたらしく、店内で拓海が雑誌を読んでいた。


こちらに気付くと笑顔を見せて片手を上げる。


「よっ、女子会は終わった?」


拓海はおちゃらけた感じでニヤニヤとこちらを見てきた。


「おかげさまで。楽しい女子会でしたー」


舞もふざけた感じで返した。


拓海は読んでいた雑誌を戻して、二人でコンビニを出た。


外はもうすっかり闇に覆われている。



「絵理さんと、どんな話した?」


「んーそれは内緒!」


「ケチー」


拓海が拗ねた感じで唇を尖らせた。


顔を見合わせて笑い合う。



しばらく肩を並べて住宅地を進んでいくと、小さな公園が見えた。


その向かいに拓海のアパートはある。


今は妹の真桜と二人暮らしらしい。


両親はここから徒歩5分程度の所に住んでいる。


妹さんに会うためとはいえ、男の人の家に来るのは初めてだ。


緊張で心臓がバクバクする。



拓海が部屋の鍵を開けようとした、その時。


ふいに部屋のドアが開いた。


「なんだ、真桜。こんな時間に……」


しかし出てきた人物を見て、拓海の声は空を切った。


「……なぜ、あなたが。」


拓海は震えた声で相手の顔を見据える。


舞も、拓海の後ろから相手の顔を確認したとたん、はっと息を呑んだ。


そこにいたのは、河野瑞穂だった。



「瑞穂……どうしてここに?」


舞が尋ねると、瑞穂もびっくりした顔で舞と拓海の顔を交互に見やる。


舞が隣にいる拓海を見やると、唇はわなわなと震え、手は強く握りしめられていた。


その表情は、必死に怒りを抑えているように見えた。


こんな拓海は、見たことがない。



「河野瑞穂さんですよね?…どうしてあなたがここに?なぜここの住所を知ってるのですか?」


いつものひょうきんな声からは考えられないような低い声で、拓海は瑞穂を睨めあげる。


どうしてって、と瑞穂は困ったように肩を竦めた。


「先日私と仲良くしていた子…深雪っていうんですけど、彼女が亡くなりまして、彼女が真桜ちゃんともとても仲が良かったって聞いたから…真桜ちゃんのことが心配になって担任の先生に住所を聞いたんです。私自身は真桜ちゃんとは直接話したことはなかったですけど、たまに一緒にいるのを見ていましたし、深雪からはよく真桜ちゃんの話を聞いていたものですから。とても嬉しそうに。」


「妹のことなら大丈夫ですから。」


拓海はすぱっと切り捨てるように言う。


「ご心配していただいてありがとうございます。でも真桜には俺が付いていますし、特に気にかけていただかなくて結構です。もう来ていただかなくても大丈夫ですから。」


言葉さえ丁寧だが、その声からは明らかな瑞穂への嫌悪感が醸し出されていた。


さすがに、いつもは冷静沈着な瑞穂もかすかに眉を寄せた。


彼女はちらりと舞の方に視線を向ける。


突然視線を向けられ、舞はどきりとして瑞穂から視線をそらせた。



「余計なお世話でしたみたいですみません。では、妹さんにお大事にとだけ伝えておいてください。」


瑞穂は深々と頭を下げる。



「…分かりました。真桜にはきちんと伝えておきますので。」


そういうと拓海はもう話もしたくないといった様子で、さっさと部屋の中へと入っていった。


舞は慌てて拓海の背中を追う。


その際、少しだけ振り向いて瑞穂の方を見た。


暗闇ではっきりとは見えなかったが、その闇の中で彼女の瞳は冷たい光を放っていた。
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