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三章
第55話 相反する二つの感情
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「そういえば」
舞は紗耶香と瑞穂のテーブルにパスタランチと日替わりランチを置きながら問う。
「どうしてここのカフェに?瑞穂の大学からはだいぶ遠いでしょ。」
あぁ、と瑞穂は柔らかく笑った。
「紗耶香ちゃんの家で勉強教えてあげてるのよ。紗耶香ちゃんの家がここの近くなの。それで今日は勉強終わって二人でお茶でもしようってなって、ネットで調べていたらここが一番上にでてきたし口コミも良かったからここにしようってなったの。」
そうだったのか。
舞は納得して顔を綻ばせる。
「実はね、今私、教職取ってるの。もともと親も教師だし英語が得意だったから英語の教師になりたいと思って。紗耶香ちゃんが英語苦手だって言ってたからちょうど良かったの。それに人に教えるのは、教育実習のための予行演習にもなるしね。そっちが本音だけれど。」
そう言って瑞穂は悪戯っぽく笑った。
「ね、瑞穂先輩ほんっとに優しいんですよ。自分も忙しいのにわざわざ私の家まで来て勉強教えてくれるなんて。普通そこまでしてくれないですよね。」
紗耶香も無邪気な笑顔で笑う。
「高校でももちろんモテてましたけど、大学に入ってからは桁違いみたいですよ。だって一緒に歩いてても皆瑞穂先輩のこと見るし、他の学校の男子とかまで告白してきたりするんですから。」
「そ、それはすごいね…」
当然モテるだろうと思ってはいたが、ここまでとは…
改めて瑞穂はいったい何者なんだろうかと思ってしまう。
そのカリスマ性には舌を巻いてしまう。
舞は二人から離れ、他のお客さんの注文受けへと戻る。
注文を取りながら、舞は紗耶香と瑞穂の方をちらと見る。
二人は「このパスタ美味しい!」「このコロッケも絶品よ。」と言いながら談笑している。
そのやり取りを聞いて気持ちが緩んだのだが、高校時代の出来事を思い出し、頭から冷水をかけられたようにぞくっとした。
「ナナちゃん、7番テーブルのお客さんにハンバーグ定食を持って行ってー!」
厨房からかけられた拓海の声で我に返り、パタパタと拓海のほうに戻る。
トレーを手に取った瞬間。
ふいに手首を掴まれて、どきりとする。
「拓海、さん…?」
「今喋ってた美人さん、ナナちゃんのお友達?」
「そうですけど…高校時代の。」
そう答えると、拓海はいつになく難しい顔をした。
「そうか。僕が言える立場じゃないけど、気をつけたほうがいい。」
「え?」
「あ…いや、ごめん。なんとなくそう思っただけだから。行ってらっしゃい。」
次の瞬間には拓海はいつもの笑顔になって舞の肩をポンと叩いた。
舞も笑顔で返したが、その後も拓海の表情が頭から離れてくれなかった。
他のお客さんにランチを渡した後、舞はもう一度紗耶香と瑞穂のテーブルへ行った。
「それにしてもこんなところで舞と会えるなんて夢にも思わなかったわ。会えて本当に嬉しい。」
会えて嬉しい、という瑞穂の言葉がすぅっと舞の心の中に落ちてきた。
瑞穂はいとも簡単に、固くなった舞の心をほぐしてしまう。
瑞穂の声や言葉には、他人を心地よくさせる何かがある。
ふと、高校時代に瑞穂に声をかけてもらえた日のことを思い出す。
友達がいなかった自分に一番に声をかけてくれたのは瑞穂だった。
瑞穂といることで、舞は自分の居場所を感じることができたのだった。
高校の時は、瑞穂が自分の中心だった。
「ねぇ、舞は週にどのくらいバイト入ってるの?」
「週に4回くらいかな。土日は絶対でてるし、平日も2回くらい。」
「そしたら土日にでもまた来るわ。ここのランチすごく美味しいし、紗耶香ちゃんと勉強した後に利用させてもらうわね。」
「うん、待ってるよ。」
紗耶香と瑞穂がお会計をして店を出る。
他のお客さんの接客をしようと振りかえると、難しい顔をした拓海が腕を組みながらこちらを見ていた。
気をつけたほうがいい、と言った拓海の言葉が浮かぶ。
舞は思わず顔を背けて他のお客さんの元へと向かった。
高校の時のことを思い出した時の恐怖と不安。
瑞穂を前にするとどうしても感じてしまう温かさ。
その相反した二つの感情の間で、舞は揺れ動いていた。
舞は紗耶香と瑞穂のテーブルにパスタランチと日替わりランチを置きながら問う。
「どうしてここのカフェに?瑞穂の大学からはだいぶ遠いでしょ。」
あぁ、と瑞穂は柔らかく笑った。
「紗耶香ちゃんの家で勉強教えてあげてるのよ。紗耶香ちゃんの家がここの近くなの。それで今日は勉強終わって二人でお茶でもしようってなって、ネットで調べていたらここが一番上にでてきたし口コミも良かったからここにしようってなったの。」
そうだったのか。
舞は納得して顔を綻ばせる。
「実はね、今私、教職取ってるの。もともと親も教師だし英語が得意だったから英語の教師になりたいと思って。紗耶香ちゃんが英語苦手だって言ってたからちょうど良かったの。それに人に教えるのは、教育実習のための予行演習にもなるしね。そっちが本音だけれど。」
そう言って瑞穂は悪戯っぽく笑った。
「ね、瑞穂先輩ほんっとに優しいんですよ。自分も忙しいのにわざわざ私の家まで来て勉強教えてくれるなんて。普通そこまでしてくれないですよね。」
紗耶香も無邪気な笑顔で笑う。
「高校でももちろんモテてましたけど、大学に入ってからは桁違いみたいですよ。だって一緒に歩いてても皆瑞穂先輩のこと見るし、他の学校の男子とかまで告白してきたりするんですから。」
「そ、それはすごいね…」
当然モテるだろうと思ってはいたが、ここまでとは…
改めて瑞穂はいったい何者なんだろうかと思ってしまう。
そのカリスマ性には舌を巻いてしまう。
舞は二人から離れ、他のお客さんの注文受けへと戻る。
注文を取りながら、舞は紗耶香と瑞穂の方をちらと見る。
二人は「このパスタ美味しい!」「このコロッケも絶品よ。」と言いながら談笑している。
そのやり取りを聞いて気持ちが緩んだのだが、高校時代の出来事を思い出し、頭から冷水をかけられたようにぞくっとした。
「ナナちゃん、7番テーブルのお客さんにハンバーグ定食を持って行ってー!」
厨房からかけられた拓海の声で我に返り、パタパタと拓海のほうに戻る。
トレーを手に取った瞬間。
ふいに手首を掴まれて、どきりとする。
「拓海、さん…?」
「今喋ってた美人さん、ナナちゃんのお友達?」
「そうですけど…高校時代の。」
そう答えると、拓海はいつになく難しい顔をした。
「そうか。僕が言える立場じゃないけど、気をつけたほうがいい。」
「え?」
「あ…いや、ごめん。なんとなくそう思っただけだから。行ってらっしゃい。」
次の瞬間には拓海はいつもの笑顔になって舞の肩をポンと叩いた。
舞も笑顔で返したが、その後も拓海の表情が頭から離れてくれなかった。
他のお客さんにランチを渡した後、舞はもう一度紗耶香と瑞穂のテーブルへ行った。
「それにしてもこんなところで舞と会えるなんて夢にも思わなかったわ。会えて本当に嬉しい。」
会えて嬉しい、という瑞穂の言葉がすぅっと舞の心の中に落ちてきた。
瑞穂はいとも簡単に、固くなった舞の心をほぐしてしまう。
瑞穂の声や言葉には、他人を心地よくさせる何かがある。
ふと、高校時代に瑞穂に声をかけてもらえた日のことを思い出す。
友達がいなかった自分に一番に声をかけてくれたのは瑞穂だった。
瑞穂といることで、舞は自分の居場所を感じることができたのだった。
高校の時は、瑞穂が自分の中心だった。
「ねぇ、舞は週にどのくらいバイト入ってるの?」
「週に4回くらいかな。土日は絶対でてるし、平日も2回くらい。」
「そしたら土日にでもまた来るわ。ここのランチすごく美味しいし、紗耶香ちゃんと勉強した後に利用させてもらうわね。」
「うん、待ってるよ。」
紗耶香と瑞穂がお会計をして店を出る。
他のお客さんの接客をしようと振りかえると、難しい顔をした拓海が腕を組みながらこちらを見ていた。
気をつけたほうがいい、と言った拓海の言葉が浮かぶ。
舞は思わず顔を背けて他のお客さんの元へと向かった。
高校の時のことを思い出した時の恐怖と不安。
瑞穂を前にするとどうしても感じてしまう温かさ。
その相反した二つの感情の間で、舞は揺れ動いていた。
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