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三章
第50話 楽しい時間
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「ナナちゃん、お疲れ!今日は早出なんだね。」
裏口から入った舞にそう明るく声をかけてきたのは、バイト先の先輩で久賀拓海(くが・たくみ)。二個上の先輩である。ここから五駅ほど離れている有名私立大学に通っている。
バイト歴に関しても舞より一年早く、先輩になる。
舞は大学に入ってから一人暮らしを始め、生活費を稼ぐためカフェでアルバイトを始めていた。
拓海は舞のことを"ナナ"と呼ぶ。
そんな風に呼ばれるのは初めてだったので最初はくすぐったかったが、今ではすっかり慣れてしまった。
舞はぎこちない笑顔を返し、深々と頭を下げる。
「こんにちは。今日も宜しくお願いします。」
「相変わらず固いなぁ、ナナちゃんは。せっかく可愛いんだから、もっと笑顔笑顔!」
拓海は"にぃ"っと頬に人差し指を当てながら満面の笑みを浮かべる。
二つも年上なのに、こういうところはなんだか子供っぽくて可愛らしい。
思わず笑みが零れてしまう。
バイトの面接が通りここで働くことになった際、指導をしてくれたのが拓海だった。
背が高くほっそりしているが、ジムで鍛えているせいかがっちりとした体格をしている。
そのため彼を見た時は、最初は正直怖い印象を受けた。
でもそれは最初だけだった。
時には厳しいことも言われたが、拓海は自分の時間を割いてまで丁寧に指導をしてくれた。
いつの間にか、バイト先では笑顔が増えていった。
拓海は舞にとって兄のような、そんな存在になっていた。
「ナナちゃん。まだ時間あるからコーヒーでも飲むかい?」
拓海は給湯室からひょこっと顔を出して聞いてきた。
舞はおろしていた髪を持ってきたシュシュで束ねながら、「それではいただきます」と応じた。
二つのコーヒーを手に持ってきた拓海は、舞の前にコーヒーを置き、舞の向かいの椅子に腰をおろす。
「今日はなんかいいことあった?」
拓海が顔を覗き込みながら聞いてくる。
舞は手を伸ばしかけたコーヒーから手を離し、えっ?と聞き返した。
「どうしてそう思うんですか?」
「いや、なんだか今日は嬉しそうな顔してるからさ。なんかあったのかなーって思って。」
「い、いえ…」
と答えながら、ふと先ほど大学であった出来事を思い出す。
そのことを先輩に話すと、嬉しそうに頬を緩ませた。
「良かったじゃん!いや、実を言うとさ、ずっと心配してたんだよ。ナナちゃん元気なさそうだったし大丈夫かなぁって。最近は笑顔になってくれることも増えたけどね。」
手の甲に肘を乗せながら、拓海はうんうんと頷いた。
「心配かけてしまってすみません。」
拓海には、事情があって友達を作るのが怖くなったということだけは軽く話していた。
そんな時も訳を聞くこともなく、ただ黙って聞いてくれた。
そのことが舞にはありがたかったのだ。
「そんな水臭いこと言うなよ。なんていうかナナちゃんのことは放っておけないっていうか、俺にとっては妹みたいな感じだからさ。」
「あ、ありがとうございます。」
なんだか照れくさくなって舞は俯いた。
少し温くなってしまったコーヒーを一口飲む。
「にしても、俺のちょっと苦手なタイプではあるな、その先輩。俺、クール系はダメだから。」
拓海は目の前でバッテンを作って首を竦めて見せた。
「そうなんですか。拓海さんは来るもの拒まずな感じがしますけど。」
「え、ナナちゃんひどい。俺のことそんな風に思ってたの?誰にでも手を出すような男に見える?」
「見えます。」
舞が即答すると、拓海はあちゃーと言いながら頭を叩いた。
二人で顔を見合わせて笑い合う。
こんな何気ない会話ができる時間が、とてつもなく楽しい。
裏口から入った舞にそう明るく声をかけてきたのは、バイト先の先輩で久賀拓海(くが・たくみ)。二個上の先輩である。ここから五駅ほど離れている有名私立大学に通っている。
バイト歴に関しても舞より一年早く、先輩になる。
舞は大学に入ってから一人暮らしを始め、生活費を稼ぐためカフェでアルバイトを始めていた。
拓海は舞のことを"ナナ"と呼ぶ。
そんな風に呼ばれるのは初めてだったので最初はくすぐったかったが、今ではすっかり慣れてしまった。
舞はぎこちない笑顔を返し、深々と頭を下げる。
「こんにちは。今日も宜しくお願いします。」
「相変わらず固いなぁ、ナナちゃんは。せっかく可愛いんだから、もっと笑顔笑顔!」
拓海は"にぃ"っと頬に人差し指を当てながら満面の笑みを浮かべる。
二つも年上なのに、こういうところはなんだか子供っぽくて可愛らしい。
思わず笑みが零れてしまう。
バイトの面接が通りここで働くことになった際、指導をしてくれたのが拓海だった。
背が高くほっそりしているが、ジムで鍛えているせいかがっちりとした体格をしている。
そのため彼を見た時は、最初は正直怖い印象を受けた。
でもそれは最初だけだった。
時には厳しいことも言われたが、拓海は自分の時間を割いてまで丁寧に指導をしてくれた。
いつの間にか、バイト先では笑顔が増えていった。
拓海は舞にとって兄のような、そんな存在になっていた。
「ナナちゃん。まだ時間あるからコーヒーでも飲むかい?」
拓海は給湯室からひょこっと顔を出して聞いてきた。
舞はおろしていた髪を持ってきたシュシュで束ねながら、「それではいただきます」と応じた。
二つのコーヒーを手に持ってきた拓海は、舞の前にコーヒーを置き、舞の向かいの椅子に腰をおろす。
「今日はなんかいいことあった?」
拓海が顔を覗き込みながら聞いてくる。
舞は手を伸ばしかけたコーヒーから手を離し、えっ?と聞き返した。
「どうしてそう思うんですか?」
「いや、なんだか今日は嬉しそうな顔してるからさ。なんかあったのかなーって思って。」
「い、いえ…」
と答えながら、ふと先ほど大学であった出来事を思い出す。
そのことを先輩に話すと、嬉しそうに頬を緩ませた。
「良かったじゃん!いや、実を言うとさ、ずっと心配してたんだよ。ナナちゃん元気なさそうだったし大丈夫かなぁって。最近は笑顔になってくれることも増えたけどね。」
手の甲に肘を乗せながら、拓海はうんうんと頷いた。
「心配かけてしまってすみません。」
拓海には、事情があって友達を作るのが怖くなったということだけは軽く話していた。
そんな時も訳を聞くこともなく、ただ黙って聞いてくれた。
そのことが舞にはありがたかったのだ。
「そんな水臭いこと言うなよ。なんていうかナナちゃんのことは放っておけないっていうか、俺にとっては妹みたいな感じだからさ。」
「あ、ありがとうございます。」
なんだか照れくさくなって舞は俯いた。
少し温くなってしまったコーヒーを一口飲む。
「にしても、俺のちょっと苦手なタイプではあるな、その先輩。俺、クール系はダメだから。」
拓海は目の前でバッテンを作って首を竦めて見せた。
「そうなんですか。拓海さんは来るもの拒まずな感じがしますけど。」
「え、ナナちゃんひどい。俺のことそんな風に思ってたの?誰にでも手を出すような男に見える?」
「見えます。」
舞が即答すると、拓海はあちゃーと言いながら頭を叩いた。
二人で顔を見合わせて笑い合う。
こんな何気ない会話ができる時間が、とてつもなく楽しい。
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