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三章
第49話 新たな出会い
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舞の大学生活は、まるで体から魂を抜かれたような状態から始まった。
高校時代あんな事件が2件も立て続けに起きたせいで、友達を作る気力さえも失っていた。
もちろん、大学生活こそは謳歌したいという気持ちもなかったわけではない。
でも、あの経験が舞を臆病にさせていた。
志望校である公立大学には合格できたのだが、舞の気持ちが晴れることはなかった。
瑞穂も、私立大学に合格していた。
おそらく彼女は大学でも持ち前のカリスマ性で沢山の友達を作り、華やかな大学生活を送っていることだろう。
舞のことなど、忘れてしまっているに違いない。
寂しい気持ちではあったが、どこかほっとしたようなそんな気もした。
瑞穂のことは大好きだったが、もう高校時代のことは忘れ去りたかった。
高校の時には瑞穂や陽菜子、竜一がいたし、友達がいた。
でも大学では一人で教室を移動し、一人で学食でご飯を食べ、一人で帰るというなんの味気もない生活を送っていた。
友達を作っても、また手の平から全部零れ落ちてしまうのではないかという恐怖心の方が勝っていた。
それなら最初から作らないほうがましだ。
陽菜子を、自分のせいで追い詰め死に至らしめてしまった。
その事実はどうやっても、消えることはない。
一生背負わなくてはいけない罪なのだ。
もし、彼女を殺した人物が他にいるのだとしても。
これから、普通の生活を送ることなんてできるのだろうか…。
気づいたら、瞳から涙が零れ落ちていた。
舞は手の甲で涙を拭うと机にある教材を持ち、教室を出た。
と、正面から歩いてくる人物と目が合った。
特に気にすることもなく、そのまま通りすぎようとしたその時。
「あなた、いつも下を向いてるね。」
少しハスキーな声色に、通り過ぎようとした足を止め、舞ははっとして振り向いた。
ショートカットで背が高く細身で、ボーイッシュな印象の子だった。
「人生諦めましたって顔してる。大学生活、全然楽しくないでしょ。」
初対面なのにいきなり土足で踏み込んでくるような言葉に、舞はさすがにむっとして睨み返す。
「ちょっと……いきなり失礼じゃないですか?」
「あぁ、ごめん。私、こういう性格だから。悪気ないんだ、気にしないで。あ、それと先輩とかさんとか敬語とかいらないから。そういうの堅っ苦しくて嫌いなんだ。」
あっけらかんとした言い方で彼女は淡々と話す。
思わず、毒気を抜かれてしまった。
「あなたのこと、何回か見かけたことあるんだよ。いっつも下向いて一人で歩いてたし"くっらい"オーラ出しまくってたから逆に目立ってたよ。あなたは目立たないようにしていたんだろうけど。」
「はぁ……」
「とりあえず、涙拭いたら?」
「あ……」
まだ涙痕が残っていたらしい。
彼女はポケットからハンカチを取り出すと、そっと舞の涙を拭ってくれた。
それまで鉄仮面のようだった彼女の表情が少しだけ緩む。
サバサバしてるし口調はきつそうだけど悪い人じゃないんだ、と舞は思った。
彼女は拭ったハンカチをそのまま舞の手に握らせた。
「これ、あげるから。返してくれなくてもいいよ。」
「……そ、そんなわけいきません!」
「だから敬語いらないっての。」
「あ、すみません。…あ。」
「あはは。あなた、面白いね。最高。」
くくっと彼女は面白そうに笑った。
「あなた、名前は?」
「……七瀬、舞です。」
「そう。私、二年の栗花落千早(つゆり・ちはや)。よろしくね、舞。」
それが舞と栗花落千早の出会いだった。
大学一年の7月になった時である。
高校時代あんな事件が2件も立て続けに起きたせいで、友達を作る気力さえも失っていた。
もちろん、大学生活こそは謳歌したいという気持ちもなかったわけではない。
でも、あの経験が舞を臆病にさせていた。
志望校である公立大学には合格できたのだが、舞の気持ちが晴れることはなかった。
瑞穂も、私立大学に合格していた。
おそらく彼女は大学でも持ち前のカリスマ性で沢山の友達を作り、華やかな大学生活を送っていることだろう。
舞のことなど、忘れてしまっているに違いない。
寂しい気持ちではあったが、どこかほっとしたようなそんな気もした。
瑞穂のことは大好きだったが、もう高校時代のことは忘れ去りたかった。
高校の時には瑞穂や陽菜子、竜一がいたし、友達がいた。
でも大学では一人で教室を移動し、一人で学食でご飯を食べ、一人で帰るというなんの味気もない生活を送っていた。
友達を作っても、また手の平から全部零れ落ちてしまうのではないかという恐怖心の方が勝っていた。
それなら最初から作らないほうがましだ。
陽菜子を、自分のせいで追い詰め死に至らしめてしまった。
その事実はどうやっても、消えることはない。
一生背負わなくてはいけない罪なのだ。
もし、彼女を殺した人物が他にいるのだとしても。
これから、普通の生活を送ることなんてできるのだろうか…。
気づいたら、瞳から涙が零れ落ちていた。
舞は手の甲で涙を拭うと机にある教材を持ち、教室を出た。
と、正面から歩いてくる人物と目が合った。
特に気にすることもなく、そのまま通りすぎようとしたその時。
「あなた、いつも下を向いてるね。」
少しハスキーな声色に、通り過ぎようとした足を止め、舞ははっとして振り向いた。
ショートカットで背が高く細身で、ボーイッシュな印象の子だった。
「人生諦めましたって顔してる。大学生活、全然楽しくないでしょ。」
初対面なのにいきなり土足で踏み込んでくるような言葉に、舞はさすがにむっとして睨み返す。
「ちょっと……いきなり失礼じゃないですか?」
「あぁ、ごめん。私、こういう性格だから。悪気ないんだ、気にしないで。あ、それと先輩とかさんとか敬語とかいらないから。そういうの堅っ苦しくて嫌いなんだ。」
あっけらかんとした言い方で彼女は淡々と話す。
思わず、毒気を抜かれてしまった。
「あなたのこと、何回か見かけたことあるんだよ。いっつも下向いて一人で歩いてたし"くっらい"オーラ出しまくってたから逆に目立ってたよ。あなたは目立たないようにしていたんだろうけど。」
「はぁ……」
「とりあえず、涙拭いたら?」
「あ……」
まだ涙痕が残っていたらしい。
彼女はポケットからハンカチを取り出すと、そっと舞の涙を拭ってくれた。
それまで鉄仮面のようだった彼女の表情が少しだけ緩む。
サバサバしてるし口調はきつそうだけど悪い人じゃないんだ、と舞は思った。
彼女は拭ったハンカチをそのまま舞の手に握らせた。
「これ、あげるから。返してくれなくてもいいよ。」
「……そ、そんなわけいきません!」
「だから敬語いらないっての。」
「あ、すみません。…あ。」
「あはは。あなた、面白いね。最高。」
くくっと彼女は面白そうに笑った。
「あなた、名前は?」
「……七瀬、舞です。」
「そう。私、二年の栗花落千早(つゆり・ちはや)。よろしくね、舞。」
それが舞と栗花落千早の出会いだった。
大学一年の7月になった時である。
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