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二章
第46話 親友の死
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お互い探していた場所を都度知らせていたお陰で、瑞穂と竜一は10分もしないうちに舞のところへかけつけた
。
「舞、大丈夫?」
瑞穂に肩を揺すぶられたが、舞は首を振ることしかできなかった。
状況を把握した瑞穂と竜一も顔面蒼白になり、竜一なんかは陽菜子の状況を確認した後口に手を当てて嘔吐した。
当然だろう。
陽菜子の体は手足が変な方向にねじ曲がり、見るも無残な状態だったのだ。
命の灯がすでに消えているのは、確かめるほどでもなかった。
舞自身はというと、何がどうなっているのか、まるで分からなくなっていた。
自分が今何を見たのか、何が起きたのか、頭が真っ白になり思い出すこともできなかった。
心が思い出すことを拒否していた。
その中でも一番冷静でいたのは瑞穂だった。
瑞穂はそっと舞の背中に手を当てた。
その手から、じんわりとあたたかい体温が伝わってくる。
「怖かったよね。でも私が付いてるから大丈夫よ。」
舞の耳元で、彼女は優しく囁く。
それだけで少しだけ体の震えが落ち着いていくのを感じた。
「舞、とりあえずは移動しよう。立てる?」
言いながら瑞穂はその後ちらっと竜一の方に視線を移した。
竜一は自力でなんとか立ち上がり、ふらふらとした足取りで舞と瑞穂の方に近づいてきた。
舞は瑞穂に体を預けるような形で立ち上がると、彼女に支えられながら歩いた。
瑞穂に引きずられるようにして舞は家に戻った。
立っていることさえできず、部屋に入ると崩れるように床に座り込んだ。
飛び降り自殺はテレビや小説の世界で、実際に見たことなどもちろんなかった。
生々しい映像が、頭の中にこびりついて離れない。
舞が見たのはほんの一瞬の時間で、瞬きするよりも速く陽菜子は視界から消えていった。
だけど。
その一瞬、陽菜子と目が合ったのだ。
陽菜子が何かを訴えるようにこちらを見つめていた。
何かを…その"何か"が何なのかは分からないが、たしかに舞に訴えかけるような眼をしていた。
恐怖?舞への憎しみ?それとも……
いくら考えても答えは出なかった。
そしてたしかに残るのは、溢れるばかりの後悔だけだった。
自分のせいで、陽菜子を追い詰めた。
自分のせいで、陽菜子は死んだ。
おそらく陽菜子は舞のことを恨んだまま、死んでいっただろう。
舞の口から、嗚咽が漏れる。
もう謝ることさえ許されない。
何故、何故、と思うことばかりがずっと続いた。
何故、竜一に告白なんてしてしまったのか。
何故、自分は気持ちを抑えられなかったのか。
あんなに大事な友人だったのに。
陽菜子の笑顔が大好きだったのに。
何故、何故、何故。
彼女と話したくても、もう何の方法もなく、二度と会うことも叶わない。
それだけ思っても、彼女にはもう届かない。
いや、それ以前に、彼女は舞と話すことさえ拒否をしていた。
真剣に取り合うのを、避けたのだった。
自分の気持ちにどこにも逃げ場がなかったことに気付いたとたん、だらりと身体の力が抜けた。
だけど、彼女があんな行動を起こすことを阻止できたのは私だけだった。
他でもなく、私だけだったのだ。
元通りになることはできなくても、最悪の事態は止めることができた。
陽菜子は、舞の心に一生逃れることのできない罪の十字架を背負わせようとしたのかもしれない。
彼女は自分のことをもう友達とは思っていなかった。
彼女の心の内を確かめる術は、断たれてしまった。
そのまま、二度と関係を修復できない場所へと逝ってしまったのだ。
ごめんなさい、と声が漏れた。
震えた声が、空気に溶けあって切なく消えていった。
。
「舞、大丈夫?」
瑞穂に肩を揺すぶられたが、舞は首を振ることしかできなかった。
状況を把握した瑞穂と竜一も顔面蒼白になり、竜一なんかは陽菜子の状況を確認した後口に手を当てて嘔吐した。
当然だろう。
陽菜子の体は手足が変な方向にねじ曲がり、見るも無残な状態だったのだ。
命の灯がすでに消えているのは、確かめるほどでもなかった。
舞自身はというと、何がどうなっているのか、まるで分からなくなっていた。
自分が今何を見たのか、何が起きたのか、頭が真っ白になり思い出すこともできなかった。
心が思い出すことを拒否していた。
その中でも一番冷静でいたのは瑞穂だった。
瑞穂はそっと舞の背中に手を当てた。
その手から、じんわりとあたたかい体温が伝わってくる。
「怖かったよね。でも私が付いてるから大丈夫よ。」
舞の耳元で、彼女は優しく囁く。
それだけで少しだけ体の震えが落ち着いていくのを感じた。
「舞、とりあえずは移動しよう。立てる?」
言いながら瑞穂はその後ちらっと竜一の方に視線を移した。
竜一は自力でなんとか立ち上がり、ふらふらとした足取りで舞と瑞穂の方に近づいてきた。
舞は瑞穂に体を預けるような形で立ち上がると、彼女に支えられながら歩いた。
瑞穂に引きずられるようにして舞は家に戻った。
立っていることさえできず、部屋に入ると崩れるように床に座り込んだ。
飛び降り自殺はテレビや小説の世界で、実際に見たことなどもちろんなかった。
生々しい映像が、頭の中にこびりついて離れない。
舞が見たのはほんの一瞬の時間で、瞬きするよりも速く陽菜子は視界から消えていった。
だけど。
その一瞬、陽菜子と目が合ったのだ。
陽菜子が何かを訴えるようにこちらを見つめていた。
何かを…その"何か"が何なのかは分からないが、たしかに舞に訴えかけるような眼をしていた。
恐怖?舞への憎しみ?それとも……
いくら考えても答えは出なかった。
そしてたしかに残るのは、溢れるばかりの後悔だけだった。
自分のせいで、陽菜子を追い詰めた。
自分のせいで、陽菜子は死んだ。
おそらく陽菜子は舞のことを恨んだまま、死んでいっただろう。
舞の口から、嗚咽が漏れる。
もう謝ることさえ許されない。
何故、何故、と思うことばかりがずっと続いた。
何故、竜一に告白なんてしてしまったのか。
何故、自分は気持ちを抑えられなかったのか。
あんなに大事な友人だったのに。
陽菜子の笑顔が大好きだったのに。
何故、何故、何故。
彼女と話したくても、もう何の方法もなく、二度と会うことも叶わない。
それだけ思っても、彼女にはもう届かない。
いや、それ以前に、彼女は舞と話すことさえ拒否をしていた。
真剣に取り合うのを、避けたのだった。
自分の気持ちにどこにも逃げ場がなかったことに気付いたとたん、だらりと身体の力が抜けた。
だけど、彼女があんな行動を起こすことを阻止できたのは私だけだった。
他でもなく、私だけだったのだ。
元通りになることはできなくても、最悪の事態は止めることができた。
陽菜子は、舞の心に一生逃れることのできない罪の十字架を背負わせようとしたのかもしれない。
彼女は自分のことをもう友達とは思っていなかった。
彼女の心の内を確かめる術は、断たれてしまった。
そのまま、二度と関係を修復できない場所へと逝ってしまったのだ。
ごめんなさい、と声が漏れた。
震えた声が、空気に溶けあって切なく消えていった。
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