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二章
第41話 友人の告白
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あの手紙を受け取ってからすぐ、陽菜子はすぐに外へ飛び出した。
辺りはすっかり薄暗くなり、一人で出歩くなんて本当は怖くて仕方ないのだが、なんとなく一人で歩きたい気分だった。
もちろんここまで執拗に脅され、かなりの恐怖心はあった。
ただその反面、"負けたくない""犯人の思うツボになりたくない"と思う気持ちもまた強くなっていた。
こんな臆病で弱い自分が、いったいそれはなんでだろう。
答えはすぐに出た。
宮坂竜一だ。
そう、彼の存在が自分を奮い立たせてくれる"光"になっているのだ。
彼の放つあたたかな光に、陽菜子は惹かれていた。
彼と接していると、その光がすぅっと心の中にまで浸透してくる。
彼がいるだけで、彼の笑顔を見ているだけで、陽菜子は幸せだった。
竜一と、絶対に別れたくない。
その気持ちが自分を奮い立たせてくれていた。
一連の犯人が竜一のことを好きな人物の仕業だというのなら、なおさら自分は折れてはいけない。
しばらくふらふらと歩いていた陽菜子の目の前に、“Flower cafe”というこじんまりしているけれどお洒落そうなカフェがあった。
陽菜子は何かに導かれるように、入口のドアを押す。
「いらっしゃいませ。」
少し高めの女の声が店内に響き渡る。
街の賑わいとは逆に、店内は閑散としていた。
奥のテーブルに若いカップルが一組いるだけだった。
「アイスレモンティーを。」
それだけ店員に伝え、陽菜子は窓際の席に腰を落ち着けた。
ぼぅっと窓の外を眺めながら、レモンティーを待つ。
しばらくして店員が持ってきたアイスレモンティーを一口含み、そっと目を閉じた。
こうしている間にも、自分は誰かにも見張られているのだろうか。
手紙に書いていた"天誅"…あれはどういう意味だったのか。
そんなことをぼんやりと考えていた。
「あれ?陽菜子?」
突然背後から声をかけられ、陽菜子は振り向いて目を見開いた。
「…瑞穂?!」
「向かい、座っていいかしら。」
淡い緑のカーディガンを羽織っている彼女を、どこを見るともなく目を泳がせる。
正直、瑞穂と話すのは気まずかった。
ここ最近陽菜子はずっと瑞穂のことを避けていた。
そのことに瑞穂が気づいていないはずもないのだが、瑞穂は当たり前のように陽菜子の向かい側に座った。
カバンを隣の椅子に置くと、瑞穂は店員に"これと同じ物を"と陽菜子のレモンティーを指さして注文した。
「偶然ね、こんなところで会うなんて。」
「…ほんとだね。瑞穂はよくここに来るの?」
「よくではないけど、結構来てはいるかな。ここ、見晴らしがいいでしょう。落ち着くの。」
彼女は切れ長の目をまっすぐとこちらに向けると、小首を傾げるように陽菜子の顔を見た。
「何かあったのね。」
「…え?」
「見れば分かるわよ。深刻そうな顔をして窓の外を見つめていたもの。どうしたの?私でよければなんでも聞くわよ。」
「あ……」
陽菜子は思わず自分の顔を両手で覆った。
そんなに分かりやすい顔をしていただろうか。
一瞬、瑞穂に全部話してしまおうかと思った。
だけど、喉まで出かかった言葉を、陽菜子は唾とともに飲み込む。
瑞穂への警戒心の方が、勝ってしまったのだった。
「実は最近勉強に身が入らなくて…お母さんに怒られちゃったんだ。それで落ち込んで、ここに来たの。」
「…そう。」
瑞穂はそれ以上追及することもなく、自分のレモンティーに口を付けた。
「陽菜子。」
「ん?」
「竜一くんとは上手くいってるのよね?」
「え?うん、上手くいってるよ。どうして?」
どうしてそんなことを聞いてくるんだろう。
陽菜子は首を傾げて瑞穂を見る。
彼女は口をきゅっと結んで、いつになく険しい表情をした。
ゆっくりとかぶりを振る。
「ううん、それならいいのよ。なんでもないの。」
「そこまで言われたら気になっちゃうよ。教えてよ。」
「……」
「瑞穂?」
黙っているままの瑞穂に、なぜか不安がこみあげてくる。
そんな陽菜子の心情を察したのか、瑞穂は諦めたように一つため息を付いた。
「ちょっと気になったことがあって。これは私が思ったことだから、聞き流してくれてもいいんだけど。」
瑞穂はそこまで言うと、もう一度息を吐いた。
「舞のことなんだけど…あの子からね、竜一くんのことが好きだって聞いたことがあったの。」
「え?」
呆けたような声が陽菜子の口から漏れた。
なんて言われたのか、一瞬分からなかった。
「こんなこと、本当は告げ口みたいで本当はしたくなかった。もちろん陽菜子のことも傷つけるだろうし、舞は私の友達でもあるし。だけど、最近陽菜子ずっと元気がないでしょう?もしかしてそのことと何か関係あるのかなって思って……竜一くんからも、最近なんだか陽菜子の様子がおかしいって聞いたし心配で…」
「それは……ぅ……」
喉が震えて、言葉が出てこない。
そんな陽菜子を、瑞穂は哀し気な瞳で見つめてきた。
そしてその後、ゆっくりとその瞳を閉じる。
長い睫毛が、少しだけ潤んでいた。
「違うならいいのよ。私の勘違いだったわね、余計なこと言ってしまってごめんなさい。たぶん舞はそのことを陽菜子に言うつもりないと思うし、考えたらあの子が陽菜子を傷つけるようなことなんてするはずがないわよね。」
瑞穂の声が、やけに遠く響いた。
辺りはすっかり薄暗くなり、一人で出歩くなんて本当は怖くて仕方ないのだが、なんとなく一人で歩きたい気分だった。
もちろんここまで執拗に脅され、かなりの恐怖心はあった。
ただその反面、"負けたくない""犯人の思うツボになりたくない"と思う気持ちもまた強くなっていた。
こんな臆病で弱い自分が、いったいそれはなんでだろう。
答えはすぐに出た。
宮坂竜一だ。
そう、彼の存在が自分を奮い立たせてくれる"光"になっているのだ。
彼の放つあたたかな光に、陽菜子は惹かれていた。
彼と接していると、その光がすぅっと心の中にまで浸透してくる。
彼がいるだけで、彼の笑顔を見ているだけで、陽菜子は幸せだった。
竜一と、絶対に別れたくない。
その気持ちが自分を奮い立たせてくれていた。
一連の犯人が竜一のことを好きな人物の仕業だというのなら、なおさら自分は折れてはいけない。
しばらくふらふらと歩いていた陽菜子の目の前に、“Flower cafe”というこじんまりしているけれどお洒落そうなカフェがあった。
陽菜子は何かに導かれるように、入口のドアを押す。
「いらっしゃいませ。」
少し高めの女の声が店内に響き渡る。
街の賑わいとは逆に、店内は閑散としていた。
奥のテーブルに若いカップルが一組いるだけだった。
「アイスレモンティーを。」
それだけ店員に伝え、陽菜子は窓際の席に腰を落ち着けた。
ぼぅっと窓の外を眺めながら、レモンティーを待つ。
しばらくして店員が持ってきたアイスレモンティーを一口含み、そっと目を閉じた。
こうしている間にも、自分は誰かにも見張られているのだろうか。
手紙に書いていた"天誅"…あれはどういう意味だったのか。
そんなことをぼんやりと考えていた。
「あれ?陽菜子?」
突然背後から声をかけられ、陽菜子は振り向いて目を見開いた。
「…瑞穂?!」
「向かい、座っていいかしら。」
淡い緑のカーディガンを羽織っている彼女を、どこを見るともなく目を泳がせる。
正直、瑞穂と話すのは気まずかった。
ここ最近陽菜子はずっと瑞穂のことを避けていた。
そのことに瑞穂が気づいていないはずもないのだが、瑞穂は当たり前のように陽菜子の向かい側に座った。
カバンを隣の椅子に置くと、瑞穂は店員に"これと同じ物を"と陽菜子のレモンティーを指さして注文した。
「偶然ね、こんなところで会うなんて。」
「…ほんとだね。瑞穂はよくここに来るの?」
「よくではないけど、結構来てはいるかな。ここ、見晴らしがいいでしょう。落ち着くの。」
彼女は切れ長の目をまっすぐとこちらに向けると、小首を傾げるように陽菜子の顔を見た。
「何かあったのね。」
「…え?」
「見れば分かるわよ。深刻そうな顔をして窓の外を見つめていたもの。どうしたの?私でよければなんでも聞くわよ。」
「あ……」
陽菜子は思わず自分の顔を両手で覆った。
そんなに分かりやすい顔をしていただろうか。
一瞬、瑞穂に全部話してしまおうかと思った。
だけど、喉まで出かかった言葉を、陽菜子は唾とともに飲み込む。
瑞穂への警戒心の方が、勝ってしまったのだった。
「実は最近勉強に身が入らなくて…お母さんに怒られちゃったんだ。それで落ち込んで、ここに来たの。」
「…そう。」
瑞穂はそれ以上追及することもなく、自分のレモンティーに口を付けた。
「陽菜子。」
「ん?」
「竜一くんとは上手くいってるのよね?」
「え?うん、上手くいってるよ。どうして?」
どうしてそんなことを聞いてくるんだろう。
陽菜子は首を傾げて瑞穂を見る。
彼女は口をきゅっと結んで、いつになく険しい表情をした。
ゆっくりとかぶりを振る。
「ううん、それならいいのよ。なんでもないの。」
「そこまで言われたら気になっちゃうよ。教えてよ。」
「……」
「瑞穂?」
黙っているままの瑞穂に、なぜか不安がこみあげてくる。
そんな陽菜子の心情を察したのか、瑞穂は諦めたように一つため息を付いた。
「ちょっと気になったことがあって。これは私が思ったことだから、聞き流してくれてもいいんだけど。」
瑞穂はそこまで言うと、もう一度息を吐いた。
「舞のことなんだけど…あの子からね、竜一くんのことが好きだって聞いたことがあったの。」
「え?」
呆けたような声が陽菜子の口から漏れた。
なんて言われたのか、一瞬分からなかった。
「こんなこと、本当は告げ口みたいで本当はしたくなかった。もちろん陽菜子のことも傷つけるだろうし、舞は私の友達でもあるし。だけど、最近陽菜子ずっと元気がないでしょう?もしかしてそのことと何か関係あるのかなって思って……竜一くんからも、最近なんだか陽菜子の様子がおかしいって聞いたし心配で…」
「それは……ぅ……」
喉が震えて、言葉が出てこない。
そんな陽菜子を、瑞穂は哀し気な瞳で見つめてきた。
そしてその後、ゆっくりとその瞳を閉じる。
長い睫毛が、少しだけ潤んでいた。
「違うならいいのよ。私の勘違いだったわね、余計なこと言ってしまってごめんなさい。たぶん舞はそのことを陽菜子に言うつもりないと思うし、考えたらあの子が陽菜子を傷つけるようなことなんてするはずがないわよね。」
瑞穂の声が、やけに遠く響いた。
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