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二章
第27話 一つの隠し事
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「今日帰りに3人でご飯行かない?」
終礼後、机にあるカバンを肩に引き寄せながら竜一が聞いてくる。
舞は頭の中で今日の予定を確認する。
今日は瑞穂とも一緒に帰る約束していないし、たまにはいいだろう。
竜一の提案に、舞と陽菜子は顔を見合わせ、はーい!と手を上げた。
「よし、じゃあ決まり。」
わーい、と無邪気に喜ぶ陽菜子を、舞は微笑ましく眺めていた。
**********
「あー食べた。たまには、こういうのもいいな。」
ラーメンを食べて膨らんだ自分のお腹を擦りながら竜一が言った。
舞も陽菜子もうん、と頷く。
そういえば、この3人でご飯を食べるのは初めてだった。
「また、食べに来ようよ。」
「うん!」
竜一に言われて、陽菜子が嬉しそうに笑う。
舞もそれに同調して頷いた。
ただ、次は陽菜子と竜一が2人で行けるように気を遣ったほうが良いかな。
そんなことを考えながら。
「せっかくこうやって同じ班で話すようになったんだしさ、今度3人で勉強会しない?俺ん家でもいいけど、3人の家をローテーションして行くとかどう?」
「あー…ごめんなさい、うちはそういうのダメなんだ。」
陽菜子が残念そうに両手を胸の前で合わせる。
「なんで?」
「お母さんがね、男の人とか家に入れたりすると機嫌悪くなるの。それに、男の子の家に行くとかも反対されると思う。」
「うわ、お嬢様なんだな。」
そんなんじゃないんだけど、と陽菜子がおずおずと肩を竦める。
「でも男の子関係にはうるさいかな。私ももっと自由にできたら嬉しいなって思うけど、しょうがないよね。たぶん、舞ちゃんの家なら、全然許してくれると思うんだけど…」
「別に私はいいよ。何にも言われることはないし。」
舞の母親は大雑把でのんびりとした性格だ。
男の子が来たところで、後から色々とからかわれることはあると思うが、うるさく言われたりすることなどはない。
「そんなん、俺がちゃんと挨拶すればお母さんも分かってくれると思うんだけどなぁ。」
「あはは、そんな簡単だったら良かったんだけどね。」
陽菜子がのんびりと笑う。
笑ってはいるけれど、その表情はどこか哀し気に舞には思えた。
「じゃあ、またなー」
途中で道が分かれ、竜一だけが別になる。
ぶんぶんと手を振る隆一を、舞と陽菜子も笑顔で振り返した。
陽菜子はニコニコと満面の笑みを浮かべながら歩いている。
竜一と一緒にご飯を食べれたことがよほど嬉しかったのだろう。
手に持ったバッグを大げさにぶらぶらさせながら歩く姿を見ていると、こちらまで幸せな気分になる。
2年生の時にあったあの出来事を、ほんの少しでも忘れることができた。
だけど、と舞は心の中で小さくため息を吐く。
舞には陽菜子に1つだけ隠していることがあった。
最近になって、ある感情がうっすらと芽生えつつあることに。
竜一に対して、他の異性には絶対に感じない感情。
彼と話している時にだけ感じる、心の疼き。
その正体に、舞は気づき始めていた。
今日だって、二人が仲良く話しているのを見て嫌だ、と思ってしまっている自分に驚いた。
でも、まだ間に合う。このまま二人を応援できる。
舞は必死にその感情に蓋をするように首を振った。
「私、ここ曲がってすぐだから。」
ふと、陽菜子のおっとりとした声で我に返る。
陽菜子が折れそうなほど細い指で、曲がり角を指さしていた。
「そっか。」
「そういえば、舞の家はどこらへん?」
「もうちょっと歩いていった先。2つ目の交差点を右に曲がったところ。」
「結構近かったんだね。」
陽菜子は近くにあった小石を足で小さく蹴る。
コツン、という音がして石が転がっていった。
「今日は嬉しかった。竜一くんとご飯食べれて、いっぱいお話できて。」
「そうだね。」
「あんなに豪快にラーメンを食べる人だと思わなくって。意外な一面も見れちゃった。」
ふふ、と陽菜子がおっとりと笑う。
まるで、陽菜子の周りにだけ花が咲いたように優しい空気が包み込んでいる。
「そろそろ帰ろうか。またね。」
「うん。」
ひらり、と制服のスカートをなびかせながら陽菜子が手を振った。
舞もまたね、と陽菜子に手を振り返す。
少しずつ遠ざかっていく陽菜子の背中が、小さな子供を見ているかのように愛おしく感じた。
終礼後、机にあるカバンを肩に引き寄せながら竜一が聞いてくる。
舞は頭の中で今日の予定を確認する。
今日は瑞穂とも一緒に帰る約束していないし、たまにはいいだろう。
竜一の提案に、舞と陽菜子は顔を見合わせ、はーい!と手を上げた。
「よし、じゃあ決まり。」
わーい、と無邪気に喜ぶ陽菜子を、舞は微笑ましく眺めていた。
**********
「あー食べた。たまには、こういうのもいいな。」
ラーメンを食べて膨らんだ自分のお腹を擦りながら竜一が言った。
舞も陽菜子もうん、と頷く。
そういえば、この3人でご飯を食べるのは初めてだった。
「また、食べに来ようよ。」
「うん!」
竜一に言われて、陽菜子が嬉しそうに笑う。
舞もそれに同調して頷いた。
ただ、次は陽菜子と竜一が2人で行けるように気を遣ったほうが良いかな。
そんなことを考えながら。
「せっかくこうやって同じ班で話すようになったんだしさ、今度3人で勉強会しない?俺ん家でもいいけど、3人の家をローテーションして行くとかどう?」
「あー…ごめんなさい、うちはそういうのダメなんだ。」
陽菜子が残念そうに両手を胸の前で合わせる。
「なんで?」
「お母さんがね、男の人とか家に入れたりすると機嫌悪くなるの。それに、男の子の家に行くとかも反対されると思う。」
「うわ、お嬢様なんだな。」
そんなんじゃないんだけど、と陽菜子がおずおずと肩を竦める。
「でも男の子関係にはうるさいかな。私ももっと自由にできたら嬉しいなって思うけど、しょうがないよね。たぶん、舞ちゃんの家なら、全然許してくれると思うんだけど…」
「別に私はいいよ。何にも言われることはないし。」
舞の母親は大雑把でのんびりとした性格だ。
男の子が来たところで、後から色々とからかわれることはあると思うが、うるさく言われたりすることなどはない。
「そんなん、俺がちゃんと挨拶すればお母さんも分かってくれると思うんだけどなぁ。」
「あはは、そんな簡単だったら良かったんだけどね。」
陽菜子がのんびりと笑う。
笑ってはいるけれど、その表情はどこか哀し気に舞には思えた。
「じゃあ、またなー」
途中で道が分かれ、竜一だけが別になる。
ぶんぶんと手を振る隆一を、舞と陽菜子も笑顔で振り返した。
陽菜子はニコニコと満面の笑みを浮かべながら歩いている。
竜一と一緒にご飯を食べれたことがよほど嬉しかったのだろう。
手に持ったバッグを大げさにぶらぶらさせながら歩く姿を見ていると、こちらまで幸せな気分になる。
2年生の時にあったあの出来事を、ほんの少しでも忘れることができた。
だけど、と舞は心の中で小さくため息を吐く。
舞には陽菜子に1つだけ隠していることがあった。
最近になって、ある感情がうっすらと芽生えつつあることに。
竜一に対して、他の異性には絶対に感じない感情。
彼と話している時にだけ感じる、心の疼き。
その正体に、舞は気づき始めていた。
今日だって、二人が仲良く話しているのを見て嫌だ、と思ってしまっている自分に驚いた。
でも、まだ間に合う。このまま二人を応援できる。
舞は必死にその感情に蓋をするように首を振った。
「私、ここ曲がってすぐだから。」
ふと、陽菜子のおっとりとした声で我に返る。
陽菜子が折れそうなほど細い指で、曲がり角を指さしていた。
「そっか。」
「そういえば、舞の家はどこらへん?」
「もうちょっと歩いていった先。2つ目の交差点を右に曲がったところ。」
「結構近かったんだね。」
陽菜子は近くにあった小石を足で小さく蹴る。
コツン、という音がして石が転がっていった。
「今日は嬉しかった。竜一くんとご飯食べれて、いっぱいお話できて。」
「そうだね。」
「あんなに豪快にラーメンを食べる人だと思わなくって。意外な一面も見れちゃった。」
ふふ、と陽菜子がおっとりと笑う。
まるで、陽菜子の周りにだけ花が咲いたように優しい空気が包み込んでいる。
「そろそろ帰ろうか。またね。」
「うん。」
ひらり、と制服のスカートをなびかせながら陽菜子が手を振った。
舞もまたね、と陽菜子に手を振り返す。
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