ヴィーナスは微笑む

蒼井 結花理

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二章

第26話 新生活の始まり

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高校3年生になり、舞と瑞穂はまた同じクラスになった。



瑞穂はより、美しい生き物になっていた。


顔立ちには幼さもあるけれど、瑞穂の気品と気高さは更に磨きを増していた。


そこにいるだけで存在感があった。


勉強もできて誰にでも隔てなく優しい瑞穂は妬みを受けてもおかしくなさそうだが、誰一人として瑞穂のことを悪くいう人はいなかった。


それどころか、瑞穂を崇拝する人達までいるくらいだ。


瑞穂にはなぜかそんな嫌な感情さえ寄せ付けない、不思議な魅力を持っている。



3年生になってから、舞には早々に友人もできた。


織部陽菜子(おりべひなこ)という女の子だった。


陽菜子とは隣の席になって、初日から意気投合して仲良くなった。



彼女はその名前の通り、とても穏やかでおっとりとした子だった。


肩で揃えられた黒髪と元々の童顔が合い交じり、小動物を彷彿させた。



陽菜子は普段は大人しいが、勉強もでき、これまで常に学年トップの成績だった。


1年の時からいつも瑞穂と1、2位を争っていたのだった。


3年生になってから、瑞穂も含め3人で行動することや遊ぶことも増えていた。


当然年頃なので、恋愛話をすることも増えていく。


それは舞達も然りで、3人で恋愛話に花を咲かせることも少なくなかった。


今も3人で、日曜日の休みにご飯を食べにマクドナルドに来ている。



陽菜子には好きな男子がいた。


同じクラスの宮坂竜一(みやさかりゅういち)という男の子なのだが、その子のことを話す時はいつも真っ赤になる。


舞はそんな陽菜子が可愛らしいな、と思っていた。


舞と陽菜子と竜一は同じ班なので、当然話をする機会も多い。


瑞穂も舞とはいつも一緒にいるので、4人で話をすることも少なくなかった。


竜一も穏やかで大人しい性格で、陽菜子とお似合いだとも思っていたし上手くいったらいいな、と心の中で応援もしていた。



「ねぇ、舞、瑞穂、聞いて!今度の日曜日、竜一くんとデートすることになった!」


「え!ほんとに?陽菜子、良かったじゃん!!」


舞は陽菜子の手を取って素直に喜ぶ。


陽菜子も嬉しそうに頬を赤らめながら微笑んだ。


少し遅れて、瑞穂も良かったね、と微笑む。


「デートって言っても、妹さんのお誕生日プレゼント買うの付き合ってって言われてだけなんだけど。」


「それでも十分じゃん。陽菜子を誘ってくれたんだから。」


「うん。でもさ、竜一くんて彼女いるのかなぁ?二人とも知ってる?」


そういえば、竜一の噂を全く聞いたことがない。


舞も瑞穂も二人して横に首を振った。



「聞いたことないなぁ。そういうこと、竜一くんも言わないしね。」


「だよね。舞、今度さりげなく聞いてもらえない?」


「えーー…」


「お願い!!」


陽菜子は手を合わせて上目遣いで舞を見てくる。


こんな小動物のような顔でお願いされて、断れる人なんかいるのだろうか。


「仕方ないなぁ。今度何か奢ってもらうからね。」


舞の返事を聞いた陽菜子の顔がぱぁっと明るくなる。


「うん!ありがとう、舞!」


「どういたしましてー」


「瑞穂は、どうなの?彼氏とかいないの?」


陽菜子が瑞穂の方に顔を向ける。


瑞穂は大げさに肩を竦めて見せた。


「残念ながら、いないよ。」


「好きな人も?」


「いない。」


「そんなに綺麗なのに、もったいない。」


それには舞も同調して首を縦に振った。


瑞穂は誰もが羨むような女の子だ。


モデルのようにスタイルも良いし、顔立ちも整っていて、それでいてどこか影のあるような儚さを兼ね備えている。


当然男子が放っておくわけがなかったし、実際これまで何度も告白されている。


だけどその度に、瑞穂は"その気がないから"と断っていた。


どんなにかっこいい男子でも断り続けているせいか、学校では"氷の女王"なんて呼ばれるようになっていた。



「別に、恋愛をしたくないわけじゃないわよ。好きだなって思える人がいたらそれはいいなとは思うもの。私だって人並に恋はしたい。付き合うなら、長続きする恋愛がしたいな。ずっとお互いに尊重できる関係でいたい。」


瑞穂らしい大人びた意見に、そうだよね、と舞も陽菜子も頷いた。


「陽菜子みたいにそこまで一人の人を想えるのって素敵だと思う。羨ましいわ。私もそんな人を見つけたい。」


そう言って、瑞穂は眩しそうに目を細めて空を見上げる。



近くにあるほとんど葉桜になった桜の木から、桜の花びらが舞い降りて瑞穂の肩に落ちた。


4月も中旬になり、桜もそろそろ見納めの時期だ。
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