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一章
第23話 引かれた引き金
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お昼休み、廊下を歩きながら、舞は密かにほくそ笑む。
なにもかもが、舞の計画通りだった。
愛美に友樹に対して不信感を抱かせ、絶対的だった友樹との絆を壊す。
それこそが、舞の目的だった。
舞は自分の一番の友達である瑞穂を傷つけられた。だから、友樹の一番大事にしている妹を傷つけて奪ってやろうと思ったのだ。
愛美の瞳を見ても、友樹への憎しみの炎でギラギラしていたのが伝わってきた。間違いなくこれで愛美と友樹の関係は崩れるだろう。
歩いている間にも、高揚感が止めどなくあふれ出して、身体中が熱くなった。
瑞穂の仇が取れたという達成感で胸がいっぱいだった。
と、廊下の端から人影が見え、舞は顔を上げる。
その人物は背中を丸め、とぼとぼとこちらに向かって歩いてくる。
新谷友樹だった。
ひどく顔色が悪く、足取りも重い。
舞は唇を引き締めると、無言で彼の目を見つめた。
「…七瀬。」
「……」
「俺、どうしたらいいんだ。さっき愛美と話そうとしたけど、俺のことすごい目つきで睨んでくるんだよ……」
友樹は泣きそうな顔になると、両手で頭を抱え込んだ。
そんな様子を、舞は冷めた目で見つめる。
次に友樹は「なんでこんなことに!」「いったいどうなってるんだよ!」と大声で叫びだした。
びっくりして周りを見回すと、近くにいた生徒達の視線が自分達に向いていた。
舞は唇に人差し指を当てて「ちょっと落ち着いて。ここじゃみんな見てるから屋上にでも行こう」と友樹に提案した。
**********
「いったい、どうなってるんだ!誰があんなこと!」
屋上まで行った後も、しばらく友樹は落ち着く様子もなく、ずっと同じことを繰り返していた。
仕方がないので、舞は売店で買ってきたジュースを友樹に手渡す。
何口かジュースを飲むと、少し落ち着いてきたのか、友樹はふぅと一つ深呼吸をした。
「…少しは落ち着いた?」
「……あぁ。ごめん、取り乱して。」
「ここでなら、誰にも見られないから大丈夫だよ。」
「……」
「ねぇ、友樹くん。」
舞も一口自分のグレープジュースを飲むと、一呼吸置いてゆっくりと話し出す。
「あんなことされたことに、心当たりないの?」
「……」
友樹は言葉に詰まったのか、それには答えず、両手でジュースを持ったまま俯く。
「瑞穂は私の友達だよ。知ってただろうけど。」
舞は俯いたままの友樹を横目で見ると淡々と続けていく。
ぴくりと友樹の体が反応したが、それでも返事はない。
「少しは、大事な人を傷つけられた気持ちが分かった?」
その言葉を発すると、友樹はハッとしたように顔を上げた。
その意味を理解するのに数秒間があった後、目を見開いた。
「まさか……お前が……」
「そうだよ。私が全部仕組んだこと。」
唇の端を上げると、友樹はみるみるうちに顔を紅潮させていく。
「それじゃあ、お前が俺に近づいたのも…」
「当然、それも計算だよ。愛美ちゃんを傷つけるためのね。」
「…な…なんてこと…」
友樹は怒りで唇を震わせている。
「ずっと俺を騙してたのか!こっちの事情何にもしらねーくせに!」
友樹は舞に掴みかかると、ぐいっと顔を近づけてくる。唇が触れそうな距離で、唾を吐きながら怒号を浴びせかけた。
友樹の勢いに一瞬怯むが、舞は冷静に言葉を発していく。
「自分がああいうことしたくせに、何言ってるの?自業自得でしょ。」
舞が冷たい目で吐き捨てるように言うと、友樹は舞の首に手を移動させてきた。
その手に力が入り、舞は呼吸器官を圧迫されてうっと声をあげる。
首に指がめり込み、次第に意識が朦朧としてくる。
「愛美は…愛美は俺の生きがいなんだ!!」
「……っ」
「お前のせいで…お前なんかに…」
更に強く首を締め付けられ意識が飛びそうになる中、舞は不意に瑞穂からもらった催眠スプレーのことを思い出す。
震える手で必死にポケットの中をまさぐり、手探りで確認して、やっとの思いで取り出した。
そして、友樹の顔面めがけ、スプレーを噴射させた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
友樹は悲鳴を上げながら後ずさる。
そして、苦痛に歪んだ表情で胸元を押さえつけた。
ヒューヒューという笛を吹くような喘鳴が、数メートル離れているはずの舞の鼓膜にはっきりと響いてくる。
片手で胸を押さえながら、友樹は助けを求めるように苦し気に舞を見上げてきた。
舞は茫然とその様子を見下ろす。
スプレーを持った手が、ぷるぷると震えていた。
目の前でいったい何が起こっているのか、理解できなかった。
数秒間の間の後、はっと我に返った舞は、そのまま逃げるように友樹に背を向けて全速力で走りだした。
そのまま家に帰った舞は、母親のお帰りなさい、という声にも返事をせずに二階にある自分の部屋に入りベッドに倒れこむ。
こんな精神状態なのに睡魔には勝てなかったのか、舞はすぐに夢の中へと引き込まれていった。
新谷友樹が屋上で亡くなっていたと知ったのは、翌日の朝のことだった。
なにもかもが、舞の計画通りだった。
愛美に友樹に対して不信感を抱かせ、絶対的だった友樹との絆を壊す。
それこそが、舞の目的だった。
舞は自分の一番の友達である瑞穂を傷つけられた。だから、友樹の一番大事にしている妹を傷つけて奪ってやろうと思ったのだ。
愛美の瞳を見ても、友樹への憎しみの炎でギラギラしていたのが伝わってきた。間違いなくこれで愛美と友樹の関係は崩れるだろう。
歩いている間にも、高揚感が止めどなくあふれ出して、身体中が熱くなった。
瑞穂の仇が取れたという達成感で胸がいっぱいだった。
と、廊下の端から人影が見え、舞は顔を上げる。
その人物は背中を丸め、とぼとぼとこちらに向かって歩いてくる。
新谷友樹だった。
ひどく顔色が悪く、足取りも重い。
舞は唇を引き締めると、無言で彼の目を見つめた。
「…七瀬。」
「……」
「俺、どうしたらいいんだ。さっき愛美と話そうとしたけど、俺のことすごい目つきで睨んでくるんだよ……」
友樹は泣きそうな顔になると、両手で頭を抱え込んだ。
そんな様子を、舞は冷めた目で見つめる。
次に友樹は「なんでこんなことに!」「いったいどうなってるんだよ!」と大声で叫びだした。
びっくりして周りを見回すと、近くにいた生徒達の視線が自分達に向いていた。
舞は唇に人差し指を当てて「ちょっと落ち着いて。ここじゃみんな見てるから屋上にでも行こう」と友樹に提案した。
**********
「いったい、どうなってるんだ!誰があんなこと!」
屋上まで行った後も、しばらく友樹は落ち着く様子もなく、ずっと同じことを繰り返していた。
仕方がないので、舞は売店で買ってきたジュースを友樹に手渡す。
何口かジュースを飲むと、少し落ち着いてきたのか、友樹はふぅと一つ深呼吸をした。
「…少しは落ち着いた?」
「……あぁ。ごめん、取り乱して。」
「ここでなら、誰にも見られないから大丈夫だよ。」
「……」
「ねぇ、友樹くん。」
舞も一口自分のグレープジュースを飲むと、一呼吸置いてゆっくりと話し出す。
「あんなことされたことに、心当たりないの?」
「……」
友樹は言葉に詰まったのか、それには答えず、両手でジュースを持ったまま俯く。
「瑞穂は私の友達だよ。知ってただろうけど。」
舞は俯いたままの友樹を横目で見ると淡々と続けていく。
ぴくりと友樹の体が反応したが、それでも返事はない。
「少しは、大事な人を傷つけられた気持ちが分かった?」
その言葉を発すると、友樹はハッとしたように顔を上げた。
その意味を理解するのに数秒間があった後、目を見開いた。
「まさか……お前が……」
「そうだよ。私が全部仕組んだこと。」
唇の端を上げると、友樹はみるみるうちに顔を紅潮させていく。
「それじゃあ、お前が俺に近づいたのも…」
「当然、それも計算だよ。愛美ちゃんを傷つけるためのね。」
「…な…なんてこと…」
友樹は怒りで唇を震わせている。
「ずっと俺を騙してたのか!こっちの事情何にもしらねーくせに!」
友樹は舞に掴みかかると、ぐいっと顔を近づけてくる。唇が触れそうな距離で、唾を吐きながら怒号を浴びせかけた。
友樹の勢いに一瞬怯むが、舞は冷静に言葉を発していく。
「自分がああいうことしたくせに、何言ってるの?自業自得でしょ。」
舞が冷たい目で吐き捨てるように言うと、友樹は舞の首に手を移動させてきた。
その手に力が入り、舞は呼吸器官を圧迫されてうっと声をあげる。
首に指がめり込み、次第に意識が朦朧としてくる。
「愛美は…愛美は俺の生きがいなんだ!!」
「……っ」
「お前のせいで…お前なんかに…」
更に強く首を締め付けられ意識が飛びそうになる中、舞は不意に瑞穂からもらった催眠スプレーのことを思い出す。
震える手で必死にポケットの中をまさぐり、手探りで確認して、やっとの思いで取り出した。
そして、友樹の顔面めがけ、スプレーを噴射させた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
友樹は悲鳴を上げながら後ずさる。
そして、苦痛に歪んだ表情で胸元を押さえつけた。
ヒューヒューという笛を吹くような喘鳴が、数メートル離れているはずの舞の鼓膜にはっきりと響いてくる。
片手で胸を押さえながら、友樹は助けを求めるように苦し気に舞を見上げてきた。
舞は茫然とその様子を見下ろす。
スプレーを持った手が、ぷるぷると震えていた。
目の前でいったい何が起こっているのか、理解できなかった。
数秒間の間の後、はっと我に返った舞は、そのまま逃げるように友樹に背を向けて全速力で走りだした。
そのまま家に帰った舞は、母親のお帰りなさい、という声にも返事をせずに二階にある自分の部屋に入りベッドに倒れこむ。
こんな精神状態なのに睡魔には勝てなかったのか、舞はすぐに夢の中へと引き込まれていった。
新谷友樹が屋上で亡くなっていたと知ったのは、翌日の朝のことだった。
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