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一章
第12話 新谷愛美
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「愛美ちゃーん!」
「えっ?」
後ろから名前を呼ばれ、新谷愛美(あらたにまなみ)は思わずびくっと肩を反応させる。
振り返ると、クラスメイトの雨宮紗耶香(あめみやさやか)が立っていた。
一番の親友の顔に、愛美は思わず表情を綻ばせる。
「紗耶香ちゃん!今、帰りなの?」
「うん!一緒に帰ろ。」
紗耶香は肩まで切りそろえられたボブヘアーをなびかせながら早歩きで愛美の隣に並ぶと、校門に向かって一緒に歩き出す。
紗耶香とは、小学校の時からの幼馴染だ。愛美は小学校1年の時に近所でピアノを習い始めたのだが、その習っていたピアノ教室で一緒になった。
母親同士もその際に意気投合し、今では家族ぐるみで仲良くしている。
紗耶香は私よりピアノを習い始めたのは遅かったのだが、才能があったのだろう、紗耶香はめきめき上達し、あっという間に愛美のレベルを追い越していった。
今ではコンクールで何度も賞を取るほどだ。
もちろん悔しさがない訳ではなかったが、そんな紗耶香が自分の親友であることが自慢であり、誇りであった。
そして紗耶香は特別な美人でこそないが、小柄で人懐っこく愛嬌もあるため、昔から男子からも女子からも人気だった。
一方愛美は人見知りの性格で、そのためなかなかクラスに馴染めないでいた。仲間外れにされることも少なくなかった。
実は最近になってなぜかそれが急にエスカレートし、愛美はクラスメイトから執拗ないじめを受けるようになっていたのだが、紗耶香がそばにいてくれるので何の苦痛もなかった。
無理して仲良しグループを作り上辺だけの付き合いをするよりも、たった一人紗耶香がいれば良かった。彼女の存在の方が、愛美にとってはずっと大切なものであったのだ。
そして、愛美にとって大事な存在はもう一人。
「ねーねー。今日は愛美ちゃんの家に行きたいなー」
「あ…ごめん、紗耶香ちゃん。今日はお兄ちゃんと買い物する予定なんだぁ。」
申し訳なさそうに謝ると、紗耶香はにんまりと意地悪な笑みを浮かべた。
「まーたお兄ちゃんか。ホントに愛美ちゃんはお兄ちゃんが大好きだねぇ。」
「…うー。ごめんね、紗耶香ちゃん。」
「いいっていいって!仕方ない、今日のところはお兄ちゃんに譲ってあげるか。あー羨ましい」
照れくさそうに笑う愛美を、紗耶香はぎゅーっと抱きしめてくる。
紗耶香のあったかい体温が伝わってきて、とても心地良い。
彼女はこうやってすぐくっついてくる癖があるのだが、それも家庭環境のせいかもしれない。
紗耶香の家が母子家庭であることを知ったのは、小学校の高学年になった時だった。
紗耶香が2歳の時に両親が離婚しており、父親のことはまったく記憶がないという。
ただ母親に聞いた話によると、父親は他に女の人を作って出て行ってしまったらしい。
そんな境遇と合わせ、紗耶香は一人っ子であるため、よけいに寂しかったのだろう。
愛美にはお兄ちゃんもいたし、仲が良いことを彼女は知っているので、なおさらだったかもしれない。
そのせいもあってか、紗耶香は愛美のことを出会った時から実の妹のように慕い、可愛がってくれていた。
愛美の生活は、お兄ちゃんと紗耶香によって幸せを保たれていたといっても過言ではない。
いくら机に落書きをされても、上履きを隠されても、仲間外れにされても、そんなことはいくらでも耐えられた。
この二人が隣にいてくれさえすれば。
「えっ?」
後ろから名前を呼ばれ、新谷愛美(あらたにまなみ)は思わずびくっと肩を反応させる。
振り返ると、クラスメイトの雨宮紗耶香(あめみやさやか)が立っていた。
一番の親友の顔に、愛美は思わず表情を綻ばせる。
「紗耶香ちゃん!今、帰りなの?」
「うん!一緒に帰ろ。」
紗耶香は肩まで切りそろえられたボブヘアーをなびかせながら早歩きで愛美の隣に並ぶと、校門に向かって一緒に歩き出す。
紗耶香とは、小学校の時からの幼馴染だ。愛美は小学校1年の時に近所でピアノを習い始めたのだが、その習っていたピアノ教室で一緒になった。
母親同士もその際に意気投合し、今では家族ぐるみで仲良くしている。
紗耶香は私よりピアノを習い始めたのは遅かったのだが、才能があったのだろう、紗耶香はめきめき上達し、あっという間に愛美のレベルを追い越していった。
今ではコンクールで何度も賞を取るほどだ。
もちろん悔しさがない訳ではなかったが、そんな紗耶香が自分の親友であることが自慢であり、誇りであった。
そして紗耶香は特別な美人でこそないが、小柄で人懐っこく愛嬌もあるため、昔から男子からも女子からも人気だった。
一方愛美は人見知りの性格で、そのためなかなかクラスに馴染めないでいた。仲間外れにされることも少なくなかった。
実は最近になってなぜかそれが急にエスカレートし、愛美はクラスメイトから執拗ないじめを受けるようになっていたのだが、紗耶香がそばにいてくれるので何の苦痛もなかった。
無理して仲良しグループを作り上辺だけの付き合いをするよりも、たった一人紗耶香がいれば良かった。彼女の存在の方が、愛美にとってはずっと大切なものであったのだ。
そして、愛美にとって大事な存在はもう一人。
「ねーねー。今日は愛美ちゃんの家に行きたいなー」
「あ…ごめん、紗耶香ちゃん。今日はお兄ちゃんと買い物する予定なんだぁ。」
申し訳なさそうに謝ると、紗耶香はにんまりと意地悪な笑みを浮かべた。
「まーたお兄ちゃんか。ホントに愛美ちゃんはお兄ちゃんが大好きだねぇ。」
「…うー。ごめんね、紗耶香ちゃん。」
「いいっていいって!仕方ない、今日のところはお兄ちゃんに譲ってあげるか。あー羨ましい」
照れくさそうに笑う愛美を、紗耶香はぎゅーっと抱きしめてくる。
紗耶香のあったかい体温が伝わってきて、とても心地良い。
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愛美にはお兄ちゃんもいたし、仲が良いことを彼女は知っているので、なおさらだったかもしれない。
そのせいもあってか、紗耶香は愛美のことを出会った時から実の妹のように慕い、可愛がってくれていた。
愛美の生活は、お兄ちゃんと紗耶香によって幸せを保たれていたといっても過言ではない。
いくら机に落書きをされても、上履きを隠されても、仲間外れにされても、そんなことはいくらでも耐えられた。
この二人が隣にいてくれさえすれば。
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