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一章
第4話 決意
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舞と瑞穂は、そのまま瑞穂の家に行くことになった。
親には、友達の家に遊びに行くから遅くなる、とメールを入れておいた。
帰宅後に色々と母親に口うるさく言われるだろうと想像して気が重くなったが、それ以上に瑞穂の家に行ける喜びのほうが遥かに大きかった。
瑞穂が住む家は、どんな家なのだろうか。
やっぱりお嬢様という感じのお洒落な家なんだろうか。
それとも、意外と平凡な感じかな。
そんなことを考えて、思わず胸が高鳴る。無意識に頬が緩んでしまっていた。
それと、先程瑞穂から言われた‘相談に乗ってほしい’ということが気にかかってもいた。
瑞穂に頼られて、嫌な気分になる人なんていないだろう。
二人は古さが残る住宅地の中に入っていく。
瑞穂の家はその中の一つだった。
彼女のお嬢様なイメージからはほど遠い、とまではいかないが、どこにでもあるような木造建ての平凡な一軒家だった。
聞くところによると、瑞穂の両親は中学の時に交通事故で亡くなっている。今は叔母に引き取られ一緒に暮らしているという。
その叔母は仕事に出ており、今はいないということだった。
「どうぞ。」
「う、うん」
瑞穂は郵便ポストを確認してから、玄関の扉を開けた。
瑞穂の部屋に案内され入ると、とたんにふわっと仄かにバラの香りが鼻を掠める。
決して高級感がある感じではないが、それでも清潔感と上品さが感じとれた。瑞穂の聡明さも納得できる。
なのに、なんだろう。
今は真夏で暑ささえ感じる気候なのにも関わらず、背中がぞくっと寒くなるような感覚が舞を襲った。
一言で言えば、あたたかさというものが感じられない空気感だった。
舞はその違和感を吹き払うように、頭を軽く振る。
瑞穂は舞をリビングへと誘導し、ソファに座るように伝えるとそのままキッチンへと向かった。
舞はちらりと周りを見渡す。
テレビ、テーブル、ソファ、オーディオと一通りの物はあるようだが、一般的な家庭よりも物は少ないように思う。
それに生活感があまり感じられず、どこかもの寂しい印象を受けた。
周りを見渡しているうちに、瑞穂は2つ分のコップをトレイに乗せてキッチンから出てきた。
舞の目の前のテーブルにコップを置き、自分も舞の向かいに腰を下ろす。
「麦茶しかなかったけど、大丈夫だったかな?」
「あ、う、うん!全然大丈夫。」
「それなら良かった。」
瑞穂は気持ちを落ち着けるようにゆっくりとコップに手を伸ばし一口だけ麦茶を飲むとそのまコップをテーブルに戻し、きゅっと唇を引き締めた。
「ごめんね、急に家に誘ったりして。人に聞かれたくなかったし、それに舞にしかこんなこと話せないと思ったから…」
彼女はぎゅっと拳を握りしめて上目遣いに舞を見つめてきた。
その瞳は潤んでいて、赤みを帯びている。潤いのある淡いピンクの唇が、微かに震えていた。
「私ね、最近ストーカーされてるの…」
「え?」
「もう半年くらいになるかな。しかもその人は同じ学年の人よ。前に一回告白してきて断ったことがあるんだけど、それからなの。学校でもずっと私のこと見てるし、付きまとってきてね。家も知られちゃってて、私が一人で帰ってる時なんかいつも家の前で待ち伏せされて声かけてくるのよ。」
「な、なにそれ。瑞穂、それ誰かに相談したりもしてないの?叔母さんとかには…」
瑞穂は舞の言葉を遮るようにかぶりを振った。
「相談できないわよ。叔母とはそんなに仲も良くないし。このことは舞にしか話してないの」
「でも……」
「最初はそこまで気にしてなかったの。今までだってストーカーに近いことされたことはあるし、しばらくしたらどうせ諦めるだろうなって思ってて…」
そりゃ瑞穂ならそういう男は沢山いるだろうな、と出かかった言葉を直前で飲み込んだ。
「でも違ったの。全然諦めてくれないし、この前なんて家の前でいきなり肩を掴まれて、必死に抵抗したら口を塞がれて髪の毛を引っ張られて…だんだん行動がエスカレートしていくのよ。さすがに怖くて…でも誰にも相談もできなくて…」
「誰、なの?そんなことする人」
「……」
「……瑞穂」
「……隣のクラスの、新谷友樹(あらやともき)、っていう人…」
その名前を聞いて、舞は口を半開きにした。
学年では結構名が通っている人物で、爽やかなイケメンだ。性格も良いと評判で、人気も高いはずだった。
成績もよく礼儀正しいから、新谷を贔屓にする教師だって少なくないだろう。
まさか、そんな人がストーカーなんて…
「信じられない、わよね。あの人見た目は爽やかでかっこいいし、女子からは人気もあるもの…誰もこんなこと、言ったって信じてくれないわ。あの人がそんなことするわけないって…言われるだけなのよ。」
瑞穂は俯き、何度も声を詰まらせながら、懸命に言葉を発していく。
いつも堂々としていてどんなことにも凛として立ち向かう瑞穂の初めて見る弱々しい姿に、舞は思わずその華奢な体を抱きしめていた。
「瑞穂、話してくれてありがとう。誰にも話せなくて辛かったよね…でも、もう大丈夫だよ。私が、瑞穂を守るから。」
舞は彼女の震える体を抱きしめ背中を擦りながら、思った。
瑞穂を傷つける奴は誰であろうと許さない。瑞穂は絶対に私が守るのだ、と。
親には、友達の家に遊びに行くから遅くなる、とメールを入れておいた。
帰宅後に色々と母親に口うるさく言われるだろうと想像して気が重くなったが、それ以上に瑞穂の家に行ける喜びのほうが遥かに大きかった。
瑞穂が住む家は、どんな家なのだろうか。
やっぱりお嬢様という感じのお洒落な家なんだろうか。
それとも、意外と平凡な感じかな。
そんなことを考えて、思わず胸が高鳴る。無意識に頬が緩んでしまっていた。
それと、先程瑞穂から言われた‘相談に乗ってほしい’ということが気にかかってもいた。
瑞穂に頼られて、嫌な気分になる人なんていないだろう。
二人は古さが残る住宅地の中に入っていく。
瑞穂の家はその中の一つだった。
彼女のお嬢様なイメージからはほど遠い、とまではいかないが、どこにでもあるような木造建ての平凡な一軒家だった。
聞くところによると、瑞穂の両親は中学の時に交通事故で亡くなっている。今は叔母に引き取られ一緒に暮らしているという。
その叔母は仕事に出ており、今はいないということだった。
「どうぞ。」
「う、うん」
瑞穂は郵便ポストを確認してから、玄関の扉を開けた。
瑞穂の部屋に案内され入ると、とたんにふわっと仄かにバラの香りが鼻を掠める。
決して高級感がある感じではないが、それでも清潔感と上品さが感じとれた。瑞穂の聡明さも納得できる。
なのに、なんだろう。
今は真夏で暑ささえ感じる気候なのにも関わらず、背中がぞくっと寒くなるような感覚が舞を襲った。
一言で言えば、あたたかさというものが感じられない空気感だった。
舞はその違和感を吹き払うように、頭を軽く振る。
瑞穂は舞をリビングへと誘導し、ソファに座るように伝えるとそのままキッチンへと向かった。
舞はちらりと周りを見渡す。
テレビ、テーブル、ソファ、オーディオと一通りの物はあるようだが、一般的な家庭よりも物は少ないように思う。
それに生活感があまり感じられず、どこかもの寂しい印象を受けた。
周りを見渡しているうちに、瑞穂は2つ分のコップをトレイに乗せてキッチンから出てきた。
舞の目の前のテーブルにコップを置き、自分も舞の向かいに腰を下ろす。
「麦茶しかなかったけど、大丈夫だったかな?」
「あ、う、うん!全然大丈夫。」
「それなら良かった。」
瑞穂は気持ちを落ち着けるようにゆっくりとコップに手を伸ばし一口だけ麦茶を飲むとそのまコップをテーブルに戻し、きゅっと唇を引き締めた。
「ごめんね、急に家に誘ったりして。人に聞かれたくなかったし、それに舞にしかこんなこと話せないと思ったから…」
彼女はぎゅっと拳を握りしめて上目遣いに舞を見つめてきた。
その瞳は潤んでいて、赤みを帯びている。潤いのある淡いピンクの唇が、微かに震えていた。
「私ね、最近ストーカーされてるの…」
「え?」
「もう半年くらいになるかな。しかもその人は同じ学年の人よ。前に一回告白してきて断ったことがあるんだけど、それからなの。学校でもずっと私のこと見てるし、付きまとってきてね。家も知られちゃってて、私が一人で帰ってる時なんかいつも家の前で待ち伏せされて声かけてくるのよ。」
「な、なにそれ。瑞穂、それ誰かに相談したりもしてないの?叔母さんとかには…」
瑞穂は舞の言葉を遮るようにかぶりを振った。
「相談できないわよ。叔母とはそんなに仲も良くないし。このことは舞にしか話してないの」
「でも……」
「最初はそこまで気にしてなかったの。今までだってストーカーに近いことされたことはあるし、しばらくしたらどうせ諦めるだろうなって思ってて…」
そりゃ瑞穂ならそういう男は沢山いるだろうな、と出かかった言葉を直前で飲み込んだ。
「でも違ったの。全然諦めてくれないし、この前なんて家の前でいきなり肩を掴まれて、必死に抵抗したら口を塞がれて髪の毛を引っ張られて…だんだん行動がエスカレートしていくのよ。さすがに怖くて…でも誰にも相談もできなくて…」
「誰、なの?そんなことする人」
「……」
「……瑞穂」
「……隣のクラスの、新谷友樹(あらやともき)、っていう人…」
その名前を聞いて、舞は口を半開きにした。
学年では結構名が通っている人物で、爽やかなイケメンだ。性格も良いと評判で、人気も高いはずだった。
成績もよく礼儀正しいから、新谷を贔屓にする教師だって少なくないだろう。
まさか、そんな人がストーカーなんて…
「信じられない、わよね。あの人見た目は爽やかでかっこいいし、女子からは人気もあるもの…誰もこんなこと、言ったって信じてくれないわ。あの人がそんなことするわけないって…言われるだけなのよ。」
瑞穂は俯き、何度も声を詰まらせながら、懸命に言葉を発していく。
いつも堂々としていてどんなことにも凛として立ち向かう瑞穂の初めて見る弱々しい姿に、舞は思わずその華奢な体を抱きしめていた。
「瑞穂、話してくれてありがとう。誰にも話せなくて辛かったよね…でも、もう大丈夫だよ。私が、瑞穂を守るから。」
舞は彼女の震える体を抱きしめ背中を擦りながら、思った。
瑞穂を傷つける奴は誰であろうと許さない。瑞穂は絶対に私が守るのだ、と。
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