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第一章
第11話
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週末、美桜は星夜に連れられて繁華街まで足を伸ばしていた。
女性の目線があった方がいいだろうとの星夜の意見で、紬も一緒だ。
「絶対に美桜様に似合うものを見つけますわ!」と紬は鼻息荒く意気込んでいた。
街中は、沢山のあやかしで賑わっていた。
一見、人間とさほど外見は変わらないように見える。
だけどたくさんいるあやかしの中、時折人間を見かけることもあった。
よく見比べてみると、人間とあやかしではやはり雰囲気が違うということが分かる。
あやかしと人間は色々言い伝えはあるけれど、うまく共存できているのね。
ぼんやりとそんなことを思っていると、星夜がぽんと美桜の肩を叩いた。
「じゃあ、まずは美桜の服から見ようか。」
そう言って一つのお店を指差す。
店構えからして、とても高級そうな着物店だった。
値札を見ると、0の数に思わずくらりと眩暈がする。
美桜は慌てて胸の前で両手を振った。
「そ、そんな高級な着物ではなくて大丈夫!もっと安いもので…それに着物なんて着たこともないし。」
「え?そこまで高くはないと思うけどなぁ…」
星夜はショーウィンドウの中の着物の値札を見て、首をことりと傾げる。
「こ、これで高くない、の…?」
「美桜様、これでお高いなどと言ってましたらなにも買えませんわよ。むしろ星夜様の花嫁様なのですから、もっとお高くてもいいくらいです。それに、星夜様はお金が有り余ってらっしゃるから気にしなくていいのですわ。」
「は、はぁ……」
紬にまでそう言われてしまい、美桜は呆けた声しか出せなくなってしまった。
星夜はまだ納得がいっていない様子の美桜の手を引いて、店の中に入っていく。
「いらっしゃいませ!…まぁ、星夜様!今日はどうされたのですか。」
着物屋の女性は星夜を見ると深々と頭を下げる。
「この子に似合う着物を探していてな。俺の花嫁の美桜だ。」
星夜は美桜を自分の前に出して、店の女性に紹介する。
店員は、まぁ!と目を輝かせながら美桜を見つめた。
「それはそれは、おめでとうございます!可愛らしいお嬢様ですね。」
「今はまだ婚約者だがな。…今日は、この子に似合う着物を何着か見繕ってくれ。」
「お任せくださいませ。星夜様の花嫁様のお着物ですもの、お似合いのお着物をお選びいたします。」
「頼むよ。」
星夜がにっこりと笑顔で微笑むと、女性はわかりやすく顔を染めて奥へ入っていく。
星夜の美しさには、どんな女性でも見惚れてしまうのだろう。
しばらくして戻ってきた店員の手には何着か着物が乗せられていた。
一回では持ちきれなかったのか、いったん着物を置くと店員はもう一度奥に入り、手に何着か着物を乗せて出てくる。
店員は持ってきた着物を次々と美桜に当てていく。
その様子を星夜と紬は満足そうに眺めていた。
「美桜様ならこちらの椿のお着物も素敵ですし、こちらの鶴のお着物の上品でよくお似合いになるかと思います。ああ、こちらの白地に秋桜の柄のお着物も良いですわね。」
「ふむ、どれもよく美桜に似合っている。」
「美桜様!私はこちらのうぐいす色のお着物が素敵だと思いますわ!これは絶対買いましょう!」
美桜が意見を言う暇もなく、店員と紬と星夜の三人が盛り上がっている。
なんだか美桜よりも楽しんではいないだろうか。
あっという間にこれも買う、あれも買う、と話が進んでいき、最終的には10着も購入することになってしまった。
店の外に出て、これで今日は終わりかな…と美桜がふぅと息を吐くと、横からとんでもない声が聞こえてきた。
「さぁ、次は装飾品を見に行こう。」
「えっ、ええっ、まだ買うの?」
「当たり前だ、着物を買ったのだからそれに見合った装飾品が必要だろう。ちょうど向かいにいいお店があるんだ。」
そう言うと、星夜は嬉々として美桜の腕を引っ張っていく。
やはりこちらのお店も良いお値段がする。
やっぱりこれ以上買ってもらうわけにはいかない!と断ろうとしたその時。
(……あ。)
ふと、店に並んだ髪飾りが目に入った。
桜の花があしらわれた髪飾りだった。
(とても綺麗……)
思わず見入っていると、星夜が美桜の顔をひょこっと覗き込んできた。
「これが気に入った?」
「え、ううんっ!ちょっと綺麗だなって見入ってしまっただけで…」
「これ、もらえるか。」
「ええっ!!」
美桜の返事を聞く前に、すでに星夜がお金を支払ってしまった。
戸惑っている美桜の髪に、すっと髪飾りが挿される。
それを見た星夜と紬が、満足そうに顔を見合わせた。
「わぁっ!美桜様、とってもお似合いです!!」
「君の名前と同じ桜だね。よく似合っているよ。」
いつもいつも、名前負けしているなどと言われてきた自分の名前。
大嫌いだった、名前。
それを星夜と紬は似合っていると言ってくれている。
そんなことはこれまでで初めてで、じんわりと瞳にあたたかいものが集まってくる。
「…ありがとう。大切にするね。」
美桜は噛みしめるように髪飾りにそっと手を触れながら、涙ながらにそう言った。
女性の目線があった方がいいだろうとの星夜の意見で、紬も一緒だ。
「絶対に美桜様に似合うものを見つけますわ!」と紬は鼻息荒く意気込んでいた。
街中は、沢山のあやかしで賑わっていた。
一見、人間とさほど外見は変わらないように見える。
だけどたくさんいるあやかしの中、時折人間を見かけることもあった。
よく見比べてみると、人間とあやかしではやはり雰囲気が違うということが分かる。
あやかしと人間は色々言い伝えはあるけれど、うまく共存できているのね。
ぼんやりとそんなことを思っていると、星夜がぽんと美桜の肩を叩いた。
「じゃあ、まずは美桜の服から見ようか。」
そう言って一つのお店を指差す。
店構えからして、とても高級そうな着物店だった。
値札を見ると、0の数に思わずくらりと眩暈がする。
美桜は慌てて胸の前で両手を振った。
「そ、そんな高級な着物ではなくて大丈夫!もっと安いもので…それに着物なんて着たこともないし。」
「え?そこまで高くはないと思うけどなぁ…」
星夜はショーウィンドウの中の着物の値札を見て、首をことりと傾げる。
「こ、これで高くない、の…?」
「美桜様、これでお高いなどと言ってましたらなにも買えませんわよ。むしろ星夜様の花嫁様なのですから、もっとお高くてもいいくらいです。それに、星夜様はお金が有り余ってらっしゃるから気にしなくていいのですわ。」
「は、はぁ……」
紬にまでそう言われてしまい、美桜は呆けた声しか出せなくなってしまった。
星夜はまだ納得がいっていない様子の美桜の手を引いて、店の中に入っていく。
「いらっしゃいませ!…まぁ、星夜様!今日はどうされたのですか。」
着物屋の女性は星夜を見ると深々と頭を下げる。
「この子に似合う着物を探していてな。俺の花嫁の美桜だ。」
星夜は美桜を自分の前に出して、店の女性に紹介する。
店員は、まぁ!と目を輝かせながら美桜を見つめた。
「それはそれは、おめでとうございます!可愛らしいお嬢様ですね。」
「今はまだ婚約者だがな。…今日は、この子に似合う着物を何着か見繕ってくれ。」
「お任せくださいませ。星夜様の花嫁様のお着物ですもの、お似合いのお着物をお選びいたします。」
「頼むよ。」
星夜がにっこりと笑顔で微笑むと、女性はわかりやすく顔を染めて奥へ入っていく。
星夜の美しさには、どんな女性でも見惚れてしまうのだろう。
しばらくして戻ってきた店員の手には何着か着物が乗せられていた。
一回では持ちきれなかったのか、いったん着物を置くと店員はもう一度奥に入り、手に何着か着物を乗せて出てくる。
店員は持ってきた着物を次々と美桜に当てていく。
その様子を星夜と紬は満足そうに眺めていた。
「美桜様ならこちらの椿のお着物も素敵ですし、こちらの鶴のお着物の上品でよくお似合いになるかと思います。ああ、こちらの白地に秋桜の柄のお着物も良いですわね。」
「ふむ、どれもよく美桜に似合っている。」
「美桜様!私はこちらのうぐいす色のお着物が素敵だと思いますわ!これは絶対買いましょう!」
美桜が意見を言う暇もなく、店員と紬と星夜の三人が盛り上がっている。
なんだか美桜よりも楽しんではいないだろうか。
あっという間にこれも買う、あれも買う、と話が進んでいき、最終的には10着も購入することになってしまった。
店の外に出て、これで今日は終わりかな…と美桜がふぅと息を吐くと、横からとんでもない声が聞こえてきた。
「さぁ、次は装飾品を見に行こう。」
「えっ、ええっ、まだ買うの?」
「当たり前だ、着物を買ったのだからそれに見合った装飾品が必要だろう。ちょうど向かいにいいお店があるんだ。」
そう言うと、星夜は嬉々として美桜の腕を引っ張っていく。
やはりこちらのお店も良いお値段がする。
やっぱりこれ以上買ってもらうわけにはいかない!と断ろうとしたその時。
(……あ。)
ふと、店に並んだ髪飾りが目に入った。
桜の花があしらわれた髪飾りだった。
(とても綺麗……)
思わず見入っていると、星夜が美桜の顔をひょこっと覗き込んできた。
「これが気に入った?」
「え、ううんっ!ちょっと綺麗だなって見入ってしまっただけで…」
「これ、もらえるか。」
「ええっ!!」
美桜の返事を聞く前に、すでに星夜がお金を支払ってしまった。
戸惑っている美桜の髪に、すっと髪飾りが挿される。
それを見た星夜と紬が、満足そうに顔を見合わせた。
「わぁっ!美桜様、とってもお似合いです!!」
「君の名前と同じ桜だね。よく似合っているよ。」
いつもいつも、名前負けしているなどと言われてきた自分の名前。
大嫌いだった、名前。
それを星夜と紬は似合っていると言ってくれている。
そんなことはこれまでで初めてで、じんわりと瞳にあたたかいものが集まってくる。
「…ありがとう。大切にするね。」
美桜は噛みしめるように髪飾りにそっと手を触れながら、涙ながらにそう言った。
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