3 / 17
第一章
第2話
しおりを挟む
「美桜ちゃーん!」
パタパタと可愛らしい足音を立てながら声をかけてきたのは、美桜のクラスメイトであり友達の白石茉奈(しらいし・まな)。
黒のふんわりとしたボブカットで、小動物のように丸っこくて愛らしい顔をした子だ。
胡桃とは同じ学校に通っているため可愛らしい妹となにかと比べられることが多い中、美桜を美桜として見てくれる数少ない友人。
だいたいの子達は、私を見ると何か可哀そうなものでも見るかのような目線を送ってくる。
「二人が姉妹だとは思えない」「どうやったら姉妹であんなに差が出るのかしら」「胡桃ちゃんはあんなに可愛らしいのに。」…そんな声ばかりだ。
胡桃は表向きは太陽のように明るい笑顔を振りまきいい子を演じているので、誰しもが胡桃の偽りの愛らしさに惑わされ、彼女を慕う。
胡桃はどうしたら人に好かれるかを、よく知っているのだ。
誰もその仮面に隠された中身を知る由はない。
今も窓から外を見下ろすと、胡桃はたくさんの同級生に囲まれて偽りの笑顔を振りまいている。
「あっ、見て。あれって胡桃ちゃんの彼氏さん?」
茉奈が指を指したほうを見ると、遠くから胡桃に笑顔で手を振りながら近づいていく男子の姿が見えた。
胡桃も花が咲くような笑顔で、手を振り返している。
美桜とは同じ高校2年の松浦祐樹。(まつうら・ゆうき)。胡桃は1年なので、彼女から見ると一つ先輩になる。
つい最近、祐樹から告白して胡桃がオーケーしたらしい。
祐樹は外見もよく頭も良いので、学年では一番の人気者だ。そんな祐樹と胡桃がくっついたとあれば、美男美女カップルだと周りが騒ぐのも自然な流れだった。
「ねぇ、美桜ちゃん。美桜ちゃんには好きな人いないの?」
窓から美桜に視線を戻して、茉奈は問いかけてくる。
とくん、と胸が一瞬高鳴る。
思い出したのは数年前に出会った、あの人のことだった。
その大切な記憶を思い出すかのように、今も手首についている鈴をそっと片手で撫でる。
「……いるよ。」
「へぇ!!どんな人?」
茉奈は興味津々に体を乗り出して聞いてくる。
「瞳がね、琥珀色でとても綺麗なの。それにすごく穏やかで、優しくて…あたたかい人だよ。」
茉奈はうんうん、と頷きながら話に耳を傾けている。
彼のことを思い出して、心にぽかぽかとあたたかいものが込み上げてくる。
しかしふいに昨日の母の言葉を思い出して、それも一瞬にして吹き飛んでしまう。
「でもね、その人とはきっと…結ばれることはないの。」
「えっ?」
美桜は、もう一度窓の外に目を向ける。
そこには幸せそうに笑い合う胡桃と祐樹の姿が目に入った。
美桜は痛みに耐えるように、きゅっと唇を噛みしめる。
胡桃は、好きな人と自由に恋ができるのに。
私は恋さえも、自由にできないのか。
この先の人生すべて、両親に奪われてしまうのだろうか。
もう一度、会いたい。
あの人は今、どこで何をしているんだろう。
私との約束を、覚えてくれているのかな。
どんなに心が傷ついても絶対に壊れることがないのは、あの人との約束があるからだ。
「……信じてる。」
美桜はぽつりと呟くと、胸元で拳をぎゅっと握りしめた。
パタパタと可愛らしい足音を立てながら声をかけてきたのは、美桜のクラスメイトであり友達の白石茉奈(しらいし・まな)。
黒のふんわりとしたボブカットで、小動物のように丸っこくて愛らしい顔をした子だ。
胡桃とは同じ学校に通っているため可愛らしい妹となにかと比べられることが多い中、美桜を美桜として見てくれる数少ない友人。
だいたいの子達は、私を見ると何か可哀そうなものでも見るかのような目線を送ってくる。
「二人が姉妹だとは思えない」「どうやったら姉妹であんなに差が出るのかしら」「胡桃ちゃんはあんなに可愛らしいのに。」…そんな声ばかりだ。
胡桃は表向きは太陽のように明るい笑顔を振りまきいい子を演じているので、誰しもが胡桃の偽りの愛らしさに惑わされ、彼女を慕う。
胡桃はどうしたら人に好かれるかを、よく知っているのだ。
誰もその仮面に隠された中身を知る由はない。
今も窓から外を見下ろすと、胡桃はたくさんの同級生に囲まれて偽りの笑顔を振りまいている。
「あっ、見て。あれって胡桃ちゃんの彼氏さん?」
茉奈が指を指したほうを見ると、遠くから胡桃に笑顔で手を振りながら近づいていく男子の姿が見えた。
胡桃も花が咲くような笑顔で、手を振り返している。
美桜とは同じ高校2年の松浦祐樹。(まつうら・ゆうき)。胡桃は1年なので、彼女から見ると一つ先輩になる。
つい最近、祐樹から告白して胡桃がオーケーしたらしい。
祐樹は外見もよく頭も良いので、学年では一番の人気者だ。そんな祐樹と胡桃がくっついたとあれば、美男美女カップルだと周りが騒ぐのも自然な流れだった。
「ねぇ、美桜ちゃん。美桜ちゃんには好きな人いないの?」
窓から美桜に視線を戻して、茉奈は問いかけてくる。
とくん、と胸が一瞬高鳴る。
思い出したのは数年前に出会った、あの人のことだった。
その大切な記憶を思い出すかのように、今も手首についている鈴をそっと片手で撫でる。
「……いるよ。」
「へぇ!!どんな人?」
茉奈は興味津々に体を乗り出して聞いてくる。
「瞳がね、琥珀色でとても綺麗なの。それにすごく穏やかで、優しくて…あたたかい人だよ。」
茉奈はうんうん、と頷きながら話に耳を傾けている。
彼のことを思い出して、心にぽかぽかとあたたかいものが込み上げてくる。
しかしふいに昨日の母の言葉を思い出して、それも一瞬にして吹き飛んでしまう。
「でもね、その人とはきっと…結ばれることはないの。」
「えっ?」
美桜は、もう一度窓の外に目を向ける。
そこには幸せそうに笑い合う胡桃と祐樹の姿が目に入った。
美桜は痛みに耐えるように、きゅっと唇を噛みしめる。
胡桃は、好きな人と自由に恋ができるのに。
私は恋さえも、自由にできないのか。
この先の人生すべて、両親に奪われてしまうのだろうか。
もう一度、会いたい。
あの人は今、どこで何をしているんだろう。
私との約束を、覚えてくれているのかな。
どんなに心が傷ついても絶対に壊れることがないのは、あの人との約束があるからだ。
「……信じてる。」
美桜はぽつりと呟くと、胸元で拳をぎゅっと握りしめた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる