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しおりを挟む夢の中でローレンさんに会ってから一週間後、珍しく父様から執務室へ呼び出しがあった。
何だか少し寒くなってきた今日この頃。てちてちと歩くアクリスのお尻を見ながら、ぼんやりとローレンさんに会った時を思い出している。
あの時僕、感情が抑えられていた気がする。いつも……今までだったらどっかーんと何かやらかしてたはずだ。あの光景を見て、僕何したっけ? 特に何もしなかった気がする? あぁ、でも僕、嘆いている。と、言った気がするなぁ。神の嘆きと言えば、
「御館様がお待ちです」
「うぉ!」
視界にスっと入ってきた執事に驚き、野太い声が出た。
<何ボケボケしておるのだ>
「まだボケてない! 失礼な!」
<そう言う時は 呆けてって言うのですよ>
<ボケボケだろう>
イピリアの訂正も、うん……良い方だと思う。アクリスには伝わらなかったみたいだけど。
喧しい聖獣二匹は放置して部屋の中に入ると、父様はあの人のような姿でいた。アレだよね、両腕を机に付けて、口元辺りで手を組むアレ。白い手袋してるし。アレだよ、何とかポーズ。某アニメで人気になってたやつ。眼鏡があればなー。完璧なんだけど。
「父様惜しい! 次回、眼鏡で挑戦を期待してます! では」
「待て待て待てーい! 何故何も話をしてないのに出ていこうとするのかな? そして眼鏡がどうしたのだ……」
「っ、」
執事さんの肩がめっちゃ震えてる?!
えー? 何とかポーズ選手権じゃなかったのかー。
「何故きょとんとした顔をしているのだ、リーンよ……」
「?」
ふぅっと深い溜息をついた父様は、執務室のソファーに座るよう促された。
父様は封筒を持って僕の前に座ると、嫌な顔をしながらこう言った。
「テステニア王国から、留学の話が来ている」
「え」
テーブルの上にポイッとされた封筒をじっと見る。あー、この紋様はテステニア王国だね? 封を開けずにゴミ箱へ捨てようとして執事に止められた。だが、執事の肩が震えたままなのだが?
「捨てては、いけません……」
「せめて中身を読もうな?」
そーゆー事でもないと思うけどな父様よ。白ヤギか黒ヤギって話もあるけどさ、食べちゃおうかコレ。
「何故、僕に?」
「そう……だよな? そうだよな?! だが、アリア教皇直筆で、リーンオルゴットと他二名の計三名の留学を求められている」
お前何かしたんだろう? って表情で見てくるの、父様ウケるー。
「?」
「はい、きょとん顔! 今日もうちの子可愛い! ……騙されないからな?」
「騙すも何も、身に覚えがないんですけど」
「え? 本当に?」
「強いて言えば、この髪色のせい?」
「! っはぁ……なるほどな」
決してお告げの効果がヤバかった訳では無いだろう。だって鬼のお面付けてたもの。僕だとは分からなかったはずだ。ただ、髪の毛は隠せないから、魔力解放してたからほぼ白だっただろうし。バレるとしたら髪色からだろうな。バレているのならばね。
「まぁ、以前から話は上がっていたと、父上からは聞いていた。アリア教皇がリーンが遊びに来ないから、招待状を出そうとしている的な話だったのだが……留学とはな、思わなんだ」
こくこくと頷く僕。
「しかも、交換留学と聞いている。あちらからも三名こちらの学園へ留学させたいとな」
交換留学制度とか、あったの? こんな世界に? むむむ……
「悩むだろうけど、何故かリーンは名指しなのだ」
交換留学制度のシステムに思いを馳せていたが、父様は留学を悩んでいると勘違いなされた。が、敢えてそのままにしとこう。
「胡散臭いなぁー。こっちに来る生徒、まともなのかなぁ」
竜族は大聖堂から出られないから竜族ではない。と、なると? 教会関係者なのは確かだろう。
「まぁ、あちらから来る生徒は、こちらへ来てもどうしようもないと思うがな。こちらは教会と学園は別だ。しかも扱う学問も違う。勝手が違うのだから、慣れるのも時間はかかるだろう」
そうなると、どーしても僕に来て欲しいって理由だけが残るんだけども。。。
竜族絡みなのは間違いないなー。でもなぁ、めんどくさっ。面倒な予感しかない。
「期間は一年間だけだ。そう長くはないが、短くもない。父様から一年間もリーンを奪うのだ。父上には良くよく文句を言ってもらわねばな」
ギリギリと歯軋りをしている父様。歯茎から血が出ちゃうよ? 歯が割れないのも凄いです、父様。
【テステニア王国 ふーん テステニア王国ですか】
イピリアさん? 自分の肩から負のオーラを感じる。
【主 やっちゃお?】
カ ル キ ノ ス ?
何をやっちゃうの! 怖いこと言わないの。めっ! ですよ。
くふくふなんて笑い声、聞こえない聞こえない。
「名指しですし、行きましょう。でも、学べる事、あるのかなぁ?」
ニヤリと口元が歪む。
白と青を神聖視している国で、白髪に青い目の僕。相性は良いよ? 僕の方だけだけどね。
「……何やら良からぬ事を? 父様は、リーンには心優しい子でいて欲しいのだが?」
「僕は変わりません。背だってちょっとしか変わってないですし」
「リーンも大きくなったぞ? のんびり屋なリーンにピッタリな成長期さんだから、問題ない」
成長期さんの愚痴がほぼ毎日出ていたせいか、父様から成長期さんって言葉が出るようになってしまったか。
成長期さん(失笑)って感じだったけど。
「僕の他二名って誰ですかね? もう判明してますか?」
「一人は父上が決めていた。ほら、リーンのお友達のヴィヴィアンって子だ」
「え。お爺様がヴィーを?」
「あの子は父上の魔法師団へ配属されているからな」
「あ、そうだったー」
ヴィーが一緒なら、殆どの事に心配はない。マナがいるからね。
「あと一名はまだ決まっていないと聞いている」
「そっかー。ヴィーがいるなら他誰でも大丈夫そうです」
「な?! そうか……そこまで仲が良かったのか。父様の評価も修正して置こう」
何それ? 父様ランキングとかありそう。え、何をメモったの今……
仲良しなのは本当だから良いけども。
あと一人かぁ、誰かなぁ。
「因みに、留学の話は明日の朝には全校生徒へ伝えられる」
「え! はや!」
「留学へ行くのは大体二週間後だな。これもかなり早い方だ。普通は一ヶ月は時間があるものだ」
竜族めっ。そんなに僕に会いたいのかい?
破滅したいのか生き延びたいのか、分からなくなっちゃうなー。
でも、テステニア王国へ行ったら絶対接触して来るだろうから、見極めるのには丁度いいかな。
アリア教皇の名で届いたこの封筒も、しっかりと持って行こう。
後、クレイモル王国のゼノン様と、サルエロ王国のユズノハ様にもお手紙出しておこうね。
ふふふ。やることいっぱいだぁ。
「忙しくなりそうなので、今から準備に取り掛かりますね、父様」
「そ、そうか……行く気満々で父様寂しい……」
「テステニア王国から、父様にお手紙出しますね? 楽しみにして貰えると、嬉しいなぁ」
「!」
しゅんとしていた父様だけども、手紙手紙~とご機嫌が回復したようで。良かったで、ございます。
ルンルンで僕も準備しようっと。一年間、笑って過ごすか、泣いて過ごすか……ふふふっ
【なんだ?! 敵襲か!】
ぶわりと太くなったアクリスの尻尾。
僕の悪意には敏感で、困っちゃうなぁ。
「ふふふっ」
<なんだ…… 主か 驚かさんで欲しい>
<くふくふ>
<いや カルキノスだったか>
あー。可愛いなぁ。聖獣達も、勿論連れて行くよ。
<それはそれは 大変楽しみですね>
「ねー?」
何があるかなー? 楽しい事いっぱいだと良いなぁ。アリア教皇にも会えるのかもしれない。
美味しいものあると良いなぁ。
鉢植えさんの成長も促そう。一年間で何が出来るようになるか、今から楽しみで仕方ない。
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