神に愛された子

鈴木 カタル

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イピリアに鉢植えさんをお願いしてから三日後、暑かったり寒かったりしていた気候は緩やかになった。
安定とまでは言い難いが、長袖で一日を過ごせるくらいには落ち着いたなぁ。
これからゆっくりと気温は下がっていくはずだ。

休みがちな僕の学園生活も残り一年と半分くらい。 まだまだある様で、きっとすぐに終わってしまう。
日々は変わらず、僕の成長だけ止まった感じで、皆はすくすく成長している……
僕って皆より一つ年下なだけなのに、何故背は伸びないのか!

ちょびっとずつしか成長しない自分にモヤモヤする。手の袖や足の裾が短く感じて、あぁ成長していたんだなって。成長痛とか来てぐんぐん背が高くなる! とかない。じわりじわりと成長するので、イーサンやノア達より小さいままだ。
ヴィーよりも小さい僕。なんならナタリーより小さい僕。下の学年の子より小さいよ僕……

日々、自分の小ささにモヤモヤしながら過ごす学園生活。たまに冒険者ギルドへ遊びに……じゃなくて、家に溜まってしまったポーションを届けに行ったりしているけれど。何故かジーンはいない。依頼に行っているとダグラスさんは教えてくれたけど、ほぼ会えない。

ジーンは僕が渡した剣(と言う名の刀)を大切にしてくれているようで、冒険者のランクは今やAに近いBって聞いた。しかも、背は僕の倍以上だとダグラスさんは言っていたのだよ。……ふっ。僕のミニマムさが浮き彫りになる表現に苦笑いしたのを覚えてる。許さいぞ! ダグラスさんめっ!

「また、リーンの眉間に皺が」

「どーせ、背が高くならないって悩んでるんでしょ」

「リーンも成長している。大丈夫」

「すっごい棒読みよね、ノエル」

「ヴィーは鋭い」

声のする方へ視線を向けると、ノエルとヴィーがイチャイチャしている。その傍らでナタリーはあわあわしてるけども。
放課後の皆でおしゃべり時間。僕は心がくさくさしていた。

「はいはいー。そんな睨んでもすぐ大きくはならないわよー」

「睨んでない」

「その目で睨んでないって、ぷぷぷ」

「……睨んでない」

ヴィーの目が三日月みたいに。もうその顔を何度も見ている。

【主が笑われておる】

【主は僕と同じで可愛い】

アクリスの笑いが滲んだ念話と、カルキノスの意味の分からないドヤ顔での念話。
それをスルーする僕。

「あーあ、本当に、もっと大きくなりたいのになぁ」

僕の成長期さんはまだやってこない訳で、最近の僕の口癖が大きくなりたいになってしまっている。

「大丈夫。リーンは人族」

「そ、それフォローになってないです」

ノエルの口を塞ぐナタリー。
もう僕を妖精族と思い始めているノエルと、にへらっと笑い誤魔化すナタリー。

人族だけども? 僕、人族ですけども?

「ギャハハ! 確かにリーンは成長が遅い」

「む!」

ワイアットが笑いながら僕に絡む。

「でも、ここの誰よりも魔力制御は上手いし。誰も出来ない事を平然とこなす、凄いやつだ! だから、背の高さなんか関係ないと思うぞ」

「ワイアット……」

まさかワイアットに慰められるとは!
僕の心の友はワイアットだったのかも!
期待を込めて見上げると

「無いものねだりをしても仕方ないって! ギャハハ」

「……」

まぁ、そうだよね。皆僕を上げて落とすのが上手いの、知ってたし。知ってたしー!

「オーウェン様も小さい頃に筋肉をつけすぎて、背が伸びるのは遅かったと言っていた。だから、リーンもきっとそれだ?」

はてな顔で僕を見て、更にきょとん顔をするワイアット。

「筋肉無さそうだから違った! ギャハハ、は?」

目に涙溜めて笑うワイアットの両腕を、後ろからイーサンがおさまえる。

「ワイアットはもう少し空気を読もうな」

「え?」

リアムがワイアットの額をピンッと指で弾く。イーサンもパッとワイアットを解放する。

「うっ……」

流れる様に行われるワイアットへの調教……ゴホッゴホッ、お仕置。うんうん。お仕置だった。

「男子たるもの、背の高さは気にするものだ」

リアムのその言葉、その背の高さで言われてもね?

「まぁ、あって良いことは特にない気もするけどね」

イーサンはリアムより大きいよね?
前はリアムの方が背が高かったけど、今はイーサンの方が高い。イーサンの成長期さん頑張りすぎじゃね?

「イーサンもリアムも格好いいからなぁ、参考になりません」

「「格好いい……?」」

二人とも何故そんなに意外な表現しているのさ。

「リアムは貴公子って呼ばれてるの知ってるよ僕。イーサンなんて、微笑みの王子様」

「「ぶふっ」」

ノアとワイアットが吹き出した。

「リアムは誰にでも公平に優しい。下の子達からも慕われているよね。勉強を教えてるってのも聞いたことあるし」

僕は笑った二人をじろりと見ながら言葉を続ける。

「イーサンは物腰柔らかく笑顔も絶やさず、聞かれたことには真摯に受け答えしてるの知ってるよ僕」

イーサンはオーウェン君に剣を作った事から、結構有名になった。鍛冶系の人達からよく声を掛けられているのを見る。

「そんな姿を見た女子からそう呼ばれてるよねー」

二人とも、何故そんな困った顔をしながら聞いているのだろうか。モテ過ぎて困ってるって感じかい?

「……僕、弟枠」

「「ぐっ」」

ノアとワイアットは何故笑いを堪えてるのかなー?

そうなのだ。僕と聖獣達のイチャイチャを見て来た女子から、僕を弟に欲しいとよく言われる。影で言われるのでなく、面と向かって言われるのだ。

「男としても見られず、弟として見られる僕」

「ぶはっ!」

「ワイアット、アウトー」

吹き出し笑い始めたワイアットを、流れ作業の様にデコピンのお仕置をする友よ……

「実際に姉様と兄様がいるから、弟なのは確かだけどもさっ」

弟って男として見られないって言われてる様で、僕としては褒め言葉にはならない訳。
この微妙な弟って言葉、無くならないかな。

皆困っている感じがするから、もう拗ねるのは辞めなきゃ。でも、僕だって男なんだよ……

「弟枠って言うか、可愛い枠なのは確かなのよね~」

僕を見ながらヴィーはそう言うけどさ

「男として可愛いは褒められてない」

ヴィーも困った顔をしてるけど、可愛いは僕としては欲しい言葉じゃないんだ。
男として、格好良くなりたいの。

「まぁ、そう思うよわよね。マナは可愛いって言われるの好きだけどなぁ」

ヴィーの方にちょこんと座っているマナは、確かに可愛いは嬉しいぞー! と言ってる。

「そうは言ってもね、リーン……」

「ノ、ノア?」

僕の両肩にポンッと両手を置くノアは、真剣な顔をして言葉を続ける。

「可愛いとも格好いいとも言われない枠があるんだよぉ?」

何だろう、ノアの雰囲気が怖いんだけど!

「リーンは召喚獣との相乗効果で可愛いって感じがしてしまうけどね。イーサンみたいな顔も性格も出来た人が傍にいて、空気みたいに気が付かれない僕って何だろうねぇ?」

「……空気は大切だとおも」
「そうじゃ、ない」
「はいいい」

空気は大切だと思います! って言わせて貰えず、僕はノアの笑顔に圧された。

「ノアも可愛い枠だと思ってた……」

「僕~? 僕は空気枠だよぉ~?」

「空気枠なんてあったのか……」

イーサンンンンン! その呟きは駄目だよ、ノアの剣呑な雰囲気に圧されてツッコミも出来ないけど!

「きっと俺はやんちゃ枠?」
「そんな枠ない」

ワイアットの呟きは速攻でノエルに消された。

「可愛いって言われるのは良いと思うよ~?」

「そっ、そうだね、良いのかも?」

「うんうん~」

ノアから解放された僕は、くさくさした心はしまい帰る事にした。



家に着いて自室に入ると、イピリアが戻っていた。

「お帰り、イピリア」

<ただいまです 主様>

イピリアを撫でながら、鉢植えさんの話を聞く。
鉢植えさんは、元イピリアが寝床にしていた場所に植えてきて貰ったのだ。

<定着するのはもう少し時間が必要ですが 私がいた場所は聖なる気もありますので 馴染めば成長も早まるでしょう>

「うんうん」

<今度はどのような妖精族であっても 結界の解除は無理な様にしました 主様か私しか入れません ふふふ>

「そっか、お疲れ様。ありがとうね」

イピリアを手で包み、親指ですりすりと頬を撫でる。ご機嫌が良くなり、手に体をくたりと預けてくる。
ふわふわな頬を堪能しながら、鉢植えさんへ意識を飛ばす。

僕の視界にキラキラと輝く大地が見え、思わずニヤリと口元が緩む。
そのまま視界を移動させると、家にいた時よりも少し成長した鉢植えさんが見えた。

どうなるかと思ったけど、やはり僕の魔力は規格外なようで。僕と繋がりのある鉢植えさんは、離れていても問題なく繋がっていられる様だ。
僕の魔力水で育った鉢植えさんが、普通の植物なままで居られるはずがない。やはり、この世界の心臓になり得るくらいに力を持っている。

少し意識して鉢植えさんへ魔力を流す。この世界に馴染む様祈りながら。

【おはよう 世界】

念話で起きた事を伝えてくる。
鉢植えさんは僕の魔力を吸収して、葉が陽の光を受けたかのように煌めく。 

そのまましっかりと大地に根を生やし、葉は天に届くくらい大きくなってね。

【たくさん寝るから 大丈夫】

そう念話がきて、鉢植えさんはまた眠りにつく。
意識を戻すと、しっかりとイピリアと目が合う。

<問題ないようですね>

「ふふ。そうだね~」

鉢植えさんの成長が、とても喜ばしく。僕はニコリと微笑んだ。
そろそろ本格的に……この世界、貰っちゃお!

壊れてしまっては困るんだよ。この世界には、大切な人が沢山いるのだから。

<主こわーい>

そう言いながらも、カルキノスはキャッキャウフフと腹黒い笑みでいる。

<我の主なのだから そのくらいでなくてはな>

「何言ってるのか、わかんなーい! ふふふっ」

皆誤解してない? 僕は、この世界の守護者だよ。守護者と言う名の管理人みたいなものさ。
まだ未来ある者達が壊れないように、大切に育てないとね。

僕の魔力はこの世界にとても良く馴染む。神が使った魔法が使えるのも納得出来るよ。

僕の生まれは、魔法神の血筋なのだから。
あの称号、今ならばとてもよく意味が分かる。

「さて、これからどうなるかな~?」

テステニア王国にいるローレンさんを思い出し、今夜辺りにでも様子見に行ってみようかな。夢の中でだけど。
意識してやった事はないけれど、出来ないって気がしない。こと、魔法関連は特に。

最近本当に調子が良くて。僕の魔力はこの体の隅々まで行き渡っている。魔法を使ってみても、のだ。
今なら世界を思うままに出来そうなくらい。なんちゃって――

<世界は主次第 僕ずっとそう言ってるよ~>

「そうだね、今なら良く分かるよ。カルキノスのその言葉」

<くふふ 主こわーい くふくふ>

成長期さんはまだ来ないけど。多分、来るのもそう遠くはあるまい。

<とりあえず ご飯食べたい>

「あ、はい」

カルキノスのご飯コールで、僕はイピリアを肩に乗せ、カルキノスを抱っこしてご飯を食べに部屋を出る事にした。

<主は 一日で身長が十センチ以上とか伸びるとでも思っておるのか? そんな奴おったら  それはもう人ではないと思うのだが>

部屋を出てしまった僕は、アクリスの至極真っ当な言葉を聴き逃していた。





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