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しおりを挟む「意気込みはええんじゃが、どこにおるのか知っているんかのぅ?」
いそいそと聖獣達を抱きかかえていた僕は、お爺様の質問にピタリと動きを止めた。
「あ! 知らない!」
「じゃろうてな……」
お爺様の呆れた眼差しが心に刺さる。
えへへと笑えば、その眼差しも消えたけど。
「この子達を案内してこい」
「かしこまりました」
扉の前にいた侍従に指示を出すお爺様。
普段はもう少し、優しい口調だと思うんだけど。ロダンさんじゃないからかなぁ?
そう言えば、ローレンさんの付き人はいないのだろうか。
聞いてもいいのか分からず、聞けずにそのまま侍従の進む方へ歩く僕。
「そう言えば、ローレンさんに聞きたい事があったんだ」
「何でしょうか?」
「ローレンさんに嘘は通じないんだと思うんだけど。実際にどう分かるのかなーって」
「嘘が分かると言いますか……あの、青い色の吹き出しが出るのです」
本人も理解出来ていないのか、首を捻る動作を数回繰り返す。
「四角い、青色で、板状のような……こう、頭の上に……」
ちょっと理解出来なくて詳しく聞いてみたら、ゲームで良くあるフレイバーテキストっぽい感じだ。
四角い板状の吹き出しが頭の上に見えて、そこに真実が書かれているらしい。
それが出てくるのは嘘を吐いている時で、真実を話している人には出ないと。
「ふむふむ。なるほどね。真実を見抜く力ってそういうことなのか」
「真実を見抜く力! なるほどです。確かに、あれから何度か青い四角い物の中に書かれていることを依頼者に話すと、皆驚いていました。あと、私の心がチリチリとイヤーな感じがします。しかも嘘を吐く者は皆肉体が麻痺状態になって、四角い青色に書かれている内容を話し出します。話し終わると麻痺は消えるようなので、嘘を吐いた罰だと……」
「麻痺ってどのくらいの? 一歩も動けない感じ?」
「そうですね……テステニア王国で嘘を吐いた者は、その場に崩れ落ちて座り込んでいましたね」
「そ、そんなになのか」
こっわ! そこまできちんと体が麻痺するとは思わなかったよ。
巫女としての力が強いのかなー? 稀人の称号が力を強くしているのだろうか。
確か、以前鑑定した時に『聖なる巫女』『稀人』って称号だったんだよね。
僕のよりはハッキリと世界に組み込まれているよね。
「テステニア王国はどうだった?」
「あー……はい。王城の方に行きまして、教皇様にお目にかかりました。ですが、以前に逃した穢れは見当たらず……あ、教会の方は入れなかったです」
「入れない? え、教会だよね」
教会って普通、一般の人がガンガンに出入りするところじゃないか。
入れないってどゆことさ。
「教会の中に入れるのは、修道士や修道女、信徒の人達だけらしいのです。その上に助祭、司祭、大司教や司教、枢機卿もいるようですが、姿を見れるのは稀だそうです」
「え……そんなに厳しいの? 教会って、人々の為に常に空いているような所かと思ったんだけど」
「あ、教皇様と大司教様には王城で会いましたので」
「それも不思議な感じだよね。普通は王城と教会に分かれていないでしょ」
謎過ぎてサッパリ意味が分からない。
あー、カールベニット先生も、宗教国で特殊だとは言っていたけども。
「教会と大教会があるらしいのです。教会は、学園と併設していると言っていました。大教会は常に誰でも入ることは可能らしいのですが、私達は外交で行ったのでどちらの教会にも立ち入りの許可は出ませんでしたから」
ああ、外交ね。王城の方と教会と、使い分けでもしているのかな?
カールベニット先生がいたら、詳しく話を聞けたんだけど。
「今度、テステニア王国へまた行く予定です。巫女として教会の方へ、力の修行でも出来たらいいなと。今は留学の方向で話が進んでいます」
「へー。力の修行ねぇ。大教会と学園か……気になるね~」
主に気になるのは大教会と教会を分ける意味とか。教皇が政務を行っているのかとかだけども。
あのアリア教皇が政務をねぇ? 食いしん坊キャラだったとしか思い出せないんだけどなぁ。
そんな大事なお話をしていたら、侍従の歩みが止まった。
「ここは……」
以前に来たことのある、救護室じゃないか。ジェンティーレ先生のあの時の……
そんなにもう危ない状況なの?
「こちらにいらっしゃいますので、どうぞ」
扉が開かれ中へと促される。
開いた扉からは、嗅ぎ慣れた薬草の匂いが流れてきた。
「失礼します」
「あ……」
ローレンさんは躊躇う事無く中へ進む。僕は以前の記憶もあり、戸惑ってしまう。
奥の部屋じゃ無ければ大丈夫なはずだ……
抱っこしているカルキノスが僕の腕を叩く。肩にはイピリアの重みが。
【早くいかんか!】
「あわわわ」
アクリスに足を蹴られて、僕は一歩中へ入ってしまった。
白い部屋の中、ローレンさんの黒髪が目立つ。
ここはこんなにも広い部屋だったかな。前はジェンティーレ先生の事しか頭になかったから。
ふうっと息を吐いて心を落ち着かせる。
手前の仕切られたベットから、人の気配がした。
「こ、こんにちは……?」
人の気配がする方へ進み、少し震えた声になったが挨拶をする。
噎せ返る薬草の匂いと……血の匂い。
え、血の匂い?
「いたたたた……」
白衣を着たおじさんが、あの三人の膝の怪我の手当をしていた――
「このくらいの怪我で来るんじゃ無い。クソガキ共が」
おじさんに頭を小突かれ、キャンキャン騒ぐ声が響く。
「トーマスが転ぶからですよ!」
「アダムが押すからじゃないか……」
「バームクーヘンが売り切れる所だったのでしょうがないです!」
「ラッセル様が先に転んだのに」
三人の姿を見て、僕は心からホッとしてしまった。
だいぶやつれてはいるが、以前のような尖った雰囲気はない。三人は笑いながらも文句を言っている。
一番不安だった、アダムもちゃんといた。
「ん? 誰――」
それはまるでスローモーションのようだった。
ラッセルの目が、僕を見つける。僕はヘニャリと笑うしか出来なかった。
元気は元気だけど、やはり命が削れて居ることが見て分かったから。
魔力が弱い。とても弱い。
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