117 / 124
連載
216
しおりを挟む授業が一通り終わり、僕はイピリアに乗って王城に来た。
お爺様のいる何時もの部屋の前に来ると、部屋の中からは声の高い女性の声が聞こえる。
楽しそうな笑い声につられて僕の表情も緩んだ。
部屋をノックすると声が止まる。
開いた扉からは、何時もは見かけない人が。
「お入りくださいませ」
「あ、はい」
てっきりロダンさんが開けてくれると思っていたので、変に緊張してしまった。
そっと中へ入ると、黒い髪色が一番最初に目に入る。
次に手招きしているお爺様が見え、ぱあっと笑顔になった。
二人は部屋の中にあるソファーに、向かい合って座っている。
「こんにちは!」
てててーっとソファーまで小走りで向かう。
そっと後ろを向くと、扉を開けてくれた人はそのまま横で待機している。因みに扉はもう閉まっていた。多分、お爺様の侍従なのだろう。
一緒にくっついてきたアクリスは、サッとお爺様の膝の上に飛び乗る。
「お久しぶりですね、ローレンさん」
「ご無沙汰しております、リーンオルゴット様」
金色の瞳を細め、口角が綺麗に上がる。
揺れた黒髪に、見惚れそうになった。
「良く来た、リーンや~」
膝にいるアクリスを撫でながら、笑顔を向けながら話すお爺様。
〈主 おやつ〉
「あ、はい」
抱っこしていたカルキノスに催促され、いそいそとローレンさんの隣に座る。
ソファーにカルキノスを座らせて、インベントリから適当にデザートを出す。
肩にいたイピリアは食べないようで、僕の肩からは降りないようだ。
「ロダンはレーモンドへの指導でいないからの、今代わりの者に飲み物を用意させるでな。暫くはお互いの近況を話したらどうじゃ?」
「そうですね! サルエロ王国の状況とかどうかな?」
お爺様がくれた時間で、僕はローレンさんと色々と話すことに。
直ぐに王城のメイドがティーセットを持ってきたので、喉も潤す事が出来た。
カルキノスはモグモグしているし、アクリスはお爺様の手にじゃれている。
お爺様とローレンさん、僕と聖獣達。賑やかで幸せな時間だ。
サルエロ王国は、あれから直ぐに作物の育ちが良くなったとか。
ユズノハ様が宰相のガノスさんに教わりながら、公務にも積極的になったとか。
そんな二人も時折喧嘩になって、ユズノハ様が愚痴を言いに来るんだとか。
重鎮の入れ替えもアルペスピア王国主導の元行われ、きちんと仕事が出来る人になったとガノスさんがぼやいていたとか。
ローレンさんも感じる程、民は穏やかになってきたとか。
黒髪への忌避感はまだ少し残っているらしいけど。先祖返りでとても縁起が良いことだと、何度もユズノハ様が説き伏せているらしい。あのユズノハ様が。
僕が色々と作ったポテチとかサツマイモの甘味とかは、あの後も作り方はしっかりと引き継がれ、ちょっとだけ甘味ブームが巻き起こったとか。
甘味という言葉。食べ物だと感知したカルキノスに、質問攻撃を受けたローレンさん。
カルキノスの可愛さにメロメロになりながらも答えていた。
僕は友人の成長の話や、友人達の面白話等を熱く語ってしまった。
暫くそんな会話を楽しんでいたら、お爺様からローレンさんがテステニア王国へ行く話に。
〈テステニア王国ですか〉
今まで聞き専でいたイピリアも反応した。
「あの時、穢れが向かった方向がテステニア王国だったのです」
「でもそんなに力が残っているようには感じなかったけどなぁ」
「穢れは人の心の闇に直ぐに入り込みます。一人、また一人と増えて……力を大きくして行くのです」
暗い表情になったローレンさん。一番被害を受けていたのは、多分ローレンさんだろう。
巫女として汚れた魂を浄化して来たのだから。
「なるほど。人は楽な方楽な方へと行きやすいものじゃ。一歩道を踏み外しても、なかなか気がつかずにおる。そして、気がついた時には手遅れ……なんて事もあるからのぅ」
お爺様の言葉で、僕は従兄のラッセルを思い出す。
彼等が進んだ道は間違いだった。本人達も気がついていた筈なのに、あんな所まで落ちてしまった。
「お爺様……」
僕はローレンさんがここにいる意味を今知った。
お爺様の孫は、僕だけでは無いのだから。
少し話し難そうに眉毛を下げるお爺様。そんなお爺様の表情を見たローレンさんも、僕をジッと見る。きっと先に話を聞いていたのだろうなぁ。
優しい人達だと、心が熱くなる。
「当事者の許可を貰えれば、正式にローレン・サルビエラ様へ依頼できるんじゃが?」
「是非、お願いしたいです」
「お願いしているのはワシの方じゃてな……」
「僕は勿論許可をします!」
お爺様も沢山悩んだのだろう。僕はそこまで酷い目に遭った気がしていないので、救える命は救って欲しい。
多分、父様にも話を通しているのだろう。ルーナ領の領主だし。実際に大変だったのは父様な気が。
「では、正式に後程依頼しようかのぅ。書類の作成は出来ておるはずじゃて」
お爺様のホッと溜め息が抜ける音が聞こえた。
「……質問、良いですか? あの、リーンオルゴット様にです」
「僕に? どうぞ~」
ローレンさんからの質問って、ちょっとドキッとなる。
「ジールフィア様から先に、どういった事をされた方達なのかを聞きました。罪には罰がある。なのに、何故救おうと思いなのでしょうか?」
「僕の中では、もう罰は受けたと思っているよ。まだ未来がある若者なんだ。それに僕は死んで終わりって嫌なんだよね。死ぬまでの苦しみが長いのも嫌」
フンスフンスと鼻息が荒くなってしまう。僕は、この世界の悪への対処がとても気に入らない。
「……嫌って」
「嫌だよね? 意地悪だと思わない?」
「意地悪……」
ローレンさんには全く響かないようで、困惑した顔だ。
「悪になった魂は死んで消える。でも、死までは罪の重さで変わる。軽い罪の方が長く苦しむのって、おかしくない? 意地悪過ぎるよ! 罪の重い人は魔力がガンガン減って直ぐに消えるんだよ? 嫌だよ。長く苦しんで欲しい。逆だったら、少しは納得出来るのに」
フンスフンスと荒かった鼻息を深呼吸で抑える。
スーハースーハーと落ち着いてから、また話を続けた。
「でね、ローレンさんが浄化が出来ることは、軽い罪の人達への救済だと思っているの。だから、今回依頼するラッセル達を救って欲しい。彼等は罪を犯し、罰を受けた。でも、やり直せる筈なんだ。苦しんで終わりじゃない、そんな世界を僕は望んでいる。だから、僕は救える命は救いたいって思うんだ」
「救える命を救うですか……」
考え込んだローレンさん。
余り響いていない感じだが、救う事が嫌なのかも知れない。
「ローレンさんが彼等を救うのが嫌なら、僕は無理にお願いしたくないよ。それは前提で聞いて欲しい」
「あ、いいえ。浄化は致します。ですが、また……」
「あー! なるほど? 彼等がまた罪を犯したらって事を気になっているんだね!」
「そうです、何度浄化しても……その、大体の方はまた……」
そうだよね。そうやって何度も何度も同じ事の繰り返しをやらされて来たんだもの、ローレンさんは。
「お爺様が依頼するくらいなんだから、ちゃんと確認はしたんだよね?」
僕は最近全然彼等を見かけていないので、今どのような状態なのかは分からない。
でも、ラッセルとか……凄い才能を持っていると思うんだけどなぁ。
まだ今なら間に合うのならば……でも、本人達が今どのような状態なのかは……
「会って確認したらどうじゃ? ローレンにもワシはそう言ったがのぅ」
「え、会えるの?」
「会える」
「マジで?」
「マジじゃ」
お爺様をじーっと見詰める。全然逸らさない。
パッと隣にいるローレンさんを見る。一瞬ビクッとされたが。
「一緒に会いに行こう!」
「は、はいです」
聖獣達の仕方ない子って視線だけが僕に冷たく刺さった。
ローレンさんはちゃんと笑顔で答えてくれたもん。素が出ていたけどね。
60
お気に入りに追加
12,606
あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。