神に愛された子

鈴木 カタル

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家に帰ったら速攻で姉様に捕まった。
リキャムベット服店が忙し過ぎるからだ。正確には、伸縮性のある糸が不足していたから。
せっせと鉱石から糸に変換しては糸を束ねる、この作業をひたすら続ける。

【どうして僕まで】

カルキノス先生、人手が足りないんだよぉ。
まさか、下着だけじゃなくて服にも使い始めたなんてね。

僕が冒険者用に仕立てた服は黒系が多かったはずなのに、一度買った人達は性能の良さに気がついたようで、また同じ物を希望する人が多いらしい。
そしてその良さは口コミでどんどん広がって行き、冒険者じゃない人達へと。
今はドレスにも使われ始めたみたいだ。ロダンさんも着ているしね。
そうなると、糸が不足していって……今僕達は大急ぎで糸の制作に追われているって訳だ。

【僕眠くなっちゃう この作業飽きちゃったよ】

そう言わずに、もうちょっとだけお手伝いしてぇ。

文句は念話使うカルキノス。僕にしか聞こえない技を使う恐ろしい子だ。

この作業、勿論姉様もしている。でも寝不足なのか、一言も発すること無く……一点見つめで作業を繰り返している。ちょっと、怖い。

初めは話しかけていたんだけども、「えぇ」「そう」とか短い返事さえ今は返ってこなくなった。
僕は思ったんだ……早く終わらせ無ければ、姉様がそろそろ壊れてしまいそうだと。
無言な姉様にブルブルと震えながら、カルキノスと一緒に頑張る僕。

夕食の時間になり一旦作業は中止されたが、僕はこの日夜中まで糸の制作に追われた。
カルキノスは寝ちゃって、姉様は魔力切れ。
僕は魔力切れにもならないので、終わるまでやったさ……袋いっぱいな鉱石は一つもなくなり、変わりに糸がどっさりと入りました。

翌朝の姉様の歓喜の声で起こされ無かったら、僕は遅刻していたよ。

リキャムベット服店は王都アルペスピア領に支店ができ、より一層忙しさに拍車をかけた。
王都で黒いドレスを着ている人を見かけるようになり、黒い色への嫌悪感が薄れて来ているんだとホッとした。まぁ、相変わらず青と白は人気があるけれどもね。

「段々、気温が下がってきたなぁ」

〈まだ安定していないのだろう〉

「そうだね。もう少しかな」

〈イピリアならもう少し詳しく分かるよ〉

「そうだね……早く」

「会いたい」という言葉を飲み込んだ。僕がこの世界に手を加えたせいで、イピリアが今僕の側にいないのだから。
僕が「会いたい」と言っては駄目な気がする。

カルキノスを抱っこする手に力が入った。
世界が変わってきている。僕が手を加えたから。さわりさわりと胸騒ぎがして落ち着かない。
変化に不安はある。でも僕は、この世界を終わらせる事は出来ない。
皆と離れたくもないし、元々終わりが来るのを待つタイプでもない。
仕込みはしたんだ……もう一つの願いも叶えて貰わなきゃ。

「先が大変だなぁ」

〈自業自得でしょ〉

「優しい言葉はでないのかな、カルキノス」

〈自業自得だよね 僕達はそんなお願いしてないもん〉

「……あれ? もしかして、僕に怒っているの?」

〈怒ることじゃないよ 主の願いなんだから〉

「聖獣ってなんだろうね」

この問いかけには、誰も返事をしなかった。
今はまだ、何も出来ないから……その時を待つ。待つのは嫌いじゃ無いんだ。
きっとその待つ時間も大事な時間だからね。

「今日も帰ったら糸の制作かぁ」

〈やることが多いよぉ〉

〈仕方が無いだろう 我には出来ないことだしな〉

「アクリスにはポーションを届けて貰おっかなー」

〈やることを増やすのではなく そろそろ減らしたらどうなのだ〉

「全然減らないんだよぉ……」

〈すぐ増やす〉

「あれもこれもやりたいんだもん!」

やれやれといった視線を送ってくるアクリス。
僕はいろんなことをやってみたいお年頃なのです。

【精神年齢はおじじなはずなのにね】

カ、カルキノス? 僕今ちゃんと子供だよ?

【おじじ】

何故か恥ずかしくなる呼び方だ。
僕は今、中身も子供なのだよ。

【おじじ 今度ジールフィアをおじじって呼ぼうかなぁ】

カルキノスさ、おじじって言いたいだけでしょ。

【おじじって可愛い】

いや、そういってクフクフ笑っているカルキノスが可愛いよ。

【僕 可愛い】

小悪魔なカルキノスも可愛いです。
今日も〈平和だな〉

「アクリスに取られた……」

〈言ってみたかったのだ はっはっは〉

今日もまだ二匹な聖獣達だけれど、僕も世界も平和です。
イピリアが帰ってきたら、たっぷりと可愛がろう。

「今日も学園でのんびり過ごそうね~」

こうしてイピリアがいない日々を過ごしていくうちに、僕は一学年上に上がった。
イピリアが戻って来た時には、新しい制服を着るようになっていた。

そして、お爺様がお兄様を王太子と公表した――


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